芸術も暴力も、喜びも嘆きも、夢も徒労も、その全てを深い陰影としてたたえて、そこにいるすべての人々の人生までもぎゅっと凝縮して包み込んだ小さくて大きな街、それがニューヨーク、それがマンハッタン。初めてニューヨークを訪れたときに見た憧れのニューヨークの風景はなぜか想像よりも悲しげに見えたものでした。せわしく走るタクシーや行き交う様々な肌の色、ブロードウェイのきらびやかなネオン。
 しかし、そうした華やかな街の緊張感が私にはどこかつかみどころのない寂寞とした風景に見えていたし、言いようもない焦燥にかられてもいたのでした。そんなニューヨークの焦燥感を最も象徴的に表現していたのが、ニューヨークの女性シンガー・ソングライター Laura Nyro でした。
 Laura Nyro の張り詰めた、それでいて呟くような歌声は清濁併せ呑んだようなニューヨークの深い陰影そのものを感じさせてくれます。Laura Nyro の歌に私はニューヨークの凝縮された空気を感じます。
 地方出身者の私は東京という街で孤独と疎外感を感じるようなとき決まって Laura Nyro の歌声に癒されてきました。Laura Nyro は私にとって常に大事なミュージシャンであり続けてきたし、彼女の歌に出会えたことは私にとってとても意義深いことでした。
 このたび "Circus Town" の開設にあたりまず取上げたかったのは彼女のことでした。深い敬意と感謝の気持ちをどれだけ表現できるか心許ないのですがつたないながら彼女の残して来た足跡をたどることで彼女への謝辞にしたいと思います。

脇元和征

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