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Jimmy Webbの音楽はとてもシンプルで真っ直ぐに響いてくる。ギミックがなくて美しくてそして力強い。

2015.02.08
Wichita Lineman

Wichita Lineman

Glen Campbell

Wichita Lineman (1968)

"ウィチタ"というのはアメリカ中部のカンザス州にある都市の名前だ。人口30万人ほどの典型的なアメリカの地方都市。そして"ラインマン"というのは電線を保守するエンジニアのことである。

この「Wichita Lineman」を作詞・作曲したJimmy Webbはカンザス州の隣オクラホマ州のエルク市という小さな町の出身。この曲は彼が故郷の近くで実際にドライブ中に目にした、電柱に登って作業する作業員の姿をモチーフに作られた曲だ。

荒涼としたまさに荒野を走る車窓から遠くのほうに見える鉄塔によじ登って作業する一人の男。何もさえぎる物のない視界の先でその姿は、5秒、10秒と長い時間彼の視線を釘づけにしていたのかもしれない。
僕はカンザスにもオクラホマにも行ったことはないが、この曲を聴いているとなぜかそういう映像がありありと脳裏に立ち上がってくる。

作業をする男以外には誰もいない景色。市民生活を支えるライフラインを黙々と守る男。なくてはならない、でも決して華やかでも注目されるわけでもないまさに一隅を照らすかのような男の仕事。彼にもまた家族や恋人や友人がいてそして彼自身の人生があるはずだ。そんな市井を生きる男の物語が鮮やかに紡ぎ出されていく。

自らもオクラホマの小さな町で一市民として育ったJimmy Webb。取り立てて劇的なドラマがあるわけでもない、平凡でどこにでもある淡々とした人生に向けられる眼差し。それは彼もそうした市井の一人であったかもしれないからか。

彼はやがて、幼いころから親しんだ音楽の道を志してロサンゼルスという大都会に移り住む。The 5th Dimensionに書いた「Up, Up And Away (ビートでジャンプ) 」のヒット、そして憧れていたGlen Campbellが「By The Time I Get To Phoenix (恋はフェニックス) 」を取り上げたことでその夢を掴む。

でも、アメリカン・ドリームそのもののような彼の人生にも、その初期には強烈な脱出願望があったのではないかと思うのだ。僕が彼の音楽に惹かれる核となるような何かがあるとすればきっとその部分ではないかと思う。都会への強い憧れや脱出願望とともに、自分を育んでくれたのに、でも去って行った街への複雑な郷愁というものが彼の音楽から感じられるような気がするのだ。
「By The Time I Get To Phoenix」、「Wichita Lineman」、「Galveston」。アメリカの地方の街を歌った曲が多いのも、彼が「ここではないどこか」を常に目指して旅していたからではないか。

Jimmy Webbはこの曲をGlen Campbellに書き下ろす。Glen Campbellもまた、アーカンソー州という田舎からロスに出てきて、スタジオ・ミュージシャンとしてギターを弾きながらいつかスターになることを夢見ていた。Johnny Riversが歌った「恋はフェニックス」でJimmyの曲を取り上げてグラミー賞を受賞していたが、この「Wichita Lineman」のヒットでさらに不動のポジションを手に入れる。

Carol Kayeのベースが奏でる印象的なイントロのフレーズやGlen Campbell自らの演奏による間奏のギターなど、印象的で美しい旋律に彩られて、男が黙々と作業をする映像が鮮やかに拡がっていく。

96年にはヒット曲の数々を自らのピアノの弾き語りで録音した『Ten Easy Pieces』を発表しており、その中にはこの「Wichita Lineman」も収められている。紛れもなく彼のマスターピースともいえるこのアルバムを聴くとJimmy Webbが強くて美しい音楽の作り手であることがよく分かるのだ。

Jimmy Webbの音楽はとてもシンプルで真っ直ぐに響いてくる。ギミックがなくて美しくてそして力強い。


今日の1曲


(Kazumasa Wakimoto)