Brian Gari
Summer Means New Love 2002 " Brian Sings Wilson " Original Cast OC 6036 / CD |
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Brian Gari は、残念ながら日本ではいまださほど認知されてはいませんが、アメリカのショー・ビズの世界ではつとに知られた才人で、まず作曲家として、ブロードウェイのミュージカルなどを中心に、これまでに800を超す楽曲を世に送り出してきました。彼はまた、年季の入ったレコード・コレクターでもあり、「VANDA」の28号に掲載された Rod McBrien(Salt Water Taffy のレコード制作に携わったことなどで知られる、作曲家、アレンジャー、プロデューサー、エンジニア)へのインタヴューの中でも、Rod 自身がプロデュースしたものの手許になかったシングルを、Brian が蒐集して持っていたというエピソードが出てきたりしますが、実際、その実績を買われて、CBS や EMI などのメジャー・レーベルや Rhino や Sundazed などからリリースされたリイシュー・アルバムの数々に、資料を提供したり、原稿を寄せたりしています。また、彼の名は、The Beach Boys 関連のファンジンや、彼らのボックス・セット、『Good Vibrations』のブックレット末尾のAdditional Thanks のリスト中に見出されもします。そして、彼自身シンガーとして、これまでに4枚のアルバム(1枚は日本限定の編集盤)を発表しており、昨年発表された『Brian Sings Wilson』は、タイトルから察せられるように、その The Beach Boys の中心人物 Brian Wilson の諸作品をカヴァーしたアルバムです。
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さて、このアルバムを聴いてみると、すぐに、彼の声質や歌いまわしなどの少し枯れた感じが、昨今の Brian Wilson のそれに似通っていることに気付かされます。バックの演奏が幾分簡素な仕上がりとなっているのは、そのヴォーカルを最大限に活かすための配慮なのかもしれません。他方、肝心の選曲からは、彼がこの企画を永年あたためてきたことがそこここに窺われます。例えば、「Guess I'm Dumb」。『Pet Sounds』を先取りしたかのような、このレア・ストレンジ・サウンドを取り上げる眼力には、達郎さんの先例同様、脱帽です。それから、「Wonderful」。ライナーに寄せられた、作詞者 Van Dyke Parks の賛辞にもあるように、Beyond "Wonderful"!、集中白眉の出来でしょう。さらに、末尾を飾る「Caroline No」には、種明かしはあえて控えておきますが、ある仕掛けが設けられており、何度聴いても思わずニヤリとさせられます。しかし、このアルバムのハイライトは何といっても、「Summer Means New Love」ということになりましょう。この曲のオリジナルは、The Beach Boys のコアなリスナーならご存知のように、当初歌詞つきの曲として作られながら、最終的にインストゥルメンタル・トラックとなったといういわくつきのものです。それに Brian Gari が詞をつけているのですが、何でもこれは、彼が13の時に作詞を一旦は試みたものの反故にしておいたものを、37年の歳月を経て完成させたものだそうです。なるほど、この大胆な試みが奏功して、曲と詞とが破綻なく調和しているのは、彼がプロフェッショナルな音楽家としてこの間築き上げてきたキャリアの賜物だったんですね。
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すぐれたカヴァーは、聞き手を、オリジナル、カヴァー双方のアーティストの他の作品へといざなうものですが、『Brian Sings Wilson』もその例にもれず、聴きどころの多いこのアルバムをきっかけに、私は2人のBrian の諸作品に改めて耳を傾けてみたくなりました。
(T.M) |