Rickie Lee Jones

My Funny Valentine

1983 " Girl At Her Volcano " Warner Bros.23805/LP





 70年代末期に颯爽とデビューしてきた彼女。シンガー・ソングライターという言葉にそれなりのリアリティーを感じられた最後の世代。Joni Mitchell、Laura Nyro・・・といった人たちに続く女性シンガーは彼女と Suzanne Vega でしょうか。それでもデビューの遅かった Rickie は世代的には彼女たちとそう遠くない位置にいます。そういうわけかどうか、デビュー盤からして既に新人とは思えない老成した雰囲気が感じられます。
 1954年シカゴ生まれ。 アウトローな生活の末に流れ着いたLAでまず作曲家として音楽の道を歩み始めます。Lowell George のアルバム『Thanks I'll Eat It Here』に「Easy Money」を提供。(この曲は自らのデビュー・アルバムにも収録)その後ワーナーの Lenny Waronker に見出され彼と Russ Titleman を共同プロデューサーに迎えたデビュー作にして名作『Rickie Lee Jones』を産み出したのは1979年。25才の時でした。


 R&B、ジャズ、フォークなどからの多様な影響をてらうことなく織り込んだ、表情をもった楽曲。それらは甘美かつ透明感に満ちたガラス細工のようなヴォーカルに包み込まれていきます。それをベテランのミュージシャンたちがしっかりとサポート。吐息までもが聞こえてきそうな続く1981年の『Pirates』ではさらに繊細な雰囲気を醸し出しています。僕が彼女の曲をはじめて聴いたのもこの『Pirates』からでした。大滝詠一を僕に教えてくれた友人がこのアルバムを抱えてふらっとやってきた日のことをよく覚えています。ちょっと斜に構えた不良だったあいつが何でこんな音楽に惹かれていたのだろう・・・。いずれにしても僕らはませたガキだったわけです。
 3作目のこのアルバムは当時でももうあまり見かけなくなっていた25センチLPというフォーマットで発売されました。彼女が長年親しんできたであろうジャズやR&Bの名曲カバーを中心にした企画色の強いこのアルバムは、Laura Nyro の『Gonna Take A Miracle』を意識していたのかもしれません。Left Banke の名曲「Walk Away Rene」や「Under The Board Walk」あたりのカヴァーには彼女のミュージシャンとしてのアイデンティティを見出すことが出来ます。当時オリジナルとともにこの2曲をかけてくれた達郎さんの「サウンド・ストリート」も当時の記憶として鮮明に残っています。
 Art Rodriguez のドラム、Neil Larsen のキーボードなど的確で落着いた演奏に Nick Decaro の決して奇を衒わないさりげない弦とホーンのアレンジが色をつけていきます。
 寒さも一段と厳しいこの季節、多くの人が取り上げた名曲「My Funny Valentine」を彼女のささやくような歌声で聴いていると、彼方からほのかな春の足音が聞こえてくるようです。

(脇元和征)





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