達郎書き起こしプロジェクト by ロック軍曹とサーカスタウン

2000/03/12 Sunday Song Book「Curtis Mayfield 追悼特集 Part 1」



Jerry Bulter And The Impressions/For Your Precious Love 1958『For Your Precious Love...』*1
Jerry Bulter/He Will Break Your Heart(He Don't Love You Like I Love You) 1960『He Will Break Your Heart』*2
The Impressions/Gypsy Woman 1961『The Impressions』*3
The Impressions/I'm So Proud 1964『The Never Ending Impressions』*4
The Impressions/People Get Ready 1965『People Get Ready』
Major Lance/The Monkey Time 1963 *5
Gene Chandler/What Now? 1965 *6
The Impressions/We're A Winner 1967『We're A Winner』*7
The Impressions/Choice Of Colors 1969『The Young Mods' Forgotten Story』

*1 The Impressionsのデビュー曲。リードボーカルはJerry Butler。全米11位。
*2 Curtis Mayfield作曲。全米7位。
*3 Curtisがリードで歌った最初のヒット。全米20位、R&Bチャート2位。
*4 全米10位。
*5 Curtis Mayfield作。全米ベスト10ヒット。
*6 Curtis Mayfield作。全米40位。
*7 全米14位。R&Bチャート1位。

一節
He Will Break Your Heart(2回)
Gypsy Woman
I'm So Proud
The Monkey Time

内容の一部(鈎括弧内は達郎氏のコメント)

・業務連絡

竹内まりや新曲、3/31スタートのNHK総合ドラマ(PM9:15〜)「晴れ着、ここ一
番」の主題歌で、タイトル「Dream Seeker」。発売日は未定。

山下達郎新曲、7/15公開予定の映画「ジュブナイル」の主題歌。監督・脚本は
山崎貴(日本で一番優秀なSFXのデザイナー、「パラサイト・イヴ」、「リング/
らせん」など)、香取慎吾主演。公開は先なので、オンエア予定もはるか先。

・特集の内容

昨年12月に57歳で亡くなったCurtis Mayfieldの追悼特集。

1990年8月にコンサートのリハーサル中に照明器具が身体に落下し、半身が不
随になった。実質的に音楽活動が休止を余儀なくされたが、Curtisへのトリビュー
ト・アルバムなどが出来る中で、1996年に遂に自身のアルバムが出た。復調か
と思いきや、昨年末の訃報。

「Curtis Mayfieldは60's、70's、80'sのアメリカを代表するアフリカン・ア
メリカンのアーティスト。2週間に渡って追悼特集を行います。自分が20歳前
後の時によく聞いていましたが、その頃はまさかCurtisの特集を電波に乗せら
れる日が来るとは夢に思っていなかった。ある意味で彼の音楽は、音楽的にも
文化的にも日本の歌謡曲などのヒットチューンの価値感から最も遠い存在だっ
た。時代は移り変わり、今や電波に乗せられる世の中になった。特集をやると
言ったら皆さんから沢山のリエクストや葉書を頂き、ありがとうございます。
2週間ではなめる程度しかできませんが、今週はパート1として60年代のボー
カルグループImpressionsのリーダーとしての時代の諸作品をお送りします。」

「Curtis Mayfieldは1942年生まれ。10代は教会でゴスペルグループを作って
歌っていた。ギターは独学。作曲もしていた。ゴスペルグループの友達に
Jerry Butlerという人がいて、この人とバンドを作り、出来たのがThe
Impressions。最初のヒットが1958年の「For Your Precious Love」。その後、
Jerry Bulterはソロになって、それにくっついてCurtisもJerry Butlerのバッ
クでギターを弾き、彼に曲を書いていた。作曲家としての最初の成功作が
Jerry Butlerの1960年のヒット曲「He Will Break Your Heart」。」

「最初にImpressionsが結成された時はJerry Butlerがリードシンガーで5人
組。1960年にはCurtisはまだ10代で、Jerry Butlerも10代。とても10代の声に
は聞こえませんが。「He Will Break Your Heart」は60年代中期にJohnny
Riversで知りました。西城秀樹も郷ひろみも全く何も歌えませんけど、こうい
う曲は知っていると。」

