The Directions

We Need Love

1975/2002 " The Directions " Vitor/Brunswick VICP-62008 / CD





 不景気続きの日本にあってレコード業界もまたその例に漏れることなく未曾有の危機に瀕しているのだとか。やれレンタルだネット配信だ携帯電話にお小遣いを取られているのだと、CDが売れなくなる理由の分析はいろいろとあるようですが、本当に魅力のあるものであれば確実に歴史に刻まれるはずであり、数字にばかり目を向けていてもしょうがないじゃないですか、というのは気軽なリスナーのたわごと?。例えば新譜の全曲が完全にオンエアされたとしても作品に力があれば、それでも我々は買いに走るわけで、最近はそういった作り手とリスナーが「こういうのできたけどどうだ」「んん、すばらしい、じゃ買わせていただく」というように一対一で対峙しているような緊張感がないような気がしますね。息の長い名盤があまり出てこなくなった理由もその辺にあるんじゃないでしょうか。レコードは消費財ではないのだということを、売り手のレコード会社はもちろん我々リスナーも今一度認識しておきたいところです。


 なんて、生意気なことを言ってしまいましたが、そんなCDが売れない日本でも、こと古いレコードのCD化は引きも切らずといった感じで、果たしてこれをCD化して何枚売れるの?と逆にこっち心配したくなるほどレアな音源が次から次に日本発の「世界初CD化」として出てまいります。それはそれで文化の伝承、歴史の再認識という意味においては十分に意義のあることで、一部の好事家のものにすることなくcircustown.netでも積極的に紹介していきたいと思います。制作者の意図に敬意を表しつつ少しは援護射撃にもなれば幸いです。
 さて、前置きがやたら長くなってしまいましたが今日ご紹介するのもそんな一枚。まったく無名のグループながらその筋の方々にとっては、入手が極めて困難なコレクターズ・アイテムとしてよもやCD化(それも日本で)されるなんて思いもよらなかったというほどレアな一枚です。
 シカゴのレーベル Brunswick。Jackie Wilson をはじめ、Chi-Lites、Gene Chandler を輩出しシカゴ・ソウルの一時代を築いた言わずと知れた名門レーベルです。その名門レーベルの倉庫の隅にいつまでも横たわっていたであろう、しかし飛び切りのスウィートかつリズミカルなマスター・テープが、ようやく埃を払われて拾い上げられたといったところでしょうか。The Directions。詳しいバイオなどは分かっていません。解説にもあるように5人組のヴォーカル・グループのようでもあるけれども、"Directions Band"なるクレジットもあり、インスト曲も収録されていることから、ヴォーカル&インスト・グループであったこともうかがわせています。ヴォーカルはバリトンの Earl Haskin、テナー&リードの Willie Morrison、ベースの Kenneth Perry、もうひとりのテナー&リードが Howard Hopgood、そしてテナーの Lawrence Wooden の5人。Benny Clark & Willy Bridges のふたりがプロデューサーとしてクレジットされています。
 典型的なシカゴ・マナーのスタイルにファルセットとコーラスが応酬しそこにバリトンが絡み合う「We Need Love」はこのアルバムの最大の聴き所。スウィートで官能たっぷりの世界を堪能してください。「I Want To Be Your Special Man」、「She'll Never Say It」なども伝統のシカゴ・ソウルの雰囲気でぐいぐいときます。一方でコーラスの緊張感をたっぷりに披露したファンク・ナンバーも、いなたいインストものもあってバラエティ豊か。締めくくりの「If You Ever」ではバリトンとファルセットが交互にリードを取り合う、これまたスウィートな世界。知ることの喜び、邂逅の喜びを久しぶりに味わった一枚でした。

(脇元和征)





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