Paul Simon

Kathy's Song

1965 " The Paul Simon Song Book " CBS SOPM-107/LP





 噂によるとアメリカで Brian Wilson と Paul Simon が一緒にツアーをしたそうですね。最初聞いた時は "なんでまたこの二人!?" と思いました。方やサンサンと太陽が降り注ぐ L.A.でサーフィン・ミュージック、方や霧雨舞うグリニッジ・ビレッジでフォーク・ミュージック、というように注目されたきっかけが全く違う二人。表面だけ見ればアメリカの両端で陰と陽の違いとも言える活動をしていました。
 高校時代に The Beach Boys と Simon & Garfunkel の両方の音楽を好きになってしまった僕は、晴れの日は Beach Boys、雨の日は S&G というようにものすごく単純な聴き分けをしていました。Paul Simon の書くメロディと詞は、何となく雨、曇天、冬、といったイメージを強烈に感じたからです。そしてこの「Kathy's Song」という曲は、当時から僕の No.1 Rain Song なのでした。
 " 僕はこぬか雨の音を聞いている " という一節から始まるこの曲は、屋根や壁をたたく雨の音しかしない静かな部屋の中で、ロンドンに残してきた Kathy という恋人のことを想うPaul の詩が感動的です。" 韻をふむために引き裂きこじつけた詩 " と、自分が書いた歌さえもウソっぽく感じ始めた時、" 唯一の真実はただ君だけ " と気づく Paul。アコースティック・ギター一本で淡々と歌われる物静かな佇まいの中に、熱い愛の声明が隠されています。最初歌詞を読んだ時にこんなにも個人的な歌があってもいいのかなって驚いて、そして段々と好きになり雨の日は欠かさず聴くようになっていきました。


 この曲のS&G 版は'66年の『Sounds Of Silence』に収められています。しかし今回はそれ以前の'65年にロンドンでソロとしてレコーディングされたこのアルバムのヴァージョンを紹介します。「I Am A Rock」「April Come She Will」「Flowers Never Bend With The Rainfall」(この曲も雨の日によく聴きました)など、後の S&G の重要曲がすでに録音されており、完成度は S&G ヴァージョンには敵わないものの、素朴さと情熱ではこのソロの方が上だと思います。イギリス滞在中のフォーク・クラブ・サーキットによって高められたギターの演奏力も特筆もので、流れるようなフィンガー・ピッキングや激しいストロークの強弱は詩の中の感情の変化と完璧にリンクしています。
 ちなみに僕はこの「Kathy's Song」と「April Come She Will」を聴いてギターを始めました。ハード・ロック全盛の80年代に、安物のガット・ギターでこっそりアルペジオを練習し始めた理由は Paul Simon になりたかったからです。そして未だに雨の日の夜はギターを手にしてこの曲を爪弾いてしまいます。Paul Simon にはなれなかったけど、ちょっとは上手になったのかな(笑)。

(高瀬康一)




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