2015.08.24
風街レジェンド 風街レジェンド
松本隆

風街レジェンド (2015)

チケットもぎりで参加賞の「木綿のハンカチーフ」をもらい東京フォーラムの階段を上がると、いつもの物販の行列。3500円のパンフは白一色の画用紙風の手触りに風街ロゴたちがエンボス加工されている。蛍光イエローのテープに「公演終了後にご覧ください」の封印。Tシャツやエコバッグが販売されているが、松本隆の特製ドラムスティックは早々に売り切れたようだ。面白いのは中古レコードのD社が関連アーチストの中古LPを大量に持ち込んでいる。店も店だが寸暇を惜しんでエサ箱でめくり始める客も客。


2015年8月21日/22日に東京国際フォーラム ホールA で行われた、松本隆 作詞活動四十五周年記念オフィシャル・プロジェクト 風街レジェンド2015 のミックスレビューです。


ホールに入ると緞帳が下がっている。ハーフスクリーンのようだ。ドラムやその他の楽器のセットが透けて見える。

初日、定刻の19時をやや回ったところでスクリーンに『風街ろまん』のジャケットが大写しに。そして開幕。あの3人がいる。上手側に細野晴臣ベース、下手側に鈴木茂ギター、中央に松本隆ドラムス。


はっぴいえんど/夏なんです
 ※はっぴいえんど(作曲:細野晴臣)1971

「おじいちゃん はっぴいえんどです」との細野さんのMCで始まるのは鈴木茂のギターイントロからこの曲。ドラムの林立夫やキーボードの井上鑑がサポートについている。


はっぴいえんど/花いちもんめ
 ※はっぴいえんど(作曲:鈴木茂)1971

ステージ背景とステージ外左右に巨大スクリーンが設置され、鈴木茂のヴォーカルが、松本隆のドラム姿が大写しになる。


はっぴいえんど・佐野元春/はいからはくち
 ※はっぴいえんど(作曲:大瀧詠一)1971

続いて「3人で相談してこの人」と佐野元春が呼び込まれる。彼らしいスキップで入って来て「はいからいずびゅーてぃふる」。熱唱。松本隆が間奏のドラムソロを決める。


宮崎あおい(朗読録音)/夏色のおもいで
 ※宮崎あおい(作曲:財津和夫)2015
 ※チューリップ(作曲:財津和夫 編曲:川口真・チューリップ)1973

いったん幕が下りて『風街であひませう』のボーナスCDから宮崎あおいの録音が流れる。このチューリップの詩の朗読が、バンドの一員から職業作曲家へつなぐ、風街レジェンド第2幕のイントロになっていたんだ。


太田裕美/木綿のハンカチーフ
 ※太田裕美(作曲:筒美京平 編曲:萩田光雄・筒美京平)1975

14名の風街ばんどが全員そろって、いきなりこのイントロ。太田裕美の振りに笑顔に声に、会場が持って行かれる。もうここで壊れる人多数。


原田真二/てぃーんず ぶるーす
 ※原田真二(作曲:原田真二 編曲:鈴木茂・瀬尾一三)1978
原田真二/タイム・トラベル
 ※原田真二(作曲:原田真二 編曲:原田真二)1978

原田真二登場。司会がいないイベントなので、ゲストがどんどん登場する。ピアノに向かって座り、ことの外客いじりがうまい。調子に乗って、「キャンディ」の一節も。固定ファンが適度に会場いろんな場所から黄色い歓声も心地よい。


大橋純子/シンプル・ラブ
 ※大橋純子&美乃家セントラル・ステイション(作曲:佐藤健 編曲:佐藤健)1977
大橋純子/ペイパー・ムーン
 ※大橋純子(作曲:筒美京平 編曲:筒美京平)1976

「初代学園祭クイーン」との大橋純子登場。昔のテレビの記憶と寸分違わず。歌声は信じがたい圧倒的なもの、マライア・キャリーより歌えるのではないか。


石川ひとみ/三枚の写真
 ※石川ひとみ(作曲:大野 克夫 編曲:葦沢聖吉)1981
 ※三木聖子(作曲:大野 克夫 編曲:船山基紀)1977

石川ひとみは自分の持ち歌で、かつ三木聖子のカバーから。当時は、ユーミン作の同じく三木聖子の「まちぶせ」をヒットさせたのでその流れらしく。その叙情性の表現はさらに磨かれていました、美しい。失礼ながらこのお年でハタチ前後のアイドル歌謡が成立すること、とくと見届けました。


中川翔子/東京ららばい
 ※中原理恵(作曲:筒美京平 編曲:筒美京平)1978

しょこたんのチャレンジ。超真剣に歌いきり、このカバーは正解。当時の中原理恵はいまのしょこたんの10歳年下だってー信じられる?


