■ヒット曲を生み出す<魔術>の完成 〜Mercury / Philips 時代 1966年、Jerry Ross はニューヨークにあるメジャー会社 Mercury のプロデューサー、Shelby Shigleton に誘われて同社の専属プロデューサーとして契約を結びます。そこで、シカゴの名門グループ、The Impressions のボーカリストであった 大物 Jerry Butler のプロデュースを担当、" Mr. Dream Merchant " をヒットに導き出すことに成功します。その他、Mercury で Bobby Hebb の " Sunny ", Jay & The Techniques, Keith, Spanky & Our Gang 等を手掛けていずれも成功を納めます。それはこれまでフィラデルフィアで培ってきたノウハウの蓄積であり、彼の才能がここで花開くことになります。 ・Jerry Butler
The Iceman の異名を持つ Jerry Butler は1939年、ミシシッピ州デルタに生まれました。 Jerry Butler は、Curtis Mayfield らと組んでいた Roosters を1958年に Jerry Butler and The Impressions と名前を変え、Jerry Butler が歌う " For Your Precious Love " がヒット、その後 The Impressions はシカゴを代表するボーカル・グループとなりました。それから、Jerry Butler はグループを抜けて独立、Vee-Jay レーベルを経て、1966年、Mercury Records に参加。Jerry Ross がプロデュースを担当し、当時、新鋭作家であった Dennis Lambert らが書いた " I Dig You Baby " が R&B チャートで8位まで上がるヒットになります。翌年 Larry Weiss と Jerry Ross が共作した " Mr. Dream Merchant " は R&B チャートのみならず、Pop チャートにも上がってくるヒットにつながりました。 当時の主要スタッフに、アレンジ Jimmy Wisner, Joe Renzetti, キーボード Artie Butler らの名前を見つけることができます。珍しいところでは1967年に Jerry Butler 自身が書いた " (Nobody Ever Loved Anybody) The Way I Love You " では若き Richard Tee がアレンジを担当しています。 その後、Jerry Butler のプロデュース・ワークは Jerry Ross から 弟子筋にあたる Kenny Gamble-Leon Huff コンビに移り、1970年までその体制が続くことになります。Kenny Gamble-Leon Huff はこれまで Jerry Ross の下で培ってきたノウハウや人材をうまく生かしていきます。その主要なミュージシャンにはギターリストに Roland Chambers, Bobby Eli,ベースに Norman Harris, キーボードに Bobby Martin に Thom Bell といった面々。 彼らは次の時代のフィラデルフィア・ソウルの担い手であり、まさにここから 70年代に華開くフィリー・ソウルが生まれようとしていたのです。
・Bobby Hebb Bobby Hebb は1939年ナッシュビル生まれ。Jerry Ross のプロデュースの下、Bobby Hebb 自身が書いた " Sunny " は全米のみならず、日本国内でもよく知られる曲でスマッシュ・ヒットとなりました。1966年には彼の唯一のアルバム『Sunny』をリリース。白人中産階級のマーケットを意識してジャケットは笑顔の白人女性を使ったものになりました。Barry Mann-Cynthia Weil の " Good Good Lovin " も取り上げていますが、ここで特筆すべきは、アレンジを担当した Joe Renzetti の洗練されたセンス。その Joe Renzetti はこのアルバムでアレンジ以外に2曲 Jerry Ross と共作しています。
・Jay & The Techniques アレンタウンで結成されたグループで、黒人リードシンガー、Jay Proctor を中心に Karl Landis, Ronnie Goosly, John Walsh, George Lloyd, Chuck Crowl, Dante Dancho の黒人白人混合の7人グループ。1967年に Morris Irby が書いた " Apples, Peaches, Pumpkin Pie " がトップ10に入るヒット。次に The Four Seasons によく曲を提供していた、Sandy Linzer-Denny Randell を起用して、" Keep the Ball Rollin' " をリリース。その後も食べ物シリーズ第2弾!、" Strawberry Shortcake " と次々とリリースしました。いずれもスピード感いっぱい、元気が出てくる良質なソウル・ポップ。 1967年に『Apples, Peaches, Pumpkin Pie』、1968年に『Love,Lost And Found』というアルバムを出しています。特に1968年にリリースした『Love,Lost And Found』には良質な楽曲が多く含まれており、新鋭作曲家 Dennis Lambert が書いた揺れるようなグルーヴが印象的な " Don't Let It Go To Your Head " 、The Dreamlovers のカバーにあたる " If I Shoud Lose You " はオリジナル曲よりもぐっと洗練されたスタイルで聴かせてくれます。その他、 Jerry Ross とブリル・ビルディング出身の作家である Mort Shuman の共作曲が2曲程。ここでも Joe Renzetti、 Jimmy Wisner という2人の優れたアレンジャーの力量によるところも大きいと考えられます。 1995年に Mercury から出たリイシュー『The Best of Jay and the Techniques』には、あまり聴くことができなかった後期に発表したシングルも収録。
