達郎書き起こしプロジェクト by ロック軍曹とサーカスタウン1999/01/10 Sunday Song Book「新春対談 Part 2(ゲスト:大瀧詠一)」
山下達郎/パレード                       1976『Niagara Triangle Vol.1』
市川実和子/ポップスター(カラオケ)       1998 Single c/w「ポップスター」
はっぴいえんど/空色のくれよん(一部)     1971『風街ろまん』
大滝詠一/FUN×4(最後の部分)             1981『A LONG VACATION』
内容の一部
・ツアー。12(Thu),13(Wed)は福岡サンパレス(伝説ライブ以来約1年ぶり)
 16(Sat),17(Sun)はNHKホール(ここは初めて)。
以下、放談内容の抜粋。印象に残った箇所のみ列挙します。書き起こしでなく、
(これでも)要約してます。
・ベルトの穴
  達:去年より頬がふくよかになりましたね。
  詠:レコーディングを始めて、さあこれからやるぞとなると、ベルトの穴が
     3つぐらい締まるんだよ。自分で調節できるんだ。去年も3個ぐらい中
     に入った。で、やらないと決めると元に戻るんだよ。
  達:去年は「幸せな結末」直後でしたからね。今年は本来のいつもの大滝さ
     んの顔ですよ。去年はこけてて身体の具合が悪いのかと思いました。
  詠:去年は入り込んでたからね。よくないね、ああいうのは。
  達:ワハハハハ(笑)。
  詠:歌うっていうのは全面に立つ事でしょ、いやが応でも。表に立つ事と裏
     方やることはまるっきり違う。わかるでしょ?磁場が全然違う。表に出
     る時に裏の顔でやると絶対失敗する。逆もそう。だから格闘技の人が何ヵ
     月山籠りして一点に集中するのは普段からやっている訳じゃないでしょ。
     そういうことが必要で、一旦あっちの国に行ってたんですよ。
・「ポップスター」のカラオケ
  達:「ポップスター」は「幸せな結末」と同じプロジェクトですか。
  詠:そう。市川さんがポスターに使われたってことで、後日談というか、打
     ち上げのようなもんですかね。
  達:大滝さんが自分で編曲してリズムセクション取ったものでは初めてカラ
     オケをCD化したんじゃないですか?
  詠:純カラオケじゃないですが(笑)。テイクは一緒だけど、ミックスが違う。
     評判が良くて、カラオケが良いというのも問題あるけど(笑)。
  達:ギターは左が(鈴木)茂で、真中が徳ちゃん(徳武弘文)、右が村松(邦男)。
  詠:ただ、アコースティックギターだけオリジナルでは外した。
     以前、アナログでは77年に「あなたが唄うナイアガラ音頭」というのを
     シングルのB面で出したら、手を抜いたって非難されたんだけど(笑)。
     なんでカラオケ付けないのって言われるけど、俺は最初から付けてたん
     だって。あなたじゃないけど、トラウマだよトラウマ。
  達:これは久しぶりに僕の中の大滝さんのイメージで、『ナイアガラ・ムー
     ン』の頃と変わっていない。全然大丈夫ですよ。だからこの間、朝妻(一
     郎)さんが『この勢いでアルバム作ればいいのに』と。
  詠:勢いで作ってんじゃないんだよ俺は。実力でやってるだけで。勢いで作っ
     ているのは素人の内なんだよ。長年言ってんじゃないの。
  達:どうやったら作ってもらえるだろうって、みんなね、言ってるんですよ。
  詠:もらえるっていう種類のもんじゃないでしょう(笑)。
  達:だってビジネス絡んでるんだから。
  詠:向こうはね。でも俺は何にも絡んでないんだよ(笑)。
  達:最高だね(笑)。
  詠:なんでえ?もう飽きたよ、くたびれたよ(笑)。
・作家的衝動
  達:でも曲書く意志はあるじゃないですか。
  詠:頼まれればね。頼まれないと出来ないんだよ。
  達:それはそうですね。無から曲書けったってダメですよね。
  詠:去年は頼まれたんだよ。それまでは全く頼みに来ないんだもの、自慢
     じゃないけど。何でわかんないんだろう? 大家になるとどっさり注文が
     殺到したりすると思っているだろう?