「Curtis Mayfieldの音楽を語るのに欠くことのできない3つの要素がある。
そのまず第1がキリスト教。全ての黒人音楽がキリスト教の深い影響を受けて
いますが、Curtisもお婆さんが牧師さんで、彼も教会で歌っている内にギター
を覚え、作曲を覚え、ボーカルグループ(50年代だから当然Doo Wop)を結成し、
商業的成功を夢見るという当時の10代の少年と同じような系譜であります。」

「Jerry Butlerが抜けたので代わりのメンバーを入れて5人組になった。いろ
んなレーベルから出したがパッとせず、1961年にやっとCurtisがリーダーで歌
う最初のヒットが出る。これも今やR&Bのスタンダードナンバーとなった
「Gypsy Woman」。お聞きの通りCurtisは裏声で歌う人で、裏声のシンガーと
いうのはボーカルグループの中の添え物というようなものであっても、正面切っ
て堂々とリードボーカルを取るというのは、50年代の終わりまではそれ程一般
的な姿ではなかったとの事。そう意味では60年代にそれを革新的に押し進めて
行って、裏声で歌うシンギングの一つの定型を作ったのがCurtis Mayfieldと
Smokey Robinsonだと言われている。」

「5人組のImpressionsはメンバーが抜けて最終的に3人になる。1961年に
Curtis Mayfieldと、Sam GoodenとFred Cashの3人となり、Curtisが60年代終
わりにImpressionsを抜けるまでこのメンバーで継続し、数多くのヒットが生
まれた。1964年にヒットしたのが私の大好きな「I'm So Proud」。」

「初期のImpressionsでのCurtisの作曲は、みんなキーが同じ。「He Will
Break Your Heart」も「Gypsy Woman」も「I'm So Proud」もどれもキーがB。
この時代のCurtisはギターを変則チューニングしていたので、全部キーが同じ
になった訳。」

「Curtisの音楽を語る上で欠かすことの出来ない第2の要素は公民権運動。今
はお若い方がR&Bとかブラックだとか言ってますけど、ほんの30年ぐらい前ま
では南部に行くと、トイレもバスもレストランも学校も全部、黒人と白人は別々
に座らなければならない。場所も別々。1964年に公民権法が設立されるまでは、
黒人に投票権もなかったという事実。黒人の人種差別はつい昨日まであった訳
で、そういう中で大戦後、黒人の地位向上運動というものが活発になり、そう
した中でR&Bやブラックミュージックが台頭していった。それを音楽的に体現
していたのが、James Brownとか沢山いますが、Curtis Mayfieldだということ
ができる。Curtisの音楽に込められた政治性というのは暴力的なものがない。
James Brownや後のSly Stoneといった人達の音楽は非常に攻撃的でアジテーショ
ンに満ちたものだったが、Curtis Mayfieldの音楽はアジテーションがあるん
だけれども、どこかクリスチャニティに裏打ちされた博愛の精神がある。非常
に優しい音楽であり、これがCurtisの最も大きな音楽的特徴の一つである。そ
んなCurtisの音楽で最も公民権運動、黒人の地位向上を歌い上げている一曲が
1965年の、R&B史そしてアメリカ音楽史に燦然と輝く「People Get Ready」。」

「余談ですがThe BandのRobbie Robertsonは、このCurtisのギタースタイルが
とっても好きで、Curtisのギターをコピーする中で、「The Weight」のギター
のイントロとかを自分なりにCurtisのギター手法から取り入れてやったと、う
ちの奥さんには言っていたそうです。非常に納得という発言。「People Get
Ready」の端々に登場するちょっとしたギターのリフも、そうした彼の魅力を
如何なく発揮している。」

