Tom Waits

(Looking For) The Heart Of Saturday Night

1974 " The Heart Of Saturday Night " Asylum P-10243Y / LP





 「ストリートは色々な文化が混ざり合ってて、アメリカ文化の重要な部分。僕はそれをロマンチックにドラマ化してるだけなんだ・・・」。

 かつてのインタビューで Tom Waits はそう語っています。この言葉の通り、都会の夜の情景を描かせたらこの人は本当に上手いなあって、久々に彼の音楽を聴いてみて思いました。
 このアルバムは高校生の時にちょっぴり背伸びして買ってからの愛聴盤。佐野元春さんの『Heart Beat』や Billy Joel の『Streetlife Serenade』なんかと一緒によく聴いたものでした。これらのアルバムに通じる "都会で生きる若者特有の寂寥感" みたいなものが大好きでした。Tom も Billy も佐野さんもこれらのアルバムの曲を書いたのは20代前半から中頃の若さのはずで、だからこそ田舎のボンクラ高校生の僕にもリアルに響いたのかなと、今にしてみれば思います。


 今回のシンガー・ソングライター特集で脇元さんの取り上げたJackson Browne や、The Eagles の晴れわたった爽やかさが一般的な Asylum のイメージだとすると、Tom Waits の音楽性はジャジーで "夜" で、かなりレーベル・カラーから外れています。1st の『Closing Time』はフォーキーでシンガー・ソングライター的イメージが強いけど、この2nd は本格的にジャズに接近。ジャケットからしてFrank Sinatra の名盤『In The Wee Small Hours』を彷彿とさせます。しかしメロディ、アレンジと共に1st よりも明快で聴きやすく、そこら辺はプロデューサー Bones Howe の力量なんでしょうか。
 名曲揃いの中でもこのタイトル曲は特にメロディが良くて何度聴いたか分からないほど。トーキング・ブルースならぬトーキング・ジャズ(?)風の曲「Diamonds On My Windshield」のベースがフェイド・アウトしきらないうちに車のクラクションや街のざわめきが重なってアコースティック・ギターのイントロが流れ出します。この流れが完璧で、土曜日の夜のハメを外したくなるようなどこかそわそわした気分と、それでいて妙にセンチメンタルな気分が入り混じった特別な感情を思いっきり煽ってくれます。例え大した予定もないお粗末な週末の始まりであっても、女の子を口説いて車の中で彼女の肩に腕をまわす(そんな歌詞なのです)なんて想像をしながら街に繰り出して行きたくなるような気分にさせてくれるのです。実際繰り出して行ったこと数知れず。
 ところで日本の70年代に「Heart Of Saturday Night」という名前のバンドがあったそうです。いいバンド名だと思いませんか。土曜の夜の気持ちにさせてくれるバンドがあったらライブに通いまくるのになあ。

(高瀬康一)





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