Carpenters
We've Only Just Begun 1970 " Close To You " A&M SP4271 / LP |
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Carpenters サウンドを支えた職人、Hal Blaine。彼に Carpenters と Karen の思い出を語ってもらいます。
「69-70年のあたり、僕とベースの Joe Osborne はずっとスタジオで一緒だったね。そのころ Joe は新しいアーチストを見つけていて、彼のガレージで録音したテープを持ってはしつこく売り込みに励んでいたんだ。俺も Joe に何度もプロデュースしないかって頼まれたよ。」 The Mamas And The Papas、The Fifth Dimension、Simon & Garfunkel。彼らはヒット曲を生み出し続ける、時のミュージシャン。 「ある日ついに Joe が“あの子達”を連れてきたんだ。Joe たちと Neil Diamond の録音をしていたね。それが Carpenters との出会いだった。Karen は革のフリンジのついたウェスタン・ジャケットを着ていたよ。ちょっと緊張していて、でもスタジオに入れてもらってとてもうれしそうだったよ。」「セッションが終わって、Joe とあの子達のことについて話し合ったんだ。『Joe、あの子達は確かにいいかもしれない、でもオルガン弾きに女のドラマーの取り合わせはイケてないだろう。それにやつらの音楽ったらカントリーでもロックでもないんだぜ。』・・・これでその話は終いさ、また一山当てそこなったよな。」 |
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Carpenters は Joe のプッシュもあって、A&Mとの契約に成功。最初のレコーディングからヒットは生まれませんでしたが、プロデューサーの Jack Daugherty が Hal と Joe のコンビをスタジオに呼びます。
「あの子達は、スタジオでは偉大だった。あっという間に “We've Only Just Begun” はチャートを駆け上がって行ったよ。」 「遥かなる影」は全米1位、つづくこの「愛のプレリュード」も2位獲得と、Carpenters は一気にその存在を確たるものにします。とくに本作の後半部ではドラムの Halを軸に、ベースの Joe、そしてキーボードの Richard がバンドとも形容できるロックアンサンブルに成功。しかも曲の前半は Richard の気の利いた弦管のアレンジが、加えてヴォーカルグループとしての魅力までタップリ味わえるという贅沢な作りです。 「"We've Only Just Begun"がヒットしてしばらく後、Karen がやってきて『同じドラムセットを私に作って』って言ってきたんだ。ステージで、そっくり同じに叩きたいそうなんだよ。」「俺は社交辞令の積もりで言ったんだ『そろそろドラムはやめて、フロントに立ったらいかがですか?』ってね。念のため言っとくよ、彼女はいいドラマーさ。でも女のドラムっていうのは、どうも落ち着かないってみんな思うもんなんだよ。」 しかし間違っていたのに気づかされたのも Hal の方。Karen のドラムは Carpenters の柱の一つになります。 |
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この曲「We've Only Just Begun」は Carpenters のスターダムを決定付けた曲にして、実はあの名作曲家コンビ Paul Williams と Roger Nichols にとっても出世作となりました。彼らはこの後 Carpenters の「看板曲」を次々作曲。しかしこのヒットの前と後は「飢餓状態から大宴会」であったとは、Roger Nichols の弁であります。上り調子の Karen のヴォーカル、よく勉強され認められたい Richard のアレンジ、売れたい作家の Paul と Roger、そして、Hal と Joe という当代随一の名人のリズム。全てが一点でそろった「We've Only Just Begun」、これも奇跡の一つです。
「僕が叩かなくなった後も、キャプテニの録音なんかで会うだろう、僕らはずっといい仲だったんだ。でも一つだけ・・・。彼女を抱きしめるだろ、そのたびに細くなっちゃってるのが気になって。」 「何年か前、Richard が昔の仲間を集めて、残されたレコーディングを完成させたんだ。5,6時間のセッション中、ずっと涙が止まらなかったよ。スタジオで泣いていないやつなんていやしなかったんだ。Karen がすっとそこで微笑んでいるようで。」 Hal Blaine の自叙伝を参考に構成しました。文責は筆者にあります。 (たかはしかつみ) |