Genesis
Pigeons 1977 "Spot The Pigeon" Charisma Gen 001/Single |
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今年に入ってから僕が最も聞き返すことが多いのは、実は Genesis です。ちょうど去年 Peter Gabriel と Phil Collins がそれぞれ久々の新作を出しましたし、また今年前半に Yes と King Crimson というプログレ界の巨人が相次いで来日することも遠因の一つです(Yes は9月に延期しましたが)。更に昨今の80年代リヴァイヴァル・ムードに触発されたところも無きにしも非ず。ちなみに僕がイメージする80年代ポップの典型は Hall & Oates、Genesis、 山下達郎。この三者は70年代の地道な音楽的研鑽が、80年代に大きく開花して商業的大成功に結実したという共通性もあります(相当強引)。ただ H&O も達郎氏も今も現役バリバリで活躍しているのに、Genesis (の本体)の方はあまり話題がなくて個人的にさびしいです。3代目のボーカリストがいつの間にか脱退したそうですし、残された Tony Banks と Mike Rutherford は今何をしているのやら。
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僕は Genesis に関しては、Peter による幻想的/演劇的作風が支配的だった70年代初期から、Phil を中心に世界的なスーパーグループの道を突き進んだ80〜90年代まで満遍なく愛聴しています。その中で比較的軽視されがちに思うのが、Peter 脱退後の『Trick Of The Tale』(1976年)から Steve Hackett が抜けてトリオとなる『And Then There Are Three』(1978年)までの所謂"中期 Genesis"の時代。70年代後半の英国グループらしい叙情性、クロスオーバーさながらのテクニカルでスピーディーなアンサンブル、そして高級MORと評したくなるようなメロディアスかつモダンなポップセンス、など今聴いても聴き所が多いと思います。改めてこの頃の彼らを聞いて感じたのは、"プログレ=前衛的で難解"という一般的なイメージと裏腹に、極めてエレガントなポップグループだったなということです。そういう意味ではプログレというよりも Procol Harum や 10cc などの様な英国産紅茶の香り漂うポップグループ寄りに捉えた方が座りがいいように感じます。
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中期 Genesis の隠れた名作として、1977年リリースの3曲入りEP『Spot The Pigeon』があります。『Wind & Wuthering』のセッションでの録音であり、Steve Hackett在籍時最後の作品です。彼らが「プログレ」から「モダンポップ」へシフトしていく瞬間の記録であります。このEPの収録曲は長い間アルバム未収録でしたが、2000年に出されたボックスセット『Genesis Archive #2』には2曲収録されています。EPのA面はその後のポップ展開を予感させる内容。A-1「Match of the Day」は後の「Follow You Follow Me」のようなシンプルな歌で、土曜日に行われるサッカーの試合風景が歌われています。審判への罵声がところどころに織り込まれて笑えます。A-2「Pigeon」は僕が一番好きな曲で、ELO「Mr. Blue Sky」辺りを連想させるポップソング。いわば「Beatlesの遺伝子」が脈々と彼らの中にも息づいていることがわかる佳曲です。肩叩きにあった公務員をトラファルガー広場に集まる鳩にたとえるなど歌詞はなかなか皮肉に彩られていて、なにやら Kinks や XTC に通じるところもあります。B面を占める「Inside And Out」は6分強の間に冒頭のアコースティック調のバラッドから、ダイナミックなインスト・パートへと展開していくドラマチックな作品で、戯曲風の歌詞を含めて中期 Genesis の集大成ともいうべき名作。余談ですが、雑誌「レコードコレクターズ」1991年1月号にて、この『Spot The Pigeon』をGenesisファンならば是非手に入れるべき重要作と力説していたのは、今やイタリアのポピュラー音楽研究の第一人者の片山伸氏。山下達郎氏の元マネージャーだということは有名ですね。(とまた強引に結びつけたりして)
(醍醐英二郎) |
Genesis Archive #2 |