Maria Bethânia
Brincar De Viver 1993/2000 " Millennium: Maria Bethânia " Mercury 538 188-2 / CD |
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大好きな曲なんだけれど、実は歌い手のことよく知らないんだ。こんなことありますよね。今回選曲にあたって、ブラジル優勝記念というわかりやすい理由で真っ先に思いついたのがこの曲です。この曲を含む Maria Bethania のベスト盤をたまたま聞いたのが10年くらい前。それ以来、思い出したようによく聞いていました。説得力のある、深いアルトヴォイス、しかも軽くハスキー。うまくコントロールされた発声の裏には、強いパッションが感じられます。しかし僕はこのブラジル人女性のことを何も知らない。
Maria Bethania、1946年ブラジルのバイーア州生まれ。兄はCaetano Veloso、と解説にあります。バイーアはリオの北東の海岸線一帯をかかえる州で、16世紀にポルトガルが最初に入殖。中心のサルヴァドールが18世紀にリオに遷都されるまでの首都となります。Bethania の兄さんの Caetano。彼は60年代から、Gilberto Gil、Gal Costa らとボサノバ以降のブラジル音楽を、伝統と誇りをもって復興させた中心人物。というようなことを頭に入れてレコード屋に行ってみると今まで素通りしていたブラジル音楽コーナーがぐっと面白くなります。 |
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Caetano がどれほどスーパースターかということも、CDの枚数で一目瞭然、何軒か回ると見えて来ます。しかしブラジルのCDの陳列は、ボサノバのコーナーとブラジル音楽一般コーナーが分けてあるのですね。これは面白いと思いました。ボサノバ、人気がありますね。お店によっては、ブラジル音楽一般をMPB(この言葉はみどりさんのレヴューで初めて知りました。)コーナーとしているところもあり、洒落ていると思いました。Maria、Caetano らはみんなバイーアの出身で、しかもボサノバの中心選手の Joan Gilberto も ベガルタ仙台のマルコス選手もバイーア出身であるそう。かくして Maria Bethania を聞く僕のバックグランドイメージも着々とできてきました。以上は全部この1週間ほどの僕の成果です。ブラジル音楽はすごい人がいっぱいいて取っ掛かりが大変です。ブラジル音楽が好きな方がいらっしゃったら、ひいきの歌手を教えてください。
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話を Bethania に戻しましょう。濃いな、というのが初めて彼女のベストを聞いたときの記憶です。ボサノバに代表されるお洒落さを感じる曲もあったのですが、むしろ耳につくのは逞しさです。外国の音楽は、純粋であればある程、その土地の風土や生活感がわからないと取っ付きにくくはないでしょうか。その中で僕の耳をとらえたのが紹介する Brincar de Viver でした。収録曲はどれも豊かなバッキングなのですが、この曲だけは、チープな作り。あまり気の利いたとは言えない打ち込みドラムにべしゃべしゃなシンセ、それにエレキギターとピアノという日本の歌謡曲的な世界です(ただしギターはうまいと思う)。しかし、ともすると安っぽくなりかねない状況で、Maria の歌が素晴らしい。ぎりぎりの所で、気高さとポップさが混ざっているのに惹かれます。さらにこのバラードは、終盤の大サビが美しい。たった16小節サビに圧倒的な開放感があります。ベテラン歌手が色々あった人生をポジティブに振り返っている(というポルトガル語の歌詞であると思っております)。ああ好きだなあ、Maria Bethania。ブラジルは本当に才能の宝庫です。ブラジル優勝おめでとう、Ronaldよかったな。
(たかはしかつみ) |