達郎書き起こしプロジェクト by ロック軍曹とサーカスタウン2002/2/3 Sunday Song Book「山下達郎 RCA/Air Years 特集」
山下達郎/Loveland, Island 1982『For You』, 2002 Single *1
山下達郎/Circus Town 1976『Circus Town』*1
山下達郎/Love Space 1977『Spacy』*1
山下達郎/スペイス・クラッシュ(Space Crush) 1978『It's A Poppin' Time』*1
山下達郎/ついておいで(Follow Me Along) 1978『Go Ahead!』*1
山下達郎/Rainy Walk 1979『Moonglow』*1
山下達郎/Ride On Time 1980 Single *1,2
山下達郎/Sparkle 1982『For You』*1
*1 2002年デジタルリマスター。
*2 『Ride On Time』リマスター盤ボーナストラック。
内容
・近況
「私、明日が誕生日でして、いよいよ40代最後の誕生日。やだなー、口にしたく
もない。22の時にSugar Babeの『Songs』を出しましたから、プロデビューで今
年で27年目、やだなー。でもお陰様で健康状態はすこぶるいいですし、頭も結構
冴えておりますので、頑張ってやってまいりたいと思います。」
・特集に際して
「かねてからこの番組でずっと申して上げておりますように、2/14に1976年から
82年まで、23歳から29歳まで所属しておりましたRCA/Airレーベル、現BMGファン
ハウスですが、そこに残した7枚のアルバムを待望のデジタルリマスターで再発す
る運びとなりました。LP時代のカタログをCD化する時にはアナログからデジタル
に変えないといけない。デジタルマスタリングといいますが。私のカタログは
80年代中期にデジタルマスタリングされましたが、80年代中期のマスターのまま
で現在でも店頭で売られております。デジタルの技術は日進月歩なので、一刻も
早く現代のデジタルマスタリングをもう一回やって、新しい音にしたいなと思っ
ているんですが、なかなか契約上の問題などで思うにまかせませんでした。つい
に21世紀にずれこんでしまいましたけど、この程めでたくRCA/Airレーベルの7枚
のカタログ全て、来週の2/14、バレンタインデーにやっと再発することができま
した。とにかくどうしても再発したくて、この5年間ぐらいにずーっと交渉して
おりまして、ここ1,2年ちょっとの間にマスタリングをやって、解説書いて、い
ろいろシコシコ重ねておりました。あくまで自分の音楽的欲求で、早く、自分の
子供ですからね、作ったカタログを新しいテクノロジーに乗せてやりたいと思っ
てやってきたんですけれども。あくまで軽い気持ちでやってきたんですけど、今
のBMGファンハウスの宣伝スタッフの方々がだんだん盛り上がってきてまいりま
して、話がだんだん大きくなってきまして(笑)。それに乗っかる形で、3月か
らあの時代のカタログだけのレパートリーでライブをやろうと。"Performance
2002 - Yamashita Tatsuro RCA/Air Years Special"全国32本ライブをやるこ
とになりました。そこで今週来週2週間かけて、久しぶりに私の若い頃のカタロ
グを、駆け足ですがお聞きいただきたいと思います。」
・Circus Town
「まずは23歳、私がソロシンガーとしてのデビュー作です。A面がNY、B面がLAレ
コーディング。思い出深い一枚です。」
「私は二十歳の時にプロのミュージシャンになりまして、シュガーベイブという
バンドを作りました。22の時に『Songs』という一枚だけのアルバムを作りまし
て、翌年の76年に解散してソロシンガーになりました。あの頃は今と違ってロッ
クとかフォーク、"ニューミュージック"なんて言葉が生まれた時代ですが。あの
時代は本当に食えない時代で、まあ今でもインディーの人は結構大変なんですけ
ど、ロックで100万、200万なんてメガヒットが生まれる今とは全く違います。1
万、2万売れたらもう大ヒットです。ほとんどは5000とか4000とかそういう人達
ばっかりで、私達も御多分にもれず、そういうアングラ、サブカルチャー、マイ
ナーという時代でした。それなのに23でソロになるという。何を考えたかという
と、私は所謂アメリカンポップスオタクだったのでNYに行ってレコーディングし
たいという。神をも恐れぬ仕儀でございます。めちゃくちゃ経費が係るので全部
NYはダメだといわれ、片面NY、片面はLA。友達のつてを頼って安上がりに行くと
いう。よくそんなことをやらせてくれたなと思いますが、その時の私のA&R、ディ
レクターだった人は今でも私のビジネスパートナー。A面はNYのMedia Soundで、
今はもう有りませんけど、そこで録音しました。アレンジャーがCharlie
Callelo。Four Seasonsなどで有名な人ですが、彼にスコアを書いてもらって、
私は曲を書いて歌だけ歌うというコンセプトでありました。B面はもうちょっと仲