     でも、評論家どもが一局集中の是非とか遷都論とかいろいろ言いながら
     現実は変わらないのに、集中を排除しようとして隔月とかにすると今度
     は何でやらないのと言われる。
  達:作家的衝動というのは、「さあ作るぞ」とか霊感とかで作家は作ってい
     ると思われていますね。そんなことで出来る訳ない。何か物を見るとか、
     CMにするとか、アイドルにこういう曲を書くとか、具体性が一かけらも
     ない作曲ってないですよ。すべての創作の衝動ってそうなんじゃないで
     すか?
  詠:芸術っていうものを明治の頃に輸入し、堅苦しい捉え方をしたまんま100
     何十年ずっとそのままなんだよ。いい加減に明治からの呪縛から逃れよ
     うとするために、分母分子論から普動説から語ってるんだけど。がんじ
     がらめなんだよ。
  達:毎年アルバムを出してツアーをやるっていうPop Musicの一番凄い形……
  詠:それもここ十何年でしょ?そんな昔の人が何枚もアルバムなんて。
     ヒット曲がある人しかアルバムなんて作れなかったんだから。
  達:御三家とかシングルは売れたけど、アルバムなんて。4 Seasonsなんて
     アルバムはシングルの添え物。
  詠:アメリカだってDoorsやMoby Grapeがアルバムデビューした67年頃からだ
     し、アルバムが中心になったのももっと後。日本だって80年以降だし。
     そういうものが定型化したこと自体、考えるべきだよ。
  達:でも昔からあったって思うじゃないですか。
  詠:高々20年だよ。
  達:最近じゃアナログ盤があったってことも判らなくなりつつあるという。
  詠:いいんだよ判んなくたって(笑)。最近こればっかり(笑)。
・リスナーからの進呈品その1。
  多賀城市(九州じゃないですよ、宮城ですよ)の佐藤勝さんからの、
  ナイアガラとケゴンのロゴのステッカー。
  達:これ、車に貼ります。
  詠:この人が作ってナイアガラで売る分には問題ないんだ。
     委細面談ということで(笑)。
・リスナーからの進呈品その2。
  松本市の青木よう子さんからの、
  3歳半になる娘さんが大滝さんの歌を唄っている姿を一目大滝さんに見て頂
  きたいが為に送られたビデオテープ。
  詠:これ、見なきゃいけないんですね(笑)。
  達:渡しましたから、後は知りません。
・リスナーの質問(大和市のくもり空さん)
  達:「茶化さずに真面目に答えて下さい」だって。果たし合いだね(笑)
  Q1:兄弟は居ますか?
  詠:山下君と同じく一人っ子です。
  Q2:作曲する時、何か楽器を使いますか?
  詠:基本的には何もなし。構想では何も使わない。
  達:構想は大滝さんに取っては重要なファクターです。
  詠:よく構想だけで企画倒れっていつも言われるけど(笑)。
  Q3:「空飛ぶくじら」でピアノ、クラリネットを弾いている人は?
  詠:だれだっけ?
  達:あれはDixieland Jazz風味を目指したんですか?
  詠:Jimmy Rodgersを聞いていたんですよ。
  達:Western Swingね。
  詠:「朝寝坊」でヨーデルを研究しててね。
     そう言えば野音で「空いろのくれよん」を初めてやった時に、ヨーデル
     の所で「よっ、ウィリー沖山」って声がかかったのは好きだなあ。
     いやあ、いい時代だったよ。君んとこも良く声がかかるよね。
  達:ろくな事を言われない。親父ばっかりですからね。
     大滝さんだってライブやれば同じのりですよ、きっと。
     ベルウッドのソロを出す頃って、スタイル的好奇心があったんですか?
