2015.07.12
Written on the Subway Wall
Dion
Yo Frankie (1989)
まずは Dion の「Written on the Subway Wall」 (1989) を聴いてみましょう。
今日の1曲
このロックン・ロールは Dion が過ぎし日を、1950年代のニューヨークを振り返る歌です。彼は地下鉄の通路で破れた Buddy Holly のポスターの前で歌います。そこに間奏で突如として Paul Simon が割り込み、彼のワンマン・コーラスで Elegants の「Little Star」が引用されます。
"Where are you, Little Star?"
それは過去への慕情でもあり、「スターはどこに行ったの」という問いかけでもあります。
The Elegants が「Little Star」をヒットさせたのが1958年夏のこと (8月25日のビルボードで見事全米1位を獲得) 。一方その頃の Dion は58年4月に「I Wonder Why」をスマッシュヒットさせており、翌59年3月には「A Teenager in Love」を当てます。Dion & The Belmonts と Elegants はどちらもニューヨーク出身。方やブロンクス (ベルモントアベニュー) 、方やステートン・アイランドと北と南と分かれますが、彼らが《ストリート・コーナー・シンフォニー》をしていたデビュー前から接点があったのではと想像力がかき立てられます。
1958年秋には、彼らは一緒にツアーをしています (アメリカ北東部を17日間で23公演!) 。Dion たちは毎晩「Little Star」と共演です。Buddy Holly を座頭に、Clyde McPhatter、Frankie Avalon、Bobby Darlin、Olympics、豪華スターです。興味深いのは Elegants の扱いが Dion & Belmonts よりも大きいこと。ぽっと出のティーンエイジャーもバスに乗せて大スター扱い。いやー子ども48人寄せ集めどころぢゃないですねこれ。
Buddy Holly の次なるツアーは1959年1月の中西部ツアーでした。スターが少ない分 Dion & Belmonts の扱いがでかくなっていますね。そして例の飛行機事故が起きます。Dion だけは搭乗していませんでした。スターが雪空に消えてしまいます。
時は流れて1980年代後半。Dion が《復活》します。Dion の復活というと、彼は何度も復活していますし、ある意味ずっと最前線であり復活という形容はふさわしくないかもしれません。しかし1980年代後半の復活は私にとって忘れられぬ眩しいものでした。
1987年12月13日、Paul Simon の呼びかけの支援コンサートがニューヨークのマジソンスクエアガーデンで行われます。そこで Dion は Simon、Lou Reed、Billy Joel、Bruce Springsteen を従え「A Teenager in Love」を歌います。NYオールスターズ。写真には入っていませんが Jame Taylor と Rubén Blades もいます。ここで Dion と Paul Simon の共演が実現しています。
その映像
マジソンスクエアでの勇姿が、そのまま翌年のグラミー賞の特別ゲストにつながります。1988年3月2日。この年のグラミーは30周年ということで、ロスを離れ、ニューヨークのラジオシティーで行われます。Dion はニューヨークのロックンロール《キング》としてショウのトリを勤めます。Dion & Lou Reed - Rubén Blades - Buster Poindexter (David Johansen) によるほぼアカペラの「A Teenager in Love」です。後からあとからでてくるのは Cadillacs、Regents、Flamingos、Angels。彼らもこの授賞式でドゥーワップショウを展開しています。 (ちなみにぼくはこの時アメリカにいたので、この中継を観てとても興奮しました。) ここで Dion と Lou Reed の《NY裏道キング》が運命付けられていますね。
その映像
そして、この2つのイベントを経て Dion が《復活》するのです。1989年5月発表のアルバム『Yo Frankie』。バンドは Dave Edmunds (gt) 、Terry Williams (dr) の 1/2 Rockpile に Phil Chen (bs) Chuck Leavell (key) の素晴らしい演奏。Paul Simon へは当時ピーターバラカンが「ホワイトドゥーワップの極み」のような賛辞を送っていました。Lou Reed もコーラスで顔を出します。
《地下鉄の壁》にはいなくなった《スター》Buddy Holly の姿が。そして「Written on the Subway Wall」というフレーズは Simon & Garfunkel の「Sound of Silence」の歌詞 (実は難解) からの引用という節も。50年代、60年代、80年代がつながって、Dion はいまだに輝き続ける《スター》です。
(たかはしかつみ)