The Fifth Avenue Band

One Way Or The Other

1969 "The Fifth Avenue Band" Warner WPCR-1870





 The Fifth Avenue Band (FAB)。何ともかっこいい、そして文字通りニューヨークの香り漂うこのバンド名。そんな彼らが残したただ唯一のアルバムが本作。(90年に再結成してアルバムを一枚残していますが、オリジナル・メンバーとしては本作のみ。)かのシュガー・ベイブが最も影響を受けたグループとしてもつとに有名です。
 69年という時代を考えると進取の気性に富んだ斬新な音づくりに、まず驚いてしまいます。ハネ気味のビートに、絶妙に絡んでくるピアノとパーカッション。このシャッフル感覚は今聴いても全く色褪せていません。
 メンバー一人ひとりの類い希なるポテンシャルと音楽性の高さ、よく練られた楽曲の展開、この時代のニューヨークが持つ空気。そうしたもののどれか一つが欠けていたとしてもこういう雰囲気は生まれてこなかったのではないか、そういう気がします。
 ここに歌われているのは、人生の一時期誰もが抱く焦燥感や喪失感、解放への渇望。それらが実に淡々と歌われています。当時の彼らの年齢を考えると、やけに老成した雰囲気が感じられて、そういう世界観に憧れていた若き日の自分を思い起こしたりします。


 メンバーは Jerry Burnham (Bass,Flute)、Jon Lind (Vo.)、Kenny Altman (Guitar,Bass)、Murray Weinstock (Key.)、Pete Heywood (Drums)、Peter Gallway (Guitar,Vo.) の6人。それぞれがニューヨークはグリニッジ・ヴィレッジ、ブリーカー・ストリート周辺で様々な音楽と様々な人脈を渡り歩いて辿り着いた先がこの FAB でした。
 11曲中の7曲を作曲して中心的な役割を果たしているのが、Peter Gallway。 旧友の Kenny Altman とともに The Strangers というグループを結成してヴィレッジ周辺で歌っていたこともありました。FAB を経て『Ohio Knox』(ワーナー WPCR-1871)、『Peter Gallway』(ワーナー WPCR-1872)とリプライズから続いた作品は、本作を含めて山下達郎さんをして"三種の神器"と言わしめた名作達です。ブルースを基調としながらも都会的な作風が特徴。とりわけ「Country Time Rhymes」はこのアルバムのアクセントになっています。なお、 Peter Gallway はこのほどニュー・アルバムをリリースしたばかり。今年12 月には久しぶりの来日公演も決定しています。詳しくは dreamsville へ。
 かつて達郎さんの『Circus Town』にも参加していた Kenny Altman。 Peter との共作を含めて4曲を提供しています。印象的なフレーズの「One Way Or The Other」、「Nice Folks」は本作の雰囲気を決定づける重要な要素となっています。
 Jon Lind は作曲家として現在も活躍しています。EW&F の「Boogie Wonderland」や Madonna の「Crazy for You」は彼のヒット曲です。
 プロデューサーはMFQのメンバーでもあり Association のプロデュースも手掛けた Jerry Yester、The Lovin' Spoonful のメンバー Zal Yanovsky、Spoonful のプロデューサーだった Erik Jacobsen が共同で担当。
 東海岸の伝統的なポップスの流れを汲みながらも新しい音楽を模索していた彼ら。このアルバムは60年代から70年代への橋渡しを果たした重要な一作と言えるでしょう。

(脇元和征)





Copyright (c) circustown.net