Earth,Wind & Fire

In The Stone

1979 " I Am " Sony SRCS 9062/CD





 Charles Stepney 亡き後、Maurice White 自らがプロデュースを手掛け、日本では最もヒットした彼らのアルバムとして知られる『All'n All(太陽神)』。頂点を極めた彼らが続く79年にリリースした本作も引き続き Maurice White のプロデュースでリリースされました。
 70年代を締めくくるこのアルバムあたりまでが EW&F の絶頂期であり、ディスコ・ブームの終焉と共に次第にそのスタイルは散漫になっていったように思います。R&B、ジャズ、ロックを融合しながら当時としては最もアップ・トゥー・デイトなファンクへと昇華させたサウンドが彼らの真骨頂でした。前作あたりからポップでよりダンサブルな方向へと舵を切り変えてきたことで彼らは人気を不動のものとするのと引き替えに徐々に重厚かつ緊張感のあるファンク・サウンドから遠ざかっていったような気がします。と、同時に世間的にも"ファンク"という言葉をあまり聞かなくなっていき、テクノの80年代へと突入します。彼らもエレクトリックなサウンドを、宇宙を想起させるコンセプトとへと塗り込めることでイメージ転換を図っていきましたが、やはり彼らの大きな魅力は70年代のファンク−ディスコ時代に遡るのではないでしょうか。


 そうした時代の"際"にありながら、このアルバムは1曲目の「In The Stone」、2曲目の「Can't Let Go」と導入部からポップで骨太なサウンドでぐいぐいと引っ張っていきます。さすが燻し銀です。一方でよりソフィスティケートされた音づくりには David Foster をはじめ、TOTO の Steve Lukather、Steve Pocaro や Seawind でその実力を高く評価された Jerry Hey がホーン・アレンジで参加していたりと、この時期シーンの中心にいた、いわゆるAOR〜フュージョン系のミュージシャン達のバックアップが大きかったものと思われます。
 また大ヒットした「Boogie Wonderland」を作曲したのは The Fifth Avenue Band にいた Jon Lind。このあたりの作家の起用にもコラボレーションの妙というか、アメリカン・ショービズの奥の深さみたいなものを感じてしまいます。
 話は全く変わりますが、かの山下達郎氏はこのアルバムの録音の良さを評価しています。特に「In The Stone」のイントロがオーディオ的な意味での理想だとか。「リズム・セクションが殆どノー・エコーなのに対して、ストリングスやホーンにはロング・リバーブがかかっていてそれが音の広がりにつながってる。アナログ時代のスタジオ・テクノロジーがまさにこの時期最も完成されていた」と語っています。素人の私が聴いても、リズムがどっしりと中心にいながら、しっとりと濡れた感じのエコーに包まれていて、何とも心地よいバランスで歯切れの良い音像です。確かにオーディオ・チェック的な一枚ですね。
 アルバムは「Star」、「Wait」と高揚感をキープしながら「Rock That!」で再び炸裂していきます。そのグルーヴにいつまでも身を委ねていたい、彼らの魅力はそこに尽きます。

(脇元和征)





Copyright (c) circustown.net