  詠:うん。あまり聞いた事がない音楽だったんですよ。Pops聞いて来て。
     Baffaro Springfieldとかカントリーロックが流行していた時に本物のカ
     ントリー、Don Gibsonとか聞いてなかったからね。Johnny Tillotsonとか
     ポップカントリーは聞いていたけれど。Hank Williamsの'Long Gone
     Lonesome Blues'とか聞いてJimmy Rodgersまで行って、サッチモがバック
     で吹いているのを聞いて、あああるほどと思って、クラリネットとか使っ
     たりした。
・カバーとオリジナル
  達:素朴な疑問ですが、大滝さんはカバーのレコードを出さなかったですね。
  詠:番組やコンサートではやっているけど、オリジナルアルバムとしてはね。
     向いていないんだよ。なんかダメだね(笑)。
     君のメドレーは円熟に達しているね。いつものを聞きたいって人もいる
     だろうけど、主義主張も込められているし、娯楽性もあるし、あれがコ
     ンサートの一番の楽しみなんだよね。
  達:年のせいか、唄っててつまんない歌は歌ってもしょうがないじゃないで
     すか。自分のオリジナルでも歌っててちっとも面白くない歌とかあって
     ね。そういうのってやる気がなくて。
  詠:君は『On The Street Corner』とかあるけれど、最近はコンサートの中
     でもカバーをやることが少ないというのがおかしいよ。オリジナルとい
     うと聞こえがいいけど、ビジネス優先しすぎだよ。
  達:自分史さえプロモーションですからね。みんな若い娘に教えるんですよ。
     Janisを聞いて感動したとか、Zepが凄かったとか。今の20〜30代がJanis
     の訳ないじゃないですか。
  詠:あれは70年代しか意味ないからね。
  達:どうしてオフコースとか永ちゃんとかサザンとか素直に言えないのか?
     それでいいんじゃないかなって。
  詠:だから僕等もみんなBeatlesって、嘘つけって。みんな橋幸夫と船木和夫
     を聞いてたんじゃないのよ。
  達:僕は三波春夫さん本当にいいと思ったから。
  詠:どう聞いてもそうだもん(笑)。
  達:その話はあとにしましょう(笑)。
・リスナーの質問の続き
  Q4:福生スタジオで録音していた頃、ミュージシャンは電車でスタジオに来
     たのですか?車ですか?車の人はどこに駐車したのでしょう?
  詠:君は電車の時と車の時があってね、電車の時、立川まで来たのに帰った
     ことがあったしさ(笑)。
  達:熱があったんですよ。特別快速に乗ってだんだん具合が悪くなって、途
     中で帰ったんです(笑)。
  Q5:福生スタジオの食事、泊り込みの風呂、寝場所はどうしたんですか?
  達:ちゃんとあんだよ、そこに。
・手拍子と奇声
  Q6:「Fun×4」で演奏終了後、「お手を拝借」「よくやった大滝」「アンコー
     ルアンコール」と言っている人は誰でしょうか?
  詠:「お手を拝借」と「アンコール」の1回目は俺。まあ、偶然だからね。
     「ナイアガラ音頭」も「ココナツ・ホリデイ」も一発録りだしね。
     でも、俺が言っているんだからある程度意図的なんだけど。
  達:大滝さんはこういうの好きだよね。
  詠:基本的に日本の歌は手拍子と独唱だと考えている。
  達:最後に必ず騒ぐのが。それがないアルバムって一枚もないでしょ。
  詠:君だって(笑)。「Fussa Strut」の出だしから大声出してんのは君なんだ
     から。とにかくコーラスの前はうるさいんだよ。俺もそうだからわかるけ
     ど、シーンとするのがいやだから。他の奴等が固いから笑わそうとし
     て、そのタイミングで合図無しに始めるといういつものパターン。レコー
     ディングテクニックの一つ。
  達:あそこで、本性でますね。「Sugar」で10人いましたが「ウー」とか「アー」
     と言って。で、布谷さんが何で「ユルシテーナ、ユルシテーナ」なんだ
     かよくわからない(笑)。
  詠:あの人細かい芸するから。細かすぎてよくわかんないんだよね。計画し
     てきてるんだよ。俺より変わっているよ。
  達:今度の実和子さんのアルバムでも絶対ありますね。
  詠:奇声が好きなんだなあ。最初っから最後まで「オー」って言ってるアメ
