2020.05.29 - Magic Voice | ||
Till I Met You
Eileen Wilson (1950) |
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Magic Voicesシリーズ、
今回は Eileen Wilson という女性シンガーを取り上げます。
以前、この Magic Voicesシリーズ で"ハリウッドの影の声" として、Marni Nixon のことを取り上げました。今回はもう1人、"ハリウッドの影の声" として歌ってきた女性ボーカルリスト、Eileen Wilson に焦点を当ててみたいと思います。
Eileen Wilson こと Everett Washington は1923年、カリフォルニア州サンディエゴで生まれています。大学で音楽を学び、この頃に名前を Eileen Wilson に名前を変え、ロサンゼルスのローカルラジオ局で歌うようになりました。1940年代中期、Eileen Wilson はその美声を買われ、Les Brown 楽団の女性ボーカリストとして活動、数枚シングルを残しました。
1950年に Eileen Wilson はフルート奏者で作曲家の Meredith Willson に声をかけられ、1枚のシングルレコードをリリースします。楽曲のタイトルは "Till I Met You" でした。Meredith Willson が吹くフルートの音色も聴こえます。
Till I Met You(Meredith Willson) / Meredith Willson And His Orchestra and Eileen Wilson(1950)
作曲家の Meredith Willson は後の1957年にミュージカル『The Music Man』を制作、ブロードウェイで上演します。この "Till I Met You" をタイトル "Till There Was You" に変えて、ミュージカル『The Music Man』のミュージックレパートリーに加えます。このミュージカルは1962年に映画化され、その映画ではシャーリー・ジョーンズ(Shirley Jones)が歌いました。
1963年に The Beatles がこの曲をアルバム『With the Beatles』で取り上げることになります。この曲は The Beatles が歌った唯一のブロードウェイミュージカル曲として紹介されることが多いですが、元々は Eileen Wilson が歌った曲でした。
1948年、Eileen Wilson は当時の人気ラジオ番組『Your Hit Parade』にレギュラー出演するようになります。同じくレギュラー出演者にはフランク・シナトラ(Frank Sinatra)がいました。2人は一緒に歌うことが多く、意気投合します。この『Your Hit Parade』は1950年以降はテレビでオンエア。Eileen Wilson はブラウン管にも登場するようになります。
遡って1940年代後期頃、Eileen Wilson に女優の歌声をアテる仕事のオファーが来るようになります。まずエヴァ・ガードナー(Ava Gardner)が出演した3本の作品で、エヴァ・ガードナーの歌うシーンで声をアテました。偶然にも Eileen Wilson とラジオ番組等の同僚だったフランク・シナトラはそのエヴァ・ガードナーと1951年に結婚します。
1948年の映画『ワーズ&ミュージック』(WORDS AND MUSIC)のシド・チャリシー(Cyd Charisse)の声アテも行いました。1950年以降も歌に今ひとつ自信のない女優達の声をアテるようになります。映画『紳士は金髪がお好き』(GENTLEMEN PREFER BLONDES、1953)のジェーン・ラッセル(Jane Russell)。映画『女はそれを我慢できない』(THE GIRL CAN'T HELP IT、1956)のジェーン・マンスフィールド(Jayne Mansfield)。映画『5つの銅貨』(THE FIVE PENNIES、1959)のバーバラ・ベル・ゲデス(Barbara Bel Geddes)。映画『フランキーandジョニー 』(FRANKIE AND JOHNNY、1966)のドナ・ダグラス(Donna Douglas)等々です。長らくハリウッドで仕事をした Eileen Wilson は2018年に亡くなりました。
以下、ハリウッド女優のために Eileen Wilson が歌声をアテた作品を中心に聴いていきたいと思います。
It's A Lovely Day Today(Irving Berlin)/ Eileen Wilson and Dick Haymes(1950)
Eileen Wilson が歌声をアテた映画作品を聴く前に、Eileen Wilson が1950年に出演したミュージカル『Call Me Madam』から1曲、聴いてみたいと思います。ミュージカル『Call Me Madam』の初演時の主役はエセル・マーマン(Ethel Merman)で、Eileen Wilson はその時にキャスティングされています。同じく出演したディック・ヘイムズ(Dick Haymes)と歌った "It's A Lovely Day Today" は当時、シングルリリースされ、後に人気曲となります。ミュージカル『Call Me Madam』は1953年にエセル・マーマン主演で映画化されます。