美勇士/セクシャルバイオレットNo.1
 ※桑名正博(作曲:筒美京平 編曲:桑名正博&ティアードロップス・戸塚修)1979

桑名正博とアンちゃんのふたり分のおもざしをみつけたくなる美勇士。父とは違うでも色気、でも色っぽい二代目「せくしゃる」。


イモ欽トリオ/ハイスクール ララバイ
 ※イモ欽トリオ(作曲:細野晴臣 編曲:細野晴臣)1981

ここで色物登場。「欽ドン!」のテーマ曲にのってフツオ、ヨシオ、ワルオが会場から登場。この曲のみテープは「バンドのメンバーを休ませるため」とのこと。テレビサイズでなくフルコーラス歌うのは初めてとのこと。長江君、やっぱりアイドルだわ。


山下久美子/赤道小町ドキッ
 ※山下久美子(作曲:細野晴臣 編曲:大村憲司)1982

学園祭女王がまた一人登場。ボディコン文句なくかっこいい。バンドのグルーブが最高。パンク〜ニューウェーブの音ですね完璧に。


早見優/誘惑光線・クラッ!
 ※早見優(作曲:筒美京平 編曲:大村雅朗)1984

アイドル歌謡の代表で、ついに花の82年組まで到達。この人は全く変わらない、本当に変わらない。


安田成美/風の谷のナウシカ(22日)
 ※安田成美(作曲:細野晴臣 編曲:萩田光雄)1984

少女のようにはにかむような微笑をたたえて、精一杯緊張して歌う安田成美も全く変わらない。歌い終わると緊張を振り払うように舞台袖に消えていく仕草も変わらずチャーミング。


鈴木准(テノール)河野紘子(ピアノ)/菩提樹
 ※(作曲:シューベルト)1992/1827
鈴木准(テノール)河野紘子(ピアノ)/辻音楽師
 ※(作曲:シューベルト)1992/1827

舞台が転じて、『松本隆 現代語訳によるシューベルト歌曲集「冬の旅」』より鈴木准のテノール。この企画は入れてもらって本当に良かった。原詩はドイツ語でミュラーの手によるもの。


伊藤銀次・杉真理/君は天然色
 ※大滝詠一(作曲:大瀧詠一 編曲:多羅尾伴内)1981

波の音が流れ、緞帳のスクリーンに「ロンバケ」のジャケットが大写しに。イントロの例の調音からカウントで、そこに立っていたのは、アコースティックギターを抱えた、伊藤銀次と杉真理の2人でした。銀次さんのやわらかい歌唱は大滝さんがのり移っていたと思いますよ。風街ばんど 大活躍。吉川忠英だけでなく、松原正樹も今剛もひたすらカッティング!


伊藤銀次・杉真理・佐野元春/A面で恋をして
 ※ナイアガラ・トライアングル(作曲:大瀧詠一 編曲:多羅尾伴内)1982

佐野元春を迎え入れて「ねじれトライアングル(by 銀次)」による「A恋」。ここまでどの曲もオリジナルアレンジを最大限尊重したもので、この曲もマシンガンこそないものの、ドリーミーなテイストが再現。この曲は佐野・杉のからみが聴けてしびれました。生で聴くとバディーホリーですね、この曲。


鈴木雅之/Tシャツに口紅(21日)
 ※ラッツ&スター(作曲:大瀧詠一 編曲:井上鑑)1983
鈴木雅之/冬のリヴィエラ(21日)
 ※森進一(作曲:大瀧詠一 編曲:前田憲男)1982

自称「大田区大森出身の初の黒人」のマーチン登場。井上鑑バッキングによる「Tシャツ」はレコードと寸分違わぬ音でリズム&ブルース歌謡の極み。続けて「リヴィエラ」を熱唱。ナイアガラ80年代レビューの極み。私の高校時代そのものです、マーチンありがとう。


稲垣潤一/Bachelor Girl
 ※稲垣潤一(作曲:大瀧詠一 編曲:井上鑑)1985
稲垣潤一/恋するカレン
 ※大滝詠一(作曲:大瀧詠一 編曲:多羅尾伴内)1981

ナイアガラレビューはこれじゃ終わらないと、稲垣潤一登場。ドラムではなく白の上下のスーツにハンドマイクで。大滝詠一に「伊達藩」といじられていたとの想い出を。しかし、江差も伊達藩と判明とは翌日のツイートから。「カレン」は井上鑑の趣味が炸裂していて、終盤は「Niagara Fall of Sound Orchestra」の雰囲気!


