Kenny Rankin

Lyin' Eyes

1980 " After the Roses " Atlantic SD-19271/LP





 先日、Stephen Bishop と Kenny Rankin のライヴに行ってきました。ファン歴の長い順からみれば Stephen Bishop の方に思い入れが強いのですが、終わってみると完全に Kenny Rankin の方に心を持っていかれたように思います。(もちろん高校の時から待ちわびた Stephen Bishop のライヴにも酔いしれましたが…)
1940年生まれの Kenny Rankin は今年62歳。まず驚いたのはそんな歳とは思えないほどの透き通った美声でした。デビュー当時から全く変わらない、あの暖かい歌声に触れた途端、彼のレコードでスサんだ心が幾度となく救われたあの夜の穏やかな空気に戻っていく気がしました。
 Tommy Lipuma & Al Schmittという鉄壁のコンビと組んだヴァーヴ移籍第1弾となる新作『A Song For You』からのナンバーが多かったのですが、この人の場合、演奏曲目というのは対して重要ではない気がします。ガット・ギターとピアノの引き語り伴奏により、どんな曲を演っても無理なく彼の"ピースフル"な世界に連れて行ってくれるのですから。(彼のアルバムにいつも収録されているビートルズ・カヴァーの新鮮な解釈が大好きでした。この晩も「I've Just Seen A Face」のスロー・バラード・アレンジにびっくり!)


 Kenny Rankinとの出会いは80年代後半、雑誌に紹介された『Silver Morning』を覚えていて、何気なく買ったことに始まります。ブラジルともAORともジャズとも言えないジャンルを超越した音楽性、またイージー・リスニングとしても、自己を投影する内省性を秘めたシンガーとしても聴けるという2面性など、これまでに自分が出会ったことのない音楽体験をもたらしてくれた、個人的に衝撃的な内容でした。(「In The Name Of Love」という曲には何回針を落したか分かりません) "ブラジル"という気持ち良さ気なキーワードが、自分の中に刻み込まれたきっかけとなったのもこの『Silver Morning』だったような気がします。
 その後90年代に入りフリー・ソウルの名盤として持て囃され、どんどん値が吊り上るのは『Silver Morning』(と Little David 以前の初期の2枚くらい)だけで、他のアルバムは大して高くなかったので結構集めたのですが、驚くのは全てのアルバムのクオリティの高さ。ラテン、ジャズ、フォーク、ポップスなど、あらゆる音楽性を内包しつつ、全てのアルバムに Kenny Rankin 印の最高の気持ち良さが詰まっています。そんな作品群の中で最も今の自分の気分に一致するのが、Atlantic に移籍して80年に発表した『After The Roses』です。古くから Kenny の才能を認めていて『Kenny Rankin Album』で初コンビを組んだ Don Costa が再びプロデュースを務め、よりスタンダードにアダルトになった傑作アルバム。ジャケットに描かれた薔薇のツタのように可憐に絡まるストリングスの音色が、ストリングス・フェチの自分にはたまらない魅力となっています。全曲素晴らしいのですが、Kenny Rankin 史上一番らしくないカヴァーであろうと思われる Eagles の「Lyin' Eyes」の、原曲の面影が全く感じられない"俺流アレンジ"に敬意を表して、この曲を選びたいと思います。
(高瀬康一)




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