2015.08.20
風街図鑑 風街図鑑
Various Artists(作詞:松本隆)

風街図鑑 (1999)

夏休みもこの時期になるとお尻のあたりがどうにもソワソワと落ち着かなくなっていました。
頭の隅にちらつく、まだ終わっていない自由研究、まだ読んでもいない読書感想文、まだ8ページも残っている漢字ドリル。でもとりあえずそんなことは頭の隅からも追いやってプールに行って来ようっと・・・。毎年夏休みも後半を過ぎるといつも何となく焦燥感とともにありました。

夏休みのちょっぴり苦い思い出がよぎるこの頃。何でも面倒なことは先送りにしてしまうダメダメなところは、まあ、今も大して変わってはいないですね。

今年の夏の自由研究は“僕の好きな松本隆”にしました。タイムリーでしょ(笑)。「男女それぞれ5人だけを取り上げること。はっぴいえんどのメンバーが歌った曲は外すこと」。これはなかなか厳しいルールを課してしまったとちょっと後悔・・・。
では、順不同で。


渚のカンパリソーダ/寺尾聰(作曲:寺尾聰 編曲:井上鑑)1981
寺尾聰と言えば何といっても「ルビーの指輪」。松本さんの最大のヒット曲ではないかと思います。その「ルビーの指輪」が収められたミリオンセラーのアルバム『Reflections』は全編井上鑑がクールなアレンジを施したアルバムでした。ルビーもいいけど、真夏のカンパリ・ソーダには気持ちよく酔いました。

“カンパリのグラス空けてしまおう 君に酔ってしまう前に”


タイム・トラベル/原田真二(作・編曲:原田真二)1978
この曲は「技あり」なのだそう。時間と空間と物語が複雑に絡まっていて、あまりに速い展開に自分がどこに立っているのか迷っていると、いつの間にかそこには驚くようなオチが待っているのです。

“時間旅行のツアーはいかが いかがなもの?”


はーばーらいと/水谷豊(作曲:井上陽水 編曲:石川鷹彦)1977
松本隆/井上陽水という珍しいコンビの曲。このコンビが77年時点ですでに実現していたのが驚きです。この曲が水谷豊のデビュー曲でもあるんですね。「風街ろまん」とか「おいらぎゃんぐだぞ」、「てぃーんず ぶるーす」など松本さんの作品にはカタカナをひらがな表記にすることで独特の諧謔性を醸し出しているものが少なくありません。

“黄昏ハーバーライト 指切りしよう 明日は君も微笑えるよう”


しらけちまうぜ/小坂忠(作曲:細野晴臣 編曲:細野晴臣、矢野誠)1975
誰かの声に生まれ変われるとしたらもう絶対に小坂忠さんの声で生まれ変わりたいと思います。そしたら歌手になるのに(笑)。松本さんは1949年戦後生まれの第一世代。こんなに情けなくてカッコ悪く強がる男が登場してきたのだから戦後は遠くなりにけり。そんな男をこの忠さんの声で歌われるのが堪らないのです。

“涙は苦手だよ 泣いたらもとのもくあみ しらけちまうぜ”


PEACE/南佳孝(作曲:南佳孝 編曲:川島裕二)1984
そんな49年生まれの松本さんはまさに全共闘世代。生きていく道筋や拠り所となるべき価値観が揺らぐ中で松本さんは「ぼくは裏側で孤独に自分の言葉を紡ぎながら、見えない地図を拡張していた」と言います。寄る辺なく漂う感じがここにある。

“ゴダールの映画って 難しくて嫌い カフェ・オレを見つめて 不機嫌顔
コルトレーン 聴きながら 煙草をふかしたね 「平和(ピース)」は ほろ苦い味がしたけど“



1グラムの幸福/飯島真理(作曲:飯島真理 編曲:清水信之)1984
女性にこんな風に言われたらうれしいよなあと思うような詞をいとも簡単に、呼吸をするように自然でさりげなく、こんなに切なく示してくれる。ほんの1グラムだけ。

“ああ 幸福を1グラム あげましょう ああ 何もないけれど 手のひらの上に乗せて”


九月の雨/太田裕美(作・編曲:筒美京平)1977
この曲を歌ったことで太田裕美は、歌い手としての幅を大きく広げていったような気がします。ドロッとした感情を濡れた車窓に溶け込ませることで純化させていく。ここにも風街があるような気がします。

“ガラスを飛び去る公園通り あなたと座った椅子も濡れてる”


風立ちぬ/松田聖子(作曲:大瀧詠一 編曲:多羅尾伴内)1981
かなりの冒険だったのではないかと思うのだけど、松本さんには確信があったのだと言います。それを歌いきってしまった松田聖子の力量たるや。引き出す力と呼応する力。

“風立ちぬ 今は秋 今日から私は心の旅人”


五線紙/竹内まりや(作・編曲:安部恭弘)1980
竹内まりやのデビューのきっかけになったのは鈴木茂の「8分音符の詩」を歌ったデモテープだったのだそうです。よくまたそんな渋い曲をと思いますが、そんな挿話を大切にしている松本さんがまた素敵だなと思います。行間に垣間見えるはっぴいえんど。

“あの頃のぼくらは 美しく愚かに 愛とか平和を詞にすれば それで世界が変わると信じてた”


探偵物語/薬師丸ひろ子(作曲:大瀧詠一 編曲:井上鑑)1983
想いを風景に語らせたらこの人の右に出る人はいない。刹那な言葉を紡ぐ松本隆の凄味を感じ取ることができる。もしかしたら僕はすべての松本作品の中でこの詞が一番好きかもしれません。なのにこの詞は小学校の低学年の頃に多摩川に遠足に行って水中のガラスの破片で足を切ったという幼い原体験がもとになっているのだそう。

“あんなに激しい潮騒が あなたの背後で黙りこむ”



今年の夏はちょっとだけ早く自由研究が終わりました。

※『風街図鑑』に未収録の曲もあります。

(Kazumasa Wakimoto)




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