南佳孝/スローなブギにしてくれ (I want you)
 ※南佳孝(作曲:南佳孝 編曲:後藤次利)1981
南佳孝・鈴木茂/ソバカスのある少女
 ※TIN PAN ALLEY(作曲:鈴木茂 編曲:TIN PAN ALLEY)1975

ナイアガラ80年代レビューの余韻も惜しまれる中、舞台はビーチ映像からニューヨークの映像へ、主役は南佳孝へ。「うぉんちゅう」をたっぷりやってくれました。この日一番のロックンロール。そしてすぐさま鈴木茂が加わり「この2人でやるならこの曲」と「ソバカス」へ。


鈴木茂/砂の女
 ※鈴木茂(作曲:鈴木茂 編曲:鈴木茂)1975

南佳孝がステージを後にし、鈴木茂のオハコのこの曲。いまだに歌が上手くなっているとからかわれていましたが、やはり名曲。今剛、松原正樹とのソロ回しもしてくれて圧巻。


小坂忠/しらけちまうぜ
 ※小坂忠(作曲:細野晴臣 編曲:細野晴臣・矢野誠)1975
小坂 忠/流星都市(22日)
 ※小坂 忠(作曲:細野晴臣 編曲:細野晴臣)1975

小坂忠が満を持してここで登場。マッチ(近藤真彦)の香りがする曲だがパンフの解説には歴代ジャニーズJr.が歌って来ているとのことで。80年代の男性アイドル歌謡の枠を、この75年曲が埋めていました。


矢野顕子/想い出の散歩道(21日)
 ※矢野顕子(作曲:馬飼野俊一 編曲:矢野顕子)1995
 ※アグネス・チャン(作曲:馬飼野俊一 編曲:キャラメル・ママ)1974
矢野顕子/ポケットいっぱいの秘密(21日)
 ※矢野顕子+TIN PAN(作曲:穂口雄右 編曲:矢野顕子+TIN PAN)2015
 ※アグネス・チャン(作曲:穂口雄右 編曲:東海林修・キャラメル・ママ)1974

アッコちゃん登場。ここから(21日は)「独自の解釈」シリーズが4曲続くのだが、全く奇をてらったところはなく真心の解釈。「想い出の散歩道の歌詞の世界はいつも風景画のようにそこにあって、いつでも私はそこに入って行けるの」だったかな、アッコちゃんのわかるようなわからないような、でも説得されてしまうトーク。アグネスのレコーディングにはキャラメルママが呼ばれていたのだが、スタジオミュージシャンとして駆け出しのアッコちゃんもいたこともこのカバーの縁。とてもすごい音楽をしてるのにもかかわらず、ああ楽しかったわ、と満足だけを観客に残してアッコちゃん颯爽と退場。


吉田美奈子/Woman"Wの悲劇"より
 ※薬師丸ひろ子(作曲:呉田軽穂 編曲:松任谷正隆)1984
吉田美奈子/ガラスの林檎
 ※吉田美奈子&河合代介DUO(作曲:細野晴臣 編曲:吉田美奈子)2008
 ※松田聖子(作曲:細野晴臣 編曲:細野晴臣・大村雅朗)1983

そして吉田美奈子登場。薬師丸の難曲は「キー設定をなやんだ」とのことでこのレジェンド用のカバーか。聖子の方は2008年の細野さんトリビュートから。コンサートのハイライトの一つ。間奏でニカッと笑った顔は手応えのあらわれか。「家出同然だった自分を自宅で一晩かくまってくれた」とは松本隆への感謝の想い出。


風街ばんど(インスト)/スピーチ・バルーン〜カナリア諸島にて〜スピーチ・バルーン
 ※大滝詠一(作曲:大瀧詠一 編曲:多羅尾伴内)1981

ここで、はっぴいえんどセット、歌謡曲セット、クラシックセット、ナイアガラ&ティンパンセット、芸術セットに続いてメンバー紹介のインストを風街ばんどが演奏。風街なので、紹介のMCはなく画面のスーパーでのクールな紹介。スピーチ・バルーンは井上鑑のフェイバリットとのこと。ステージは最終の歌謡曲セット2へ突入。


