BAND AID
Do They Know It's Christmas 1984 Mercury 880 502-1 / Single |
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BAND AID が復活した。20年ぶりだそうで、今回の名称は BAND AID 20 である。説明は不要とも思うが、彼らはエチオピア飢饉救済のチャリティーソングを歌い、一連の「エイド」ものの中心になり社会現象にまでなった。おまけに元祖絆創膏の会社に難癖をつけられ、名称が使えなくなったなどという噂も聞かされていたので、復活には驚いた。
この曲が発表された1984年当時は60年代に次いで英国のバンドが活躍していた時代で、BAND AID に参加したメンバーにも、世界のトップヒッターがごろごろいた。いわば寄せ集めバンドではあったが「Do They Know It's Christmas」には、その当時の音が自然と出ていたと思う。筆者が思い出す80年代の英国の音というと、抜けの悪い打ち込みシンセと、男声ヴォーカルの「のど声」である。米西海岸の乾いた音と比べると、ぐしゃっとしたドラムスのエコーや、鼻に思い切りかかったのど声は、いくらニューロマンティクスとか言われても、実はずっと違和感があった。20年経た現在の耳には、当時ならではの風俗として「懐かしく」もあるのだが・・・ |
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まずはその「のど声」を検証してみよう。「Do They Know It's Christmas」のソロ(ソリ)は7名であるが、のど声大賞は、Boy George、Simon Le Bon、Tony Hadley の3名である。この3人は本当に発声方法がよく似ていると思う。のどから鼻にかけて、たっぷりとした色気を感じることができる唱法である。次に Paul Young と Bono ものど声ではあるが、彼らはシャウトの方法としてのど声が確立できていて、ここでの歌唱も感動できる。一方いちばん素直に声を出せているのが George Michaelである。聴いているこちらも伸びのびした気分にさせてくれる。残ったのが Sting 先生であるが、さすがに発声とフレージングにおいて抜きん出た歌唱である。
なお、こののど声ランキングは単に発声方法の観点からのもので、それが直接パフォーマンスの良し悪しの判断に繋がらないところがポピュラー音楽の面白い所である。現にサビでのBoy George の「おぉ?っ」という合いの手はこの曲の聴き所の一つではないか。 次に「打ち込み」だ。この曲は Bob Geldof が Ultravox の Midge Ure を誘って作った曲で、音は基本的に Midge のシンセサウンドである。これも80年代的ではあるが、この音作りは好きだった。美しく温かみがあり、クリスマス気分を誘うこともでき、募金集めにも相当貢献したであろう。 また、Phil Collins のばたばた叩いているドラムもよく、曲の表情を大変豊かにした。今回 Midge Ure の音を聴いてみようと Ultravoxのレコードをおよそ20年ぶりに出してみたが、何のことはない YMO の音だった。細かく言うと BGMをリリースした頃のYMO、あるいは歌謡曲をプロデュースしている細野晴臣の音にそっくりだった。 |
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せっかくであるので、BAND AID のメンバーたちの当時のヒットを見てみよう。
1983年は、前年に出てきた Culture Club (Boy Gorge)と Duran Duran (Simon Le Bon)が余勢をかって、大ヒットを飛ばしていた。「Karma Chameleon」、「Reflex」などが毎日聞かされていたわけで、そこに Spandau Ballet (Tony Hadley)の「True」もかんでいた。また Paul Young のデビューアルバム、U2 が『War』でのブレイクもこの年だ。またPhil Collins の Genesis は「That's All」で何故かスーパーバンドになっていた。翌84年は Style Council (Paul Weller)が「My Ever Changing Moods」をキメて、U2 が『Unforgetable fire』を、Police が『Synchronicity』という傑作を発表した。 さらに George Michael の Wham!が出てきて「Wake me up before you GO-GO」をヒットさせていた。この曲はとてもチャーミングであったが、ロッキンオン誌で松村雄作が「ワムはロックか?」と悩んでいたのもこの頃だろう。こんな84年の年の瀬に BAND AID は録音された。翌85年は今DVDで出ている『Live Aid』が7月にあり、その勢いでというわけでもなかろうが、8月にはCultur Club と Style Council が一緒に来日して、なんと野球場(横浜スタジアム)で2Daysも公演を行っている。 2004年の11月29日に発表された BAND AID 20 にも色々なメッセージがこめられている。その公式Webページによると現在でもアフリカの子どもは戦争、エイズやマラリアよりも、飢えで亡くなっていること、2005年の7月に、首相の Tony Blair を動員して、世界の富豪から募金を集める計画があること、などが書かれている。 (たかはしかつみ) |