・Keith Keith は本名を James Barry Keefer といい、1949年フィラデルフィア生まれの白人シンガー。ソロ・デビュー以前に Keith and the Admirations というグループを組んで活動していましたが、Jerry Ross に見出され、Mercury から Toni Powers-George Fishoff チームの曲、" Ain't Gonna Lie " でソロ・デビュー。翌年にはこの同じチームの曲、" 98.6 " をリリース。たちまち全米に広がるヒットとなりました。Jerry Ross プロデュースの下、1966年、1967年に2枚のアルバムをリリース。いずれも質の高い楽曲で埋め尽くされています。特に作家陣でアルドン系の作詩家 Toni Powers や Carole Bayer Sager と組んだ George Fishoff が書く爽やかなメロディーラインが印象的。Denny Randell-Sandy Linzer が書いた " Sugar Man " は、Bo Diddley スタイルの曲で、山下達郎さんの " ドーナツ・ソング " を思い出してしまいます。 その他、Mark Barkan, Chris Andrews, Kenny Gamble らが曲を寄せています。Keith は Jerry Ross が手掛けたソフト・サウンディング・ミュージックの代表選手といっていいでしょう。
・Spanky & Our Gang Spanky & Our Gang はシカゴのグループ。結成された当時は4人組でしたが、その後メンバー・チェンジがあり、Oz Bach が脱退して Malcolm Hale, Nigel Pickering, John Seiter, Kenny Hodges, Lefty Baker そして 紅一点のボーカル Elaine "Spanky" McFarlane の6人組になりました。Jerry Ross は彼らのファースト・アルバムを担当。 George Fishoff-Toni Powers が書いた晴れやかなポップス、" Lazy Day " を始め、彼らの優れたハーモニー・コーラスを生かした曲が並びます。ここでは常連アレンジャー、Joe Renzetti, Jimmy Wisner に加え、ジャズ・フィールドで活動していた Bob Dorough と Stuart Scharf を起用。サウンドはよりモダンで落ち着いたものとなりました。Spanky & Our Gang の2枚目以降のアルバムのプロデュースは、Jerry Ross からこの Bob Dorough と Stuart Scharf の2人が引き継ぐことになります。
・Dee Dee Warwick Dionne Warwick の5つ下の妹、Dee Dee Warwick 。幼い時から姉達といっしょにゴスペルを歌っていたようです。1963年には Jerry Leiber-Mike Stoller のプロデュースにより " You're No Good " を吹込んでいます。その後1966年に Jerry Ross-Kenny Gamble が共作した " I'm Gonna Make You Love Me " を録音。オリジナルであるこの Dee Dee Warwick のバージョンはさほど有名にはならなかったのですが、後に Motown の The Supremes と The Temptations がこのナンバーを取り上げ、ヒットチャートに押し上げました。それからも " I'm Gonna Make You Love Me " をカバーするミュージシャンが後を絶えず、ソウル・クラシックに燦然と輝く1曲となりました。 ・Les McCann Ltd. Ross は Mercury の傘下のジャズレーベル Limelight で、ジャズ・ピアニスト Les McCann のアルバムを2枚プロデュースしています。1枚目『Les McCann Plays The Hits』はその名の通り、Ross が手掛けた Bobby Hebb " Sunny " や Burt Bacharach " Message To Michael " などを演奏しています。2枚目『Bucket O' Grease』は Jimmy Caster のご機嫌な " Hey Leroy, Your Mama's Callin' You ", Mongo Santamaria で有名な Harbie Hancock が作った " Watermelon Man " などラテンや Boogaloo ナンバーを演奏、全編に手拍子が入った楽しいパーティー・アルバムに仕上がっています。「ピンクパンサーのテーマ」で有名なサックス・プレーヤー、Plas Johonson も参加。
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