Anita Baker

Sweet Love

1986 " Rapture " Warner AMCY-3002/CD





 人は恋をするとどうして Sweet な音楽を求めるんでしょうか? その状況に思いっきり浸りたいから? 切なさを噛みしめるのに必要だから? もうその答えは遠い昔に置いてきてしまって思い出せないけれど、Anitaの声を聞いたら昔の恋が蘇ってきました。あ〜、なんてオバカだったのだろう、若かったわたしは。
 このアルバムが出た頃、わたしはズタボロの恋にしがみつく惨めな女でありました。(こんなとこで想い出ばなししてどうすんだ!)彼女の情感あふれるヴォーカルに、夜な夜な酔いしれていましたっけね。あるときは恋の喜びを Anita とともにわかちあい、あるときは傷ついた心にそっと薬を塗ってもらう…優しいお姉さんのような雰囲気を感じていたのです。当時わたしは20代後半でしたが、Anitaはなんと同い年だったんだな。大人だわ〜。調べていたらそれがわかって、びっくりしちゃいました。
 彼女はこのアルバムがメジャーデビューになるのですが、正確には2枚目のアルバムです。堂々とした歌いっぷり、うねるような、抑揚にたけたヴォーカルは、すでにベテランと言われてもうなずけるくらい上手でした。


 このアルバムの中でまず耳を引くのは、5曲目の Manhattan Transfar も歌っている「Mystery」。イントロのミステリアスなスキャットが印象的ですが、淡々とした演奏とAnita のクールな熱唱(ヘンな表現だと思われるかもしれないけど、あえて)に感動します。
 わたしのおすすめは、1曲目の「Sweet Love」と2曲目の「You Bring Me Joy」。酔っちゃいますよ、歌いっぷりに! 夜のドライブなどでぜひ聴きたいものです。
 彼女はこのアルバムのエグゼクティブプロデューサーであり、ソングライターとして楽曲も3曲提供しており、キーボードも1曲手がけています。才気あふれる彼女の、ソウルという範疇におさまらない、R&Bやジャズの要素を併せ持つ独自の世界が堪能できます。
 本来のスウィート・ソウルからは離れているけれど、こういうアルバムも秋の夜にはいいかも。今、恋をしている人も、昔の恋を懐かしく思い出したい人も、聴いてみてくださいね。

(なかのみどり)




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