     リカのレコードとか。
  達:今度そういうの持ってきましょうよ。
・三波春夫とエンターテイメント
  Q7:ナイアガラ以降の山下作品で好きなのを3つ。
  詠:「Ride On Time」「クリスマス・イブ」「ヘロン」。「クリスマス・イ
     ブ」は「東京五輪音頭」なんだよ。次待たれるのは「世界の国からこん
     にちわ」。そういう公共性、「皆さんいかがでしょうか」という意味合
     いの三波春夫との共通項もある。一見個的に見えるテーマで幅広いとい
     う意味から「東京五輪音頭」なんだよ。今回つくづくそう思った。
  達:ありますね。観客に奉仕するというスタンスは三波さんがなかったらな
     いですね。飽く無き奉仕の精神。「お客様は神様です」とまで平気で言っ
     てのける。あれは自信がなかったら出来ないんですよ。
  詠:やっぱりエンターテイメントの本質、それは戦前からの浪曲や芸能の基
     本の訳だから、見事それを脈々と受け継いだということだからね。
  達:日本のロックってそれのアンチテーゼだから、媚びらないっていうのは。
・上岡龍太郎氏
  達:高田文夫さんのラインの先に上岡龍太郎さんが居て、この間のフェスティ
     バルホールに見えたんですよ。桂雀々さんという知り合いの上方の落語家
     の紹介で。その伏線というのが、大滝さんと電話したら、上岡さんは山
     下は浪曲のフシがあると…
  詠:見抜いて。やっぱり芸能を極めた人というのはわかるんだね。
  達:それをまた大滝さんに聞いたという。
  詠:彼は僕と君の関係を知らないんです。それがどういう話の流れで「誰も
     信じてもらえないのですけど」と切り出して、「やあ、そうなんですよ」
     と答えると「やっぱり!そうですか!」と膝を打って(笑)。
  達:上岡さんが見に来る時代になったのかと感慨無量ですね。
  詠:講談が野球中継に行ったりとか、いろいろ形を変えて行っている。中身
     の精神を維持するのか形を維持するのかってことになる。以前に大衆に
     愛されたものが形を変えて脈々残っているが、形が違うから判りにくい。
     君は三波春夫だけじゃなくてラスカルズとかイタリアの流れを受け継いで
     るし、前から言っているけど。僕の場合はElvisと片岡千恵蔵と柳亭痴楽
     なんだよね、どういう訳だか。
  達:20歳の頃、大滝さんに教えてもらったものが有機的に絡んで来ている。
  詠:あなたは最初からあった。70'sというのは出ないようにしてきた訳で。
  達:でもRock'n'Rollと落語って全然別のものとして自分の中にあるじゃない
     ですか。でもMCとかは話芸でしかないっていうのは30過ぎてから判る。
・「2001年ナイアガラの旅」
  達:御時世なんですが、裏技のリクエストが多いです。「ラストダンスはヘ
     イジュード」の大滝バージョンは?
  詠:ないね。
  達:「ポップスター」の大滝バージョンは?
  詠:あるけどないね(笑)。いままでフリーでパブリックドメインでやってき
     たから、課金する。
  達:その別バージョン集をまとめて、Boxで出すんですか?
  詠:いつか出るでしょう(笑)。2001年には新作と同時に。
  達:『Black Book』は?
  詠:出ますよ、出てないの?2001年に全部出しますよ。
  達:モノリスですね(笑)。『悲しき夏バテ』はリイシューしないんですか?
  詠:今年も企画段階に出て来るでしょう。ボーナストラックもありますよ。
     権利はポリドールです。今世紀中に出さないと。21世紀向きじゃないの
     よ(笑)。マニア的には面白いですよ。一般の人は買わないで下さい。
  達:「颱風」ってシングルバージョンありますね。
  詠:あれって歴史的意義が判った。ラジオ番組(→日本ポップス伝2)を聞い
     て。でも時間がなくて全部言えなかったけど。「ナイアガラ音頭」って
     何なのかようやく判ったよ(笑)。作ってみるもんだよ。今も判るような
     ことはやりたくないっていうか、なんなんだろうなっていうことならや
     れそうな気がするんだけど。
今後の予定ですが
・1/17も新春恒例、大滝詠一さんを迎えての「新春放談」
・1/24から「History Of Japanese Rock」再開。
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