2013.01.31
Yesterday Yesterday
The Beatles

Single (1965)

 1月は「イエスタディの謎」を追っていました。

 達郎さんと大瀧さんの新春放談が終ってしまいましましたが、ラジオデイズというウェブ・ラジオで『大瀧詠一的』[1]という対談が2007年から流されていて、これで大瀧さんの動静をうかがうことができます。ホストが何年目の対談なのか平気で間違うようなお茶目な放送なのですが、毎年末の放流を楽しみにしています。

 イエスタディ事件は今回の『大瀧詠一的2012』で起きました。対談の中でビートルズのイエスタディは「シングルのA面か?B面か?」ということでもめるのです。石川さんが「B面だ」と主張するのですが、大瀧さん平川さん内田樹さんに受け入れられず四面楚歌。おまけに平川さんからそのシングルにパチもの認定までされてそれまで。実はこの下りには後日談もあるらしく、私もヒントをいただいていなくもないのですが、ここではそれから考えたことを中心に書きたいと思います。しかし今年の『大瀧詠一的』は『アメリカンポップス伝』の補講をして余りあるもので、Elvis から Buddy Holly、Everly、Beatles と高度に脱線していく対談は、昔の新春放談を思わせる所もあり最高です。

 さて、イエスタディの謎を追っかけます。私はイエスタディはず〜っとB面だと思っていました。その昔親に買ってもらったシングルのレーベルがリンゴの断面側だったので、忘れもしません。それどころか、イエスタディがA面という説があることすら知りませんでした。たしかにイエスタディがB面なのは座りが悪いのですが、カップリングのアクト・ナチュラリーもとてもいい曲なので、そんなものかと何も疑いを抱いておりませんでした。しかし今回調べて知ったのですが、多くの文献でアメリカのイエスタディはA面とされておりました。これには驚きました。
 どうしてこんなことが起きたのかを考えてみました。まずその背景としてビートルズのリリースの複雑さがあります。当時各国で独自の編集盤やシングルカットというのは普通だったようですが、とくに 米Capitol 社はビートルズに関して、いろいろ好きにできていたようです。イエスタディは英国ではアルバム『HELP!』の1曲でシングルカットは無し、一方アメリカでは独自シングルとして発表され、しかも『米編集HELP!』には含まれていないません。さらに日本は英盤米盤なんでもリリースしていたので、イエスタディのシングルも発売されました。ですから日本盤シングルではB面扱いであったというのは、ビートルズ本体の意思意向というよりは、いろいろな事情によるものと考えるべきです。
 次に今回はじめてA面/B面の区別の考え方についても知りました。歴史上シングル盤にA面/B 面の区別が最初からあったわけではなく、またあったとしても形式上のA面/B面の区別ができないものがあるといったことです。wikipedia はA面の定義を「アーチストやレコード会社がラジオ曲に宣伝してもらいたい面」[2]としています。60 年代においてもA面とか SIDE-1 相当の表記がレーベル上に必ずあったわけではなく、盤面からの形式判断は難しいようです。米盤イエスタディのシングルにおいても、どちらがA面かという明確なレーベル記載はありません[3]
 ではジャケット(Picture Sleeve)はどうであったか。日本盤は80年くらいまでずっと掲出のマフラージャケットでしたので、アクト・ナチュラリーが「上扱い」ということがわかりますが、米盤シングルは判断に困ります。というのもスリーブは両面で、同じ写真の同デザイン、曲順だけ違うのです。片側にはYesterday(上)Act Naturally(下)順で、逆側には Act Naturally(上)Yesterday(下)順で印刷されていました[3]。これではどちらがA面あつかいなのかわかりません。 ちなみにこのバターンはよくあったのか、例えばビーチボーイズの初期のシングルでも同じ様式のものがありました。

 以上から私は、米盤シングルでイエスタディはA面でもB面でもどっちでもよかった、と考えることにしました。むしろ、イエスタディを、ビートルズやレコード会社がどう考えていたかに興味を持ちました。