間内の和気あいあいとしたヘッドアレンジで、LAのRCAというボロっちいスタジ
オで4曲録ったという。当時にしては破格の待遇だったんですけど、最初がこれだ
ったのがよくなかったとかいろいろ言われますけれども(笑)。金係りすぎて警
戒されたとかいろいろ。自分にとっては思い出深い、自分にとって初めてのアメ
リカ、ちゅうか初めての海外でございまして。ミュージシャンは当時のスタジオ
ミュージシャンの一番いい所を揃えましたので。これがみんな性格が物凄いんだ
、一癖も二癖もあって。そこに23のガキが行って、縮こまって、なんか緊張感だ
けって感じで。思い出しても寒気がしますけども。この一枚目をこういう形で作
ったお陰で、今日の方向性が決まったという感じであります。詳しくは自筆のラ
イナーノーツに詳細に書いております。」
・Spacy
「(Charlie Calleloは)非常に気難しい人だったんですが、「スコアを持って帰
っていい」って言って、全曲のスコアを僕にくれたんですけど。それを東京へ帰
っていろいろ見てみますと、それまでも編曲法の教則本とかメソッドの本は沢山
あるんですけど、そういうのとは全然違う非常に実践的な、これまで見たことも
ないスコアの形だった。それに非常に感銘を受けまして、これを自分でやらない
手はないなと思って、それを一生懸命真似しまして。結局私はCharlie Callelo
の弟子ということになりますけれど。それで作りましたのが二枚目のアルバムで
して。当時日本で音楽を作るのはスタジオで、しかもスタジオミュージシャンと
いうドラマー、ベース、ギター二人、キーボード一人、仕出屋みたいにミュージ
シャンを集めて、アレンジャーが譜面を渡して、そこで演奏してレコーディング
するという。そういうスタジオで作られる音楽が音楽とイコールだった頃で、バ
ンドよりも圧倒的にスタジオミュージシャンの方が多かった。私もバンドじゃな
くてソロなので、スタジオミュージシャンを集めてレコーディングする。自分で
編曲して曲を作って。この二枚目で呼んだミュージシャンが、村上"ポンタ"秀一
、細野晴臣さん、松木恒秀さん、佐藤博さん、今でもみんな頑張ってますよね。
大変ですね。これが一つのパッケージで、もう一個が身内の上原裕、田中章弘、
坂本龍一。坂本君は昔から知り合いだったので。それと僕自身という、この二つ
のパッケージ。あんまり予算がなかったので、ピアノの弾き語りにコーラスを入
れるような、ずっと内省的なちょっと変わった世界、一人アカペラの発祥みたい
なところですが、それもこの時代に始めました。そういう訳でこの『Spacy』は
一枚目とは打って変わって非常に地味なアルバムなんですけど、山下達郎の当時
のファンの方には非常にシンパシーのあるアルバムであります。」
・It's A Poppin' Time
「一枚目、二枚目は出たのはいいんですけど、予算の割りにあんまり売れない。
今でも大した変わりじゃないですけど。で、三枚目を作るときにディレクターの
人がそれまでにみたいにあんまりお金をかけられないと。どういうことを考えた
かというと、ライブアルバムなら一日二日で全部録れちゃうからそれでいいだろ
うと。安直な世界でございますが。それで作ったのが三枚目のライブアルバム
『It's A Poppin' Time』という六本木Pit Innでのライブであります。ロック
関係のミュージシャンがPit Innでライブを録ったのがこれが初めてであります
。ライブアルバムですが1曲目がスタジオレコ−ディングという訳のわかんない
奴なんですが。」
「その前に二枚しか無いので、レパートリーなんかそんなに数ある訳がありませ
んからね。それまでの既成の曲の他に新曲をライブでやったり、スタジオレコー
ディングが1曲、そして最後は一人アカペラで終わったり。ライブアルバムとい
うには若干変則的なものです。二枚組でありまして、これがまた神をも恐れぬと
言われましたが。なんで二枚組にしたかったというと、当時はオイルショックだ
ったんです。それで当時、アナログ盤のジャケットは見開き禁止だったんです、
レコード協会の協約で。前2作も見開きにしたかったのに出来なかった。それで
このライブアルバムは二枚組にすれば嫌でも見開きになりますからね。それでし
ちゃおうという。単純というか、ひどいですね。それで反動で、Moonに移ってか
らは『Melodies』とか『Pocket Music』とかあの辺全部見開きで作っている訳で
す。どちらかというとホールよりクラブの感じのライブでありますが、村上ポン
タさん、岡沢章さん、松木恒秀さん、坂本龍一さん、土岐英史さんという面子で
ライブレコーディングを繰り広げたと。「スペイス・クラッシュ」はスタジオレ
コ−ディングですが同じ面子でレコーディングされたもので、これは一人多重の
コーラスがすごく厚く入っているという。当時にしてはちょっと異色な作品でし
たが、今聞くとかなりサブカルチャーな匂いがしますが。当時出来たばかりの池
袋のサンシャイン60を見てこの歌を作ったという思い出と共にあります。」
・Go Ahead!
