2014.09.30 - 追悼大瀧詠一
朝日麦酒 三ツ矢サイダー'73 朝日麦酒 三ツ矢サイダー'73
大滝詠一

伊藤アキラ CM WORKS ON・アソシエイツ・イヤーズ (1973)

ブラウン管から流れてくる三木鶏郎さんの音楽を聴いた最後の世代だと思う。子供の頃よく見ていた「トムとジェリー」の歌をはじめ「明るいナショナル」や「キリンレモン」、「クシャミ3回ルル3錠」などのCM音楽の数々。考えてみると毎日のようにトリローソングスに触れていたのだと思う。当時はそれがトリローさんの作品だということには無自覚だったのだけれど。
トリローさんは戦後まもなく米軍検閲のもとNHKラジオで「日曜娯楽版」という番組を始める。この番組でトリローさんは”冗談音楽”という社会風刺を込めたコーナーを企画するのだが、ここから三木鶏郎グループという制作集団が生まれ、やがてそれは”冗談工房”へと発展していく。
この間1951年に民間放送の開局と同時に日本初のコマーシャルソング「僕はアマチュアカメラマン」を発表し、以降数々のコマーシャルソングを世に送り出した。トリローさんは元祖コマソン作曲家として、戦後復興から高度経済成長へと登り始めた日本で一時代を築いたのだった。

”冗談工房”にはキノ・トール、能見正比古、永六輔、野坂昭如、いずみたく、神津義之、越部信義、楠トシエ、中村メイ子、なべおさみ、左とん平ら数多くの才能が集結していたが、ここにトリロー門下のディレクターとして、後に”ONアソシエイツ”を設立してCM音楽プロデューサーとして活躍することになる大森昭男さんや、学生時代から冗談工房に出入りしていた作詞家の伊藤アキラさんもいた。

トリローさんのもとでCMソングの制作をつぶさに見ていた大森さんは、1972年に独立して”ONアソシエイツ”を設立する。日本の音楽がちょっとかっこよくなり始めたころ。独立したばかりの大森さんは積極的に若い才能を発掘し起用していく。駆け出しのアレンジャーだった瀬尾一三やシングアウトのメンバーとしてNHKの「ステージ101」で活躍していた樋口康雄、小室等や及川恒平、若き日の小田和正と鈴木康博など、新しい才能を見出していく。

そんな中に大瀧詠一がいた。当時大森さんは新しい人を起用しようということでいろんな音楽を聴いていてその中に、はっぴいえんどがいた。ちょうど解散が決まっていて大瀧さんがソロ・アルバムを出すというタイミングだったようだ。
”ナイアガラ”は船出したばかり。”ONアソシエイツ”も立ち上がって半年ほどという状況の中で、新しいものを作っていこうという気概が二人を結びつけたのだろう。「Cider’73」はナイアガラでの初めての作品となる。
大森さんからオファーの連絡を受けた大瀧さんは詞を担当するのが鶏郎門下の伊藤アキラさんだと聞いてオファーを受けたという。
オファーを受けて大瀧さんは伊藤さんに歌詞の始まりは”あ”にしてくれという注文を出す。
それが、

 “あなたがジンと来る時は 私もジンと来るんです”

という、CMソング史に残るフレーズへとつながる。そのあたりの秘話はここに詳しい。

伊藤アキラさんのCM作品の数々は”冗談工房”で培ってきた諧謔精神に貫かれたおかしみと、そこはかとないロマンティシズムに溢れている。そして大瀧さんの作品にもそれが色濃く反映されている。

「Cider」シリーズは『Niagara CM Special』でいくつものパターンを聴いていたのだけど、この『AKIRA ITO CM WORKS ON ASSOCIATES YEARS』で他の人の作品と一緒に並べて改めて聴くと、大瀧さんの曲はやはりロックンロール。そこはくっきりとしている。

三ツ矢サイダーのCMソングを最初に手掛けたのは三木鶏郎、次が筒美京平でその後大瀧詠一と続き、山下達郎を挟んでサザンオールスターズへと続く。後に三ツ矢サイダーはポップス史だと大瀧さんは語っている。

トリローさんと大瀧さんは直接一緒に仕事をしたことはなかったのだが、「系譜」を大切にする大瀧さん。トリローさんの薫陶を受けた、大森さんや伊藤さんと仕事をすることで、自らもトリロー系譜を継ぐCM作家に連なるという思いがあったのかもしれない。鶏郎門下の孫弟子なので大瀧さんは自らを”三木卵郎”と名乗ったりして・・・、大瀧さんらしい。

楠トシエ『みんなが知ってるコマーシャル・ソング集』(1960)

トリローさんが手掛けた楠トシエのCM集に倣い10インチで出された『Niagara CM Special』(1977)


クライアントの要望、曲のサイズや映像から受ける制約などCMソングを作るのは何かと不自由なことが多いと思われる。それだけに余計に創作への闘志が湧くのだろうか。
その制約が故にCMソングの制作は広範な音楽のパターンを試す実験場となっていった。『Niagara CM Special』を聴くと様々なリズムパターンや曲調、アレンジへの挑戦がうかがえる。企業名や商品名を印象に残る分かりやすいフレーズにして数十秒で万人に向けて発していくというのはなかなかの挑戦だ。

ラジオを出発点としてCMソングの始祖となった三木鶏郎さん、70年代を中心に所謂コマソンの隆盛を形作ってきた大森さんや大瀧さんの時代を経て、80年代以降CMはタイアップ全盛となっていく。コマソンの数々を聴いていると懐かしさとともに時代の移ろいを感じる。

そして2014年のただいま今日も堂々と”大滝詠一”のクレジットを冠して「君は天然色」がお茶の間へと流れてくる。CMソングでも名を残した大瀧詠一の面目躍如と言っていい。



今日の1曲
(Kazumasa Wakimoto)




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