「"人々は準備が出来ている。汽車がやってきた。荷物はいらない。ただそれ
に乗り込むだけ。必要なのは、イエスの言葉に耳を傾けること。チケットもい
らない。ただ神に感謝すればいい。"
もう完全に宗教歌。こうした歌がポップソングとしてヒットチャートに昇ると
いう。公民権運動はMartin Luther Kingという有名なリーダーが牧師でしたの
で、キリスト教と不可分。こうした歌の中に当時の公民権運動の思いが込めら
れている。こういう意味でも傑作。」

「始めたのはいいが、Impressionsが55分でやれる訳がない。始めて半分やっ
て後悔しているけど、気は心。いつもそれで逃げていますけど。」

「彼を語る上での3つ目の要素はChicagoという彼のホームタウン。第2次大戦
前はChicagoはJazzの町だった。大戦で五大湖周辺の工業地域に南部から黒人
が労働力としてどんどん上がって来た。そんな中で南部のCountry Bluesが入っ
て来て、ChicagoでUrban Bluesという都市型のブルース構造が生まれる。
Chicago Blues。そして戦後も続いているJazz。それらがカオスの様に50年代
のChicagoでぐちょぐちょになって、そんな中からRhythm & Bluesの流れが出
て来る。Chicago SoundともいうべきChicagoのR&Bの独特な色合いが本当に開
花するのが60年代で、最もそれに深くかかわっていたのが、誰あろうCurtis
Mayfieldであった。数限りないヒットソング、名曲の数々、プロデュースの数々
をやっていた。そんな中からほんの代表作だけ。あまりにも有名なMajor
Lanceのベスト10ヒット「The Monkey Time」、そしてChicagoの60年代4大シン
ガーの一人と言われるGene Chandler、彼もCurtisのプロデュースや作曲でい
ろんなヒットがあるが、その中でも私が大好きな「What Now?」。Gene Chandler
は自身で作曲やプロデュースで作品を残しているが、これはCurtisの曲。」

「アメリカは大きい国なのでChicagoにも沢山レコード会社がある。黒人音楽
を沢山扱ったところとしては、古くはBrunswick, Mercury、そしてインディー
から始まったChess, Checker, Vee-Jey, Constellation, Okeh、沢山あります。
キラ星の如き60年代のRhythm & Blues! 」

「Impressionsの代表曲を聞くとバラード主体になってしまいますので、アッ
プテンポを1曲。「We're A Winner」も公民権運動から始まった政治性の強い
歌、黒人の地位向上を歌った歌。こうした曲をメッセージソングと60年代に呼
ばれるようになった。
"我々は勝利者だ。もう誰にもできないなんて言わせない。夜明けは君の方だ。
もう涙は見せない。我々はもっとずっと上へ上がって行くんだ。"
いかにも上昇志向の歌。当時の政治性を鑑みないと単に普通の上昇志向の歌で
すけど、非常に政治的な歌でもある訳。」

「何度も申しますようにImpressionsの音楽は、60年代の黒人の地位向上運動、
公民権運動と不可分である。1968年にMartin Luther King牧師が暗殺されまし
て、翌年に出た「Choice Of Colors」が私は、Impressionsの公民権運動に対
する、黒人の意識に対する物の考え方を非常に雄弁に表している1曲だと今で
も思っている。これを高校生の時代に、日本でも70年安保が盛んな時代にこの
1曲を毎日FENで聞いていた。歌詞などを聞いているとそうした黒人音楽とい
うものが、音楽を通じてメッセージを出していくことのエネルギーをひしひし
と感じた記憶がある。
"もしあなたが肌の色を選べるとしたら、兄弟たちよ、あなた達は何色を選ぶ
か。もし昼も夜もないとしたら、あなたはどちらが好きか。"
とても重いテーマだが、30年後の今日でも普遍性のあるテーマである。」

・町田市の脇元さんから奥様へのお誕生日メッセージ
がありました。おめでとうございます。

今後の予定ですが

・3/19は「Curtis Mayfield 追悼特集 Part 2」。70年代ソロイヤーズ。
・3/26は「盗作特集」



circustown.net による放送書き起こしです。文責 circustown.net。抜け誤りはお知らせください。


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