「ソロデビューから2年経ちましたが、状況がどんどん悪くなる。あんまり売れな
い。レコード会社からもブツブツ文句言われまして、早くやめろとかという世界
(笑)。自分でもやっぱりあんまり向いてないなと思い始めまして。折りしも当時
はサザンオールスターズとかツイストとかが出始めた時代で、私みたいなちょっ
と辛気臭い奴は日本のマーケットにはあんまりアレだなと、思ってきた時代に作
ったのが『Go Ahead!』というアルバム。いろいろ煮詰まっていたということも
あって、あんまり曲が書けないので人に書いた曲とかを集めて、アルバムを一枚
作りました。それまでの三枚は割りと統一感があったのですが、『Go Ahead!』
は非常にごった煮なアルバムです。五目味といいましょうか、別の言い方をすれ
ば作家的なアルバムであります。これから先はきっと自分はシンガーソングライ
ターとしてソロアルバムを出せることはそんなに長い事ないだろうなと。だった
ら作曲家とか最終的にはレコードプロデューサとかを目指していくんだから、そ
ういう作家的なアルバムにしようというような意志が働いたんだと思いますが。
それが結果的に評判がよくなって、それから先が見えてきたという、まあ皮肉な
世界であります。山下達郎25歳の時のアルバムで、私自身は非常に愛着があるん
ですけれども。」
・ボーナストラックについて
「段々話が大きくなってきまして、ライブもそうなんですが、ボーナストラック
に対する期待が大きすぎる印象があります。具体的には来週申し上げますが、ま
ぁボーナストラックといえるようなもんかな(笑)。」
・ライブについて
「これも段々話が大きくなってきて、過度な期待をされている気がします。あく
まで自分としてはリクレーションみたいな気楽な気持ちでやるライブなので、あ
まり過度な期待をされてしまうと困ると。「クリスマス・イブ」を19年ぶりに演
奏しないライブなんですよね。私がまだアングラでサブカルチャーで売れなかっ
たマイナーな時代のレパートリーばっかりなので、ヒット曲がほとんど無いんで
す。どっちかというと凄く地味なライブになりますので。ま、昔のファンの方々
なら喜んでいただけますが。なんだヒット曲やらないのかとか言われると凄く心
外(笑)。そういう質のライブなんです。凝った演出は全くありません。今回は
直球勝負です。私はRCA時代はアコースティックギター弾いて演奏する曲は一曲も
ないんですよ。全部エレキギターなんで、今回のライブはエレキギターしか持ち
ません。そういう訳で予めお断りしておかなければならないと思います。」
・Moonglow
「この前の『Go Ahead!』に入っている「ボンバー」が大阪のディスコでなぜか
突然ヒットしまして、こっから大阪のお客さんが凄く来るようになりまして。当
時は折りしも79年、ブラコン全盛期でございまして、私16ビート好きだったので
じゃあ16ビート主体で行こうかと。私の人生で最も時代の波に合わせて、コンテ
ンポラリーな出来を目指して、しかもステージの再現性を目指して作ったという
珍しいパターンのアルバムですが、私としては非常に愛着のある一作です。」
「この頃からようやく状況が好転しまして、ツアーがやれるようになってきまし
た。丁度この頃あったメンバーが今も一緒にやっているドラムの青山君とベース
の伊藤君の2人。これとキーボードの難波君とギターの椎名君の5人で、ツアーを
ずっとやるようになりまして、全国のいろいろなところにいけるようになった時
期であります。」
・Ride On Time
「丁度登り調子になったときに、いよいよ勝負シングルを出そうということで、
翌年80年5月に出したシングルが「Ride On Time」。これが私にとって初めての
ブレイクしたシングルで、これを受けて9/21に同名のアルバムを出しました。こ
れは自分にとって愛着の深いアルバムなんです。「Ride〜」はシングルバージョ
ンの他にアルバムバージョンがあります。シングルとアルバムでバージョンを変
えることで差別化するというのが流行りだったのです。シングルがこれまでCDに
になっているのは『Greatest Hits!』というベスト盤にしか入っておりません
でした。今回はボーナストラックにシングルバージョンを収録することができま
した。ここに入るべきものなので、それを実現するのに20年近くかかってしまっ
たというお粗末でございます。」
「これが生まれて初めてチャートの一位を取ったアルバムで、ここからようやく
波に乗ってくる。ただシングルがヒットしたので、このアルバムは、あんまりチ
ャラチャラするのが嫌なのでもうちょっと内省的に作ろうかと、そういう作り方
になっております。」
・For You
「80年から82年まで地獄のロードがずっとありますが、ツアーが多くなればなる
ほど、レコーディングの間隔が空いてしまうので、次の『For You』までは1年半
ほどかかってしまった。このアルバムを最後にRCAを辞めまして、Moonレーベル
と新しいレコード会社を自分達で作る訳であります。今回の「Loveland, Island
」と同じ鈴木英人さんのイラストのジャケットであります。」
今後の予定
・2/10も「山下達郎 RCA/Air Years 特集」ボーナストラックを中心に。
・2/17「David Gates特集」
・夏になったらBruce Johnstonの特集を。
・ツアー期間中は「ヒストリーオブ山下達郎」を予定。
circustown.net による放送書き起こしです。文責 circustown.net。抜け誤りはお知らせください。
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