Keali'i Reichel

Kananaka

1995 " Lei Hali'a " VICP 60372 ビクター・エンタテインメント/CD





 今年の夏は本当に暑い夏でした。地球温暖化の脅威がじわじわと迫ってくるような暑さ。南極の氷が溶け出して東京が水没してしまうという映画みたいな話もあながち冗談とはいえないような気候。
 それにしても極端に暑いとか寒いとかっていうのが続くとどうもこうミモフタモないというか、季節によって無常を感じる日本人の心までも失われていくような気がしてしようがありません。「春はあけぼの・・・」と古の人が綴った日本の美しい季節が何年か後には想像すらつかないようなことになってしまうのでしょうか。
・・・などというようなことを夏バテのぼんやりとした頭で考えながら、少しでも涼しくなるような音楽を、とボサノバなんかと一緒に今年の夏よく聴いたのがハワイの音楽。とりわけコンテンポラリー・ハワイアンと呼ばれる、現代のハワイアン・ミュージックをよく聴いた今年の夏。ようやく暑さもひと段落してきたので改めてそのいくつかを振り返ってみたいと思います。


 まずは有名どころから。Keali'i Reichel。彼はネイティブ・ハワイアンのひとりとしてフラを幅広く伝える活動をしていたという、いわゆるクムフラのひとり。
 タヒチをルーツとする確固としたポリネシアン文化を持ちながら、アメリカに併合されたことによって急速に西欧文明が入り込み、その多くが散逸してしまった歴史を持つハワイ。そうした文化をもう一度自分たちの手に取り戻そうという運動が、ネイティブ・ハワイアンのなかから湧き上がったのはここ数十年の動きだそうで、そうしたムーブメントの延長にハワイアン・ミュージックを現代的な視点から表現してみようという動きあるようです。70年代以降、ハワイ出身の多くのミュージシャンがメインランドのポップスやロックのイディオムを消化しつつ伝統的なハワイアン・ミュージックを取り入れた新しいエスニック・ミュージックを構築してきました。Keali'i は90年代半ばにクムフラとしての活動を基盤に新しいコンテンポラリー・ハワイアンの実践者としてハワイのミュージック・シーンに登場してきました。デビュー・アルバムに続きこの『Lei Hali'a』でもポピュラー・ハワイアン・アルバム賞を受賞し、今やハワイを代表するアーティストのひとりとして、日本でもコンサートを開くなど精力的な活動を続けています。
 Beatles や Richard Marx などのカヴァーを手がける一方、フラのチャントも丁寧に聞かせていて、ポピュラリティとともに歴史と伝統へのリスペクトが伺える音楽作りは誠実で素朴な味わいがあります。観光で訪れるだけの我々にはなかなか触れることの出来ないハワイ文化の深奥を垣間見れる Keali'i の音楽は何とも男らしく、程よく乾いていました。それが僕にいっときじめじめとした暑さを忘れさせてくれたのでした。

(脇元和征)





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