Speak Low(Kurt Weill-Ogden Nash) From "ONE TOUCH OF VENUS" / Ava Gardner(dubbed by Eileen Wilson) and Dick Haymes(1948)
1948年の映画『ヴィナスの接吻』(ONE TOUCH OF VENUS)から。キッスしたヴィナス像(エヴァ・ガードナー)が突然動き出すファンタジックコメディ映画。音楽はドイツ出身の Kurt Weill。デュエットしているディック・ヘイムズとは先に登場したミュージカル『Call Me Madam』で共演することになります。
Don't Tell Me(Buddy Pepper) From "THE HUCKSTERS" / Ava Gardner(Dubbed by Eileen Wilson)(1947)
1947年の映画『自信売ります』(THE HUCKSTERS)から。主演はクラーク・ゲイブル(Clark Gable)、デボラ・カー(Deborah Kerr)で、歌手役のエヴァ・ガードナーの歌声を Eileen Wilson がアテました。これが好評で続く2作品で、エヴァ・ガードナーの歌声をアテることになります。
Situation Wanted(Nacio Herb Brown-William Katz) From "THE BRIBE"/ Ava Gardner(Dubbed by Eileen Wilson)(1949)
1949年の映画『賄賂』(THE BRIBE)から。曲を書いたのはミュージカル黎明期から活躍してきた Nacio Herb Brown。Eileen Wilson がエヴァ・ガードナーの歌声をアテたのはここまでで、エヴァ・ガードナーの代表作である映画『ショウ・ボート』(Show Boat、(1951)では、Annette Warren という女性ボーカリストがアテることになります。エヴァ・ガードナーは1951年にフランク・シナトラと結婚することになりますが、ラジオ番組で同僚だった Eileen Wilson が間を取り持ったのかもしれません(笑顔)。
On Your Toes(Richard Rodgers-Lorenz Hart) From "WORDS AND MUSIC" / Cyd Charisse(dubbed by Eileen Wilson) and Dee Turnell(1948)
1948年の映画『ワーズ&ミュージック』(WORDS AND MUSIC)のシド・チャリシー(Cyd Charisse)の声アテも行いました。まだ駆け出しの頃のシド・チャリシー(右側)ですが、後半部に素晴らしいバレエを披露しています。これもご堪能ください。
Two little Girls From Little Rock(Jule Styne-Leo Robin) From "GENTLEMEN PREFER BLONDES" / Marilyn Monroe & Jane Russell(dubbed by Eileen Wilson)(1953)
1953年の映画『紳士は金髪がお好き』(GENTLEMEN PREFER BLONDES)のジェーン・ラッセル(Jane Russell)の歌声をアテています。マリリン・モンロー(Marilyn Monroe)の方は自分の声で歌っています。
Ev'rytime( Mel Leven-Tony Iavello) From "THE GIRL CAN'T HELP IT" / Jayne Mansfield (dubbed by Eileen Wilson)(1956)
1956年の映画『女はそれを我慢できない』(THE GIRL CAN'T HELP IT)のジェーン・マンスフィールド(Jayne Mansfield)の歌声アテです。演奏は Ray Anthony の楽団です。Eileen Wilson は妖艶な女優の声が得意だったようです。
Lullabye in Ragtime-Goodnight Sleeptight(Sylvia Fine) / Danny Kaye & Barbara Bel Geddes(dubbed by Eileen Wilson)(1959)
Medley: The Five Pennies Finale/Battle Hymn Of The Republic Finale / Eileen Wilson(1959)
映画『5つの銅貨』(THE FIVE PENNIES)の主人公の奥様役、バーバラ・ベル・ゲデス(Barbara Bel Geddes)の歌声をアテました。ダニー・ケイ(Danny Kaye)演じる Red Nichols の楽団が地方巡業のバスの中で歌われる2つの子守歌の重唱です。曲を書いたのはダニー・ケイの実際の奥さんの Sylvia Fine。当時シングルがリリースされましたが、クレジットには Eileen Wilson の名前が記載されています。"The Five Pennies Finale"では家族がまた1つになり、泣きながら歌いました。
* 写真は Eileen Wilson と Frank Sinatra