2013.09.27
あまちゃんオープニングテーマ あまちゃんオープニングテーマ
大友良英

連続テレビ小説「あまちゃん」オリジナル・サウンドトラック (2013)

あまちゃん最終回記念ダブルレビュー

その1です。

あまちゃんはローマの休日であり、能年玲奈はオードリー・ヘップバーンである。
あま酸っぱいラブコメディー。ヒロインがファニーフェイス。腹黒れぇ人も善人に。観ているものに「こんな楽しい時間が終わらないでほしい」と思わせてくれる。しかしローマの休日になくて、あまちゃんにあるものがある。それが音楽劇の要素だ。大友良英の劇伴だ。


あまちゃんのオープニングテーマの良さ

スナックで、観光協会で、奈落で、寿司屋で。このドラマの特徴は「みんなでやってる」。それを毎朝感じさせてくれるのがオープニングテーマ。イントロ直後に7連音のクレッシェンドが10本の管楽器で一斉に鳴るのだけでも好きだ。管楽器の演奏者の開放感が伝わってくる。

オープニングテーマはイントロと3つのメロディーからなっている。独特のリズムのAメロ、わざとらしいコードのBメロ、美しいメロディーのCメロ。

イントロは4種類用意したという。「あまちやんクレッツマー」のイントロもそのひとつだったが、ダサいくらい我慢しろよ!ということで「ドレミファソラシド」になった。しかしイントロは「ドレミファソラシド、ミードーラーラ♭ー」までである。「ミドララ♭」は最後が半音下がりきってないので「天国と地獄」ではなくて「渚のバルコニー」なのだ。松田聖子風イントロバージョンがきっとあったのだろう。

無理のないグルーブ。Aメロの、いっちに、いっちにと二拍子風に進むリズムは昭和歌謡をどっぷり浴びた我々に不思議な心地よさがある。スカのようなポルカのような音頭のような。

大友は著書「MUSICS」(岩波書店)の中で、昭和30年代の音楽の風変わりさを述懐している。

坂本九の「明日があるさ」やクレージーキャッツの諸作品を思い起こしてほしい。それらの多くはビッグバンドのアレンジを流用したものにすぎないが、しかし、日本語しか乗りようのないおよそジャズとはかけ離れた東洋風のメロディと、そのメロディにつじつまを合わせるようにジャズから引用したやや無理のあるコード進行、日本語のメロディをスイング風のビートに強引に乗せる手法・・・。これらの折衷案のようなアレンジがあいまって、実に不思議な音楽ができあがってしまっている・・・ でも、よくよく冷静に、少し距離を置いて聴いてみると、日本のあの時代以外にはどこにも存在しない、非常に個性的な、たぶんあの時代の日本人以外にとってはとても風変わりに聞こえる音楽なのだ。


当時、歌謡曲やテレビや映画の劇伴はジャズマン達が演奏していた。

歌謡曲や劇伴の世界では、ほとんど無自覚の状態で、非常に個性的な出来事が戦後間もないころから、いやもしかしたら戦前からおこっていたのではなかろうか。それはジャズとはまったく縁もゆかりもない日本の大衆音楽とジャズとの間につじつまを合わせるために生まれた苦肉の策だったのかもしれないが。


オープニングテーマのリズムは変だが無理がない。演奏者として楽曲に接していると「それ風」に歌え、弾けというという苦しみが出てくる。しかし、ぼくらのリズムの原体験には教会音楽があるわけでもなく、黒人音楽があるわけでもなく、さりとて民謡があるわけでもない。自分のグルーブってなんだろう。血肉にないグルーブは演っても出ないのだ。オープニングテーマのグルーブは、きっぱりと解答を与えている。昭和歌謡の変なものが、極めて純粋に洗練されたものだ。これをフリージャズやクラシックや歌舞伎の下座音楽などの背景を持つ、出自の理解が困難なビッグバンドが楽々演奏している。楽しいのだ。血肉になっているグルーブは心から楽しいのだ。

続いて弦が加わって、曲はBメロになだれ込む。メロディーがはねにはねて、ビートが80年代のフュージョン風になる。コード進行がくどくわざとらしく(「秘密の花園」だそう)、そこでどうしても感動のピークが来る。ちなみに火曜から土曜は時間の関係でBメロが6小節しかなくてとても困る。感動のピークをぶった切られてチャンチキが入る。ふざけてる。あっという間に曲はCメロに飛び込む。もうここは海中のシーンからアキが防波堤を突っ走るので、頭に入んなくなっちゃうんだけど美しい旋律だ。この旋律は「アキのテーマ」として単独で何度も劇中に出てくる。そしてAメロに戻って灯台のシーンでおしまい。灯台のシーンの遠景のアキちゃんがなんともいい。コンサートのステージ上で、大友良英が「能年さんの猫背にやられちゃって」と変なフェチをつぶやいていたのだが、その一言でなんだかわたしはこの前衛芸術家のすっかり信奉者になってしまった。それが7月2日のことだった。


オリジナル・サウンドトラック1&2

7月のあまちゃんビッグバンドのお披露目では、つくったのは150曲だか200だかと言っていたのだが、結局300超に。おかげでサントラのパート2まで発売された。ご本人は「ボックスセットになっちゃうから」とふざけているが、出してくれたら買いますよ。Beach Boys の「Smile」5枚組みたいなもんだ。でも、この演奏は Brian というよりは、大滝詠一のCM集なのかもしれない。曲がやたら短くて、しかもスタジオでミュージシャンの裁量を最大限尊重してどんどんすごいテイクが録れていく。

あまちゃんサウンドトラックの1と2で、71曲も発表されてしまった。ご本人は全体の2割とおっしゃっているが。71曲もだしてくれたんだから、こっちもオープニングテーマだけでは引き下がれん。やるべ。