 イエスタディはどんなタイミングで、リリースされたのでしょうか。調べるとビートルズ3度目の訪米に当てています。

6.14 Yesterday 録音(I'm Down、I've Just Seen Her Face を同日録音)
8.1 Blackpool Night Out 出演(Yesterday、Act Naturally をステージ初演)
8.6 LP HELP (英) 発売(Yesterday の初出)
8.13 LP HELP (米) 発売(Yesterday なし)
8.15 米ツアー開始(Shea Stadium)
9.12 Ed Sullivan Show 放送(Yesterday、Act Naturally を演奏)
9.13 Single Yesterday (米) 発売(Yesterday の米初出)
10.9 Yesterday 米1位に
(参考)
9.15 LP HELP (日) 発売
11.15 Single Yesterday (日) 発売


 この US Visit には、8月15日のシェアスタジアムと9月12日のエドサリバンショーのふたつのヤマが仕込んであったように思われます。そしてそれぞれにアルバム HELP とシングル Yesterday が対応します。みごとなプロモーション戦略に見えますが、ビートルズは最初からイエスタディを主役扱いしていたのでしょうか?

 ここで私が前から抱いていた、もう一つの「イエスタディの謎」が頭をもたげます。それはジョージの「Opportunity Knocks!」発言です。ビートルズの未発表音源をぶちまけた公式盤『Anthology』には、イエスタディのライブも収録されていたのですが、そこのMCでジョージが何かを話して場内爆笑となるのです。不可解でした。
 この音は上記8月1日のブラックプールでのライブ放送からのものでした。私は今回初めて全体を映像を見たのですが、イエスタディに関してはなかなか微妙なことがわかりました。「Opportunity Knocks!」は人気のタレント発掘番組で、それをジョージが真似て「リバプール出身ポールマッカートニーさんの運命がノックされます」とやるわけです。さらに曲が終わるとジョンが花束をポールに持って来るもフェイントで、おまけに「サンキューリンゴ」とご丁寧なからかいようです。今でこそイエスタディはビートルズを代表する曲ですが、当時は微妙なチャレンジの認識がされていたのかと思いました。あと、これは「ソロデビュー」ですよね。よくよく考えると、ビートルズの「なんでもあり」感が確立するのは『ホワイトアルバム』あたりからでしょうから、いろんな意味で不安定なプロジェクトであったのでしょう。

 このブラックプールでのライブはたった6曲なのですが、全く同じ構成が一度だけあります。それが9月12日のエドサリバンショーです[4]。エドサリバンショーの広告が、ビルボードの9月11日号に出ています。そこにはこんなことが書かれています[5]

PREMIRER U.S.A.!
RINGO STARR SINGS SOLO!
PAUL McCARTNEY SINGS SOLO!

Watch both numbers performed in person by Ringo and Paul on the Ed Sullivan Show, September 12.


売る気満々です。
あれっ、リンゴの「Act Naturally」の扱いの方が、上じゃないかって?アクト・ナチュラリーにはまた別の興味深い誕生秘話があるのですが・・・「イエスタディの謎」は終わりそうにありません。



1965.8.1 Blackpool Night Out の映像

素晴らしい演奏で何度も見たくなります


1965.9.12 Ed Sullivan Show

さすがのビートルズも緊張で歌詞を間違えたり、顔がひきつっていたり・・・

参考文献

1) 大瀧詠一的, Radio Days, http://www.radiodays.jp/item/show/201061
2) A-side and B-side, http://en.wikipedia.org/wiki/A-side
3) The Beatles Record Collection, http://yokono.co.uk/collection/beatles/usa/ single/usa_single_1965.html##11
4) beatleg magazine 2月号 (vol.151)
5) Billboard, 11 September, pp.23, http://books.google.co.jp/books?id=PykEAAAAMBAJ

Thanks to Cafe Again 石川さん
(たかはしかつみ)




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