2012.10.21
God's Counting on Me… God's Counting on You God's Counting on Me… God's Counting on You
Pete Seeger & Lorre Wyatt

A More Perfect Union (2012)

 「フォークミュージックの育ての親」 Pete Seeger の新譜がこの秋リリースされました。If I had a Hammer の原稿で作者であるピート・シーガーを紹介していただいたので、私からも敬意を表しつつ取り上げます。

 ピート・シーガー93歳にしての新譜は仲間の Lorre Wyatt とデュオで、ほぼ全曲が二人の作った新曲。取り上げた "God's Counting.." は、2010年メキシコ湾原油流出事故に対する曲で、それを "count on you" とか "pull through" などの言葉の繰り返しでフォークソングに仕立てています。ピートはさすがに大きな声は出ませんが、21名の大人のコーラス、8名の子どものコーラス、それにゲスト Bruce Springsteen のヴォーカルもあわせて、ポップスとしての心地よさも持つ作品に仕上げています。

 ピート・シーガーは1919年ニューヨーク生まれ、いまもNY郊外の自作ログハウスに暮らしています。カレッジを中退した後の1940年前後には、国会図書館での Alan Lomax の古いカントリーミュージックの発掘研究に協力し、フォークの歴史的存在である Leadbelly に会い影響を受け、先輩格の Woody Guthrie の放浪につきあいます。さらに後の The Weavers を一緒に結成する Lee Hays に出会うのもこの頃で、フォークソングにのめり込んでいきます。その後、日系人トシさんとの結婚、音楽慰安の兵卒として太平洋戦争での従軍を経て、1948年に Weavers を結成。Leadbelly の "Good Night, Irene" を大ヒットさせるなど、多くのフォークソングを世に届けます。さらに1950年前後のマッカーシズム(赤狩り)で失職するも復活、"We Shall Overcome" を公民権運動の讃歌に育て上げます。

 ピートの特徴は他の人の歌詞に新しい曲をつけたり、他の人の曲に新しい歌詞をつけたりといった作業にあります。音楽の大きな「貸し借り」が彼を通じて行なわれています。また、フォーク/プロテストといっても決して拳を振り上げる歌ではなく、誰にでもわかりやすい、ポップスとしても成立する形式で届けてきたことも重要だと思います。Peter Paul and Mary, The Kingston Trio, Brothers Four, The Byrds, Trini Lopez, The Tokens ("Lion Sleeps Tonight"), The Sandpipers ("Guantanamera") など、彼が送り出した曲をヒットさせた人たちは、メッセージ性の濃淡の差こそあれ、ピートのポップさをうまく増幅させている点は共通しているのでしょう。

 ピートはこのアルバムと同時に Woody Guthrie に捧げるアルバムも発表しています(しかも2枚組、ナント!)。まだまだバリバリの現役です。

今日の1曲(本アルバムリリース前のライブ映像)

(たかはしかつみ)




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