大友良英のメロディーメーカーおよび泣かせる劇伴作曲家の代表作は、アキのテーマアキの涙。たくさんでてくるオープニングテーマの変奏の中でも中心にあるものだ。同じく名曲 Time家族と合わせて、オープニングテーマの美しいCメロがなんどもなんども楽しめる。希求はアキにもユイにも使われた曲で、いちばん あま酸っぱい 青春の曲だ。もいい。ぼくも三陸の海は震災後だけど何度か行ったことがある。美しい。なんでこんなに美しいところでと。。。この曲のとくにデモバージョンには録音スタジオのノイズがたくさん入っていてはっとする。息づかい、楽器の音。そういえば、最近の録音物は無駄がノイズがなくて味気なく感じることがある。

地味で変で微妙は乾いた大友良英の面目躍如!御存知の通りジミヘンの "Foxy Lady" なのだが、「地味で暗くて向上心も協調性も個性も華もないパッとしない子」からですよねえ。異物は南部ダイバーの先輩に出会った曲。これはびびった。あまちゃんクレッツマーは、あまちゃんビッグバンドの中心を構成するチャンチキトルネエドを再現した曲。残念なブルースは残念な曲。こういったリズムものの引き出しはどれだけあるのか。

もう一つの、さらにさらに重要な要素が、曲と一緒にアキたちが、物語の運命が、変わっていったこと。奈落ディセンバー、あるいは地元に帰ろう帰郷は、そして潮騒のメモリーは旋律が小出しにされながら、ストーリーが暗示されながら、曲の全貌が明らかにされていった。これを書いた時点ではさすがに今週の鈴鹿ひろ美は読めませんでしたよ。ちなみにステージを全部やってくれたら、「DON感ガール」が聴けたんだけどな。。。

友情軋轢、あるいは風、レールは、大友良英の本来のすがた?特に後2者はサントラ2が出て盤になってよかったなあという曲だ。風、レールはなんといったらいいか。秀逸な震災の表現。しかし、大友さんが前衛やってるDVDも観たのだけど、よくわからなかった(カヒミ・カリィがボーカルやってたりしたんだけど、よくわからなかった・・・)

それで、今週最終週、灯台のCDに入ってないバージョンがかかってるでしょ。長見"マダムギター"順と大友の力強いストロークでガツンとこられたときは困った。この曲は決意の曲なのだが、アキがむちゃなことをしても、この曲がすべてを正当化してしまうという。

朝になると、あまちゃんの最終回がはじまってしまう。
ドラマは、そしてこのずぶんは、どうなってしまうのだろうか。





あまちゃん班員その2です(笑)。

この半年間、わたしの生活のリズムは『あまちゃん』に依存していました。早あま(BSで7時30分から)、本あま(地上波8時から)、観られるときは昼あま(地上波12時45分)、起きてたら夜あま(BSで23時から)、そして録あま。録画したものを見返すのです。もちろんすべてを観ることはできないのですが、時間軸が完全にあまちゃん主導でした。結構長いこと生きてきましたが、ドラマにどっぷり依存するなんて初めてのことです。
ああ、明日でそれも終わりです。最終回まで飽きることなく、いや飽きるどころかこれからもずっと観返していく自信100%。脚本だけが評価されたり、主役だけが目立ったり、やたら豪華なロケだったりするわけでもなく、すべてのスタッフの愛と力とチームワーク、そしてこれがキモだと思うんだけど、視聴者が完全に親戚のおばちゃんおじちゃん甥っ子姪っ子同級生ご近所さんになってしまったこと、『あまちゃん』は、これらすべてが合わさっての奇跡のドラマだったと言い切ってしまいます。
そして、この盛り上がりに大きく貢献したのがSNSです。Twitter であまちゃん関連のハッシュタグがいったいいくつ出来たことか。放映時間に『#あまちゃん』でリアルタイムにツイートを追うと、そこは巨大なお茶の間と化し、全国、全世界で観ている人たちと感想を分かち合えるのです。こんな楽しみ方、かつてなかったことです。

音楽を担当した大友良英さんは、お話上手で文章上手。このことが、さらにこのドラマを楽しくした要因のひとつと思われます。映画はともかく、テレビドラマや演劇の音楽は、主題歌や挿入歌は注目されても劇伴がこんなに日の目を見ることはないと思うのですが、あまちゃんは違いました。Twitter やインターネットでの記事で大友さんがけっこう細かく解説してくれたことが、視聴者のドラマの観方を変えたのです。
サントラ盤が2枚出ていますが、どちらにも大友さんによる詳しい解説がついていて、音楽そのものを聴くのも良し、使われた場面をリプレイして画面とともに聴くのもまた良しと、2倍楽しめる感じになっています。
わたしは結構長く生きているのにも関わらず、劇伴を作るという作業の大変さなど、ついぞ気にしたこともありませんでした。どんな現場でも大変なのでしょうが、『あまちゃん』の劇伴は、大友さんの演奏スタイルが即興的なことに加えて、スタッフのみなさんの熱量があまりにすごくて、それが反映されての出来映えということなのでしょう。

北三陸も東京も、日本ですから。ってことは、わたしが住んでる街もあなたが住んでいる街も、日本ですから。この話は日本のどこででも起こりうる日常を丁寧に描いたお話だからこそ、みんな共感できたのだと思います。
このレビュー、音楽度10%だったなあ。申し訳ありません。
最後に。サントラ盤、一家に2枚の名盤でがす。宣伝になっちまったが、分かるヤツだけ分かればいい。お構いねぐ。

(おら、あまちゃんが大好きでがズ)




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