Chuck Berry

Almost Grown

1959/1997 " Berry Is On Top " MCA Victor / Chess MVCM-22104 / CD





 偉大なるロックン・ロールのジャイアントにして、今なお現役。当年とって76歳の Chck Berry はまさに King Of Rock'n' Roll。
 先日なぜか James Brown とともに来日公演をおこない(もっともこの二大巨匠が一緒にステージに立つことはなかったようですが)日本のファンにも健在ぶりを見せてくれました。残念ながら僕は観ることができませんでしたが、行った方の話によるとまさに貫禄十分、少々のことには動じないステージ・アクトに感銘を受けたそうです。
 「Almost Grown」。この曲をはじめて聴いたのは高校時代にリバイバルでかかっていた映画『アメリカン・グラフィティ』の中の1曲としてでした。「Johnny B.Goode」や「Rock & Roll Music」といった彼を代表する曲は当時すでに知ってはいたと思うのですが、この「Almost Grown」が僕にとって初めて彼を明確に意識した曲だったことは記憶に鮮明です。山下達郎さんもこの曲が Chuck Berry の曲の中で最も好きな曲だとおっしゃって、何度となく番組でもかかっています。僕もどういうわけか、ロックンロールのイディオムを確立した綺羅星のようなヒット曲よりもむしろ、この曲や「Havana Moon」、「Drifting Heart」といったラテン系の曲やポリリズムの要素を取り入れた、ちょっとひねった曲に興味を惹かれていきました。


 彼が最初に契約を結んだのは Chess で、セントルイスからシカゴへとやって来たという経歴のせいか、シカゴ・ブルースの要素を根底に、カントリーやラテンといった音楽への雑多な趣向がブレンドされています。あたかも偶然を装ったように聴こえながらも、実は周到にそこを目指して行こうとしていたのではないか、そしてそのクールさと生真面目さゆえ、実はそれがかえってとっても楽しいものになっていったのではないかと想像したりしています。もちろんそこには、Fred Below のドラム、Willie Dixon のベース、Johnnie Johnson のピアノといった、初期の彼を支えたミュージシャンたちをはじめ、Bo Diddley のような個性あふれるミュージシャンの助けがあってのことでしょう。
 彼の最もよく知られるパフォーマンスである、"ダック・ウォーク"というギターを抱えてこっけいなステップを踏むダンスはロックンロールをまさに視覚的に象徴しました。このダンスに見られるようなロックンロールの諧謔性は、音そのもののドライブ感みたいなものも含めて、ロックンロールがその黎明期においては極めてノベルティな音楽スタイルであったことをうかがわせてくれます。そして、この「Almost Grown」からは、他愛のない歌詞のこの曲にクールに真面目に取り組んだ結果としての諧謔性がにじみ出ているような気がするのです。

(脇元和征)




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