中川翔子/綺麗ア・ラ・モード(22日)
 ※中川翔子(作曲:筒美京平 編曲:本間昭光)2008

持ち歌はやはり自信のパフォーマンス。今回のセットリスト中の最新作。


斉藤由貴/卒業
 ※斉藤由貴(作曲:筒美京平 編曲:武部聡)1985

斉藤由貴の緊張の会場にまで伝わる凛としたパフォーマンス。本当に斉藤由貴を見てしまったという記念。


EPO/September
 ※竹内まりや(作曲:林哲司 編曲:林哲司・EPO)1979

まりやの代わりにEPOが歌唱。オリジナルもコーラスEPOだからイントロから本物。EPOだから「シュビドゥビドゥビドゥビドゥビドゥバッパ」のコーラスも自分でやる。だからこれも本物。歌自体もEPOだから言うまでもなく本物。1曲だけでもったいない。


太田裕美/さらばシベリア鉄道
 ※太田裕美(作曲:大瀧詠一 編曲:荻田光雄)1980

太田裕美が再度登場。最重要曲のひとつを歌う。そしてステージは特別ゲストな大俳優(たち)の登場。実質本編は太田裕美で始まり、太田裕美で終わる。


水谷 豊/やさしさ紙芝居(22日)
 ※水谷 豊(作曲:平尾昌晃 編曲:石川鷹彦)1980

黄昏の背景をバックにイントロのセリフを呟きながら水谷豊が登場すると、空気がふっと入れ替わる。この振幅の広さが職業作詞家、松本隆の真骨頂ではないだろうか。


寺尾聰/ルビーの指環
 ※寺尾聰(作曲:寺尾聰 編曲:井上鑑)1981

ついに松本隆のレコ大曲の登場。井上鑑にとってもレコ大。当時も演奏はパラシュートだったはずで、今剛と大仏さんがステージフロントに移動して、寺尾聰と楽しいセッション。寺尾聰は細野さんと寸差で本公演の最年長とのこと。このカッコいい年代がカッコよさのままこの年齢に到達したのかと感慨。


はっぴいえんど/驟雨の街
 ※細野晴臣(作曲:細野晴臣 編曲:細野晴臣)2015
はっぴいえんど/風をあつめて
 ※はっぴいえんど(作曲:細野晴臣)1971

最後ははっぴいえんど、そして「風」は出演者全員で、21日は矢野顕子が細野さんのボーカルを引き取る形で、そして太田”歌のおねえさん”裕美から松本隆に大きな花束が。

22日は客席で見ていたというユーミンが花束を抱えて登場。興奮のあまり主役とあまたの出演者を食って喋りすぎのユーミンもまあ愛嬌か(笑)。

最後に本人が挨拶をする。「今日は今年90歳になる母が客席に来ています。小学校の6年生になった時に妹が1年生で入ってきました。生まれつき心臓の弱かった妹に代わって、母に妹のランドセルも持ってあげなさいと言われて、僕は2つのランドセルを持って学校に行きました。誰かを助ける、誰かのためにある自分というのが、自分の詞の原点だったように思います」。
この言葉がもしかしたらこのイベントのすべてであったのかも知れない。「透明な哀しみ」と「哀しみの裏側にある優しさ」。数々の歌い手たちの芳醇な表現の後に触れる、むき出しの生身の松本隆。

45年でもないけれど、40年ほど、自分が好きだったものがそこにはあった。体全体が記憶していて、体の全細胞の記憶が呼び起こされているようだった。40年前からの細胞はないかもしれないけれど。無我夢中で追っかけて来たものは、こんなに価値のある、価値が失われようもないものだった。気づくのは松本隆の個々の詩の良さだけでなく、楽曲や人選、あるいは歌手とのレコーディング前後から現在へつながる関係性の深さ。松本隆プロデュースの一貫した品質だった。また、その品質に応え高めるバンドとステージ演出もにくいものだった。

最後に大滝詠一のことであるが、改めて大滝詠一不確定原理説を考える。大滝さんは「そこにいるような、いないような」両方が重なった状態の存在。いることを強く意識すると、それはするっと逃げてしまうし、いないことが前提の今回のイベントにおいては存在感が発揮される。細野さんは「ちょっと遅かった、1人欠けちゃった」というけれど。

パンフへは「ネクストステージに進むための重要なクエストの攻略法(by 松本隆)」が掲載されている。みんなすてきな生き方をしていて、もしかしたらいつかは「大おじいちゃんはっぴいえんど」再結集だけでなく、松田聖子やキョンキョンや、薬師丸ひろ子が集うようなことがあってもいいじゃないか。「ハイティーンブギ」や「硝子の少年」の作曲者のかたもですよ!ぼくたちの歌謡曲の偉大さを改めて学んだ風街じゃすと4時間でした。

〔2015.9.16 誤記訂正〕ご指摘ありがとうございました



(風街ぶらざあず)




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