Pilot
Get Up And Go 1977 " Two's a Crowd " Arista Sparty 1014/LP |
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70年代中期にエジンバラから登場したポップ・グループ Pilot。私が物心ついた頃にはすでに解散していましたが、「Magic」と「January」の二大ヒット曲は遅れてきた洋楽好き少年の耳にしっかり届いていました。Beatles の流れを汲む屈託のない素直なメロディー、宙を舞うような軽快なギター、雲のように分厚いコーラス、天空にこだまするハンド・クラッピング、これぞ直球勝負の英国ポップスだ!とかなり夢中になりました。エジンバラといえば Bay City Rollers ですが、Pilot の中心メンバー David Paton と Billy Lyall は初期のBCRに在籍していたそうです。またデビュー当時のライナーによれば Queen のようにアイドル・バンドとして売り出されていたようです。しかし彼らがただのアイドルで終わらなかったのは、各メンバーに(日本でいえば)ティンパンアレー級の卓越した演奏力があったことと、David と Billy という二人の優秀なソングライターを擁していたことでしょう。
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しかし Pilot はその爽やかな音楽とは裏腹に波乱万丈の道を歩むことになります。1974年のEMIからのデビュー作『From The Album Of The Same Name』では David (b,vo)、 Billy (kd, vo)、Stuart Tosh (ds)のトリオとしてスタート。翌1975年の『Second Flight』では Ian Bairnson (g,vo) が加入して4人組に。1976年の3rd『Morin Heights』の時は Billy が脱退して再び3人組。そして1977年のArista 移籍後のアルバム『Two's A Crowd』では Stuart の10CC 加入に伴う脱退で David と Ian のデュオ。4年間に出した4枚のアルバムのメンバー構成が全て異なるという激しい人員交替。そしてその後はマネージャーとのトラブルが発生し、最後は Alan Parsons Project に吸収される形でグループは消滅。時代と周囲に翻弄されて儚く消えた悲運のグループでした。
「Get Up And Go」は『Two's A Crowd』のオープニングを飾る曲で David の作。Pilot の顔というべきあのメロディー、ギター、コーラス、ハンド・クラッピングを存分に堪能できる名曲です。「January」や「You're My No.1」などが好きな方なら気に入る筈だと思います。この曲を朝の目覚ましに使ったらさぞ気持ちの良い朝が迎えられることでしょう。ところが詞に注目すると「僕には書きたい曲がある/でも客はみんな氷のように冷たい/多分明日の夜も」、「他の誰もこの世界に希望を持っていない」とかなり重い内容です。彼らを取巻くネガティブな状況から"Get Up And Go!"という思いが込められていたのでしょう。こういう爽やかさの陰に隠れた苦味も彼らの魅力の一つなのです。 |
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本作はファースト、セカンドと同じく Alan Parsons がプロデュース。Roy Thomas Baker が手掛けた前作も個人的に大好きでしたが、やはりこの音を耳にすると Parsons との相性が一番だと実感します。1977年というAOR全盛の時代の風潮か、アルバム全体は初期に比べてソフト&メロー寄りの作風になっています。とりわけ David が Billy との出会いを回想する「Library Door」や「One Good Reason Why」などの美しいバラードナンバーが印象的です。
大変残念ながら、このアルバムだけが現在に至るまでCD化の見込みが全く立っていない状態です。ところが、1999年に Ian が Alan Parsons Project の一員として来日した際に、David と『Two's A Crowd』の頃の曲を新しく作り直すプランがあると言っていまして、なんとこれが今年になって実現!この夏に突如発売された新作『Blue Yonder』では、『Two's A Crowd』の中から8曲の再録音が収められています。驚いたことに25年を経た今でも David の歌声も Ian のギターも昔のままで、どの曲も当時の Pilot のテイストが見事に再現されています。2曲の新曲も Pilot のファンならきっと満足できる素晴らしい出来映えです。更に彼らは次作のプランやライブも考えているそうです。もしかしたら「Get Up And Go」を目の前で歌う姿が見られるかも知れないですね。 (参考サイト) http://yokohama.cool.ne.jp/january/ (オフィシャルサイト) http://www.thelibrarydoor.com/thelibrarydoor/pilotpages.htm (醍醐英二郎) |
『Blue Yonder』 |