2015.11.09
Sometimes Sometimes
Kenny Rankin

Like A Seed (1972)

Kenny Rankinは60年代から活動してきたシンガー・ソングライターですが作品を辿ってみると寡作な人でした。2,3年に一枚ほどをマイペースで発表してきた人で、でもだからそのスタイルは彼のミュージシャンとしての佇まいからすると、とてもらしいものだったように思えます。そんなこともあって日本での認知度は今一つというか、好事家受けするような人ですが、熱心なファンに支えられて透明感のある都会的な音楽を生み出してきました。

このアルバム『Like A Seed』は72年に発表された3枚目のアルバムです。冒頭のタイトル曲「Like A Seed」には彼の子どもたちの声が入っていたり、奥さんのYvonne Rankinと共作した曲が何曲も収められていたりと、アット・ホームな雰囲気があります。そう言えば、お嬢さんを抱いたジャケットのアルバムが『Family』というタイトルだったり、後年発表したクリスマス・アルバムではジャケットにそのお嬢さんが描いた絵を使ったりと、その音楽の温もりのように家族を大切にしていることが感じられる人でもありました。

話がそれてしまいましたが、このアルバムはドラムのJim Keltner、ベースのLee Sklar、キーボードのLarry Knechtel、Victor Feldmanらが参加して西海岸で制作されました。
イノセントで透明感のある歌声とギターだけで自らの世界を見事に作り上げてきたKenny Rankin。ソウルやフォーク、ジャズ、ラテンを取り入れた作風には60年代の後期にニューヨークで青春時代を送ってきた人ならではの矜持が感じられます。
このアルバムからは後にAORのシンガーとして評価された時代の作品よりも、もっと内省的で深い陰影を湛えた響きが感じられます。

さまざまなアーティストの曲を自在に取り込んで、見事に自分のものとして発表してきたカヴァーの達人でもあったKenny Rankin。音楽を愛し音楽の神様に愛されていた人だったのでしょうね。
残念ながら2009年に69歳でこの世を去ってしまいました。何度か来日してその歌声を聴かせてくれていただけに、一度も生で聴くことができなかったのが今となっては心残りです。

(Kazumasa Wakimoto)




Copyright (c) circustown.net