2016.02.21
Rock The Boat Rock The Boat
The Hues Corporation

Single (1974)

「ナイアガラ音頭」はディスコである、というお話。大滝さんには何をいまさらと笑われそうですが。


1974年はディスコの曲がチャートに顔を出し始めた年です。2月に Barry White の「愛のテーマ」が、4月に MFSB の「ソウル・トレインのテーマ」が全米1位を取ります(いずれも billboard HOT 100)。特徴あるリズム、ゴージャスなオケ、この2曲は今の耳では、もろ《ディスコの古典》と聴こえます。


これらに続く7月に興味深いチャートアクションがあります。それはこの2曲。


Rock The Boat / The Hues Corporation (#1 on 1974-07-06)
Rock Your Baby / George McCrae (#1 on 1974-07-13)


軽いダンスチューン2曲が、7月に入れ替わり2週連続で1位を取ります。この2曲も《ディスコの古典》入りしていますが、今きくと《ポップなソウル》にしか聴こえません。何が起きていたのでしょうか?

元々ディスコというのは音楽様式ではなくて場ですから、やはり1974年当時のフロアの気持ちよさが反映していたのでしょう。踊れるけどさっぱりしてますよね、意外なほど。みんなどんな曲で踊っていたのでしょうか。そう思ってこの2曲を聴くと、どうも似ている。当時の気持ちのいいビートだったのでしょうか。リズムはこんなかんじ、「ドドッド・ドッド、ドドッド・ドッド」の繰り返し。


愛の航海リズム

"Rock the Boat" をヒットさせた Hues Corporation は、ロス・アンゼルスのグループです。演奏はロスの腕利きスタジオミュージシャンたち。ディスコらしいかどうかは別としても、目新しいリズムとは思えません。どちらかというとのんびりしているくらい。当のメンバーもディスコ・ソングという意識はあまりなかったようで、「この曲はラブソングにしてもらえなかったラブソング。でもディスコのおかげでディスコヒットにしてもらえた」と発言しています [classicbands.com]

この曲に目を付けていたのが、KC and the Sunshine Band を始めたころの、Harry Wayne Casey (KC) と Richard Finch。彼らはホームグラウンド、フロリダのクラブに潜り込んでは流行を研究していたとのこと。そして "Rock the Boat" にヒントを得て、George McCrae の "Rock Your Baby" を作曲したとのことです("Rock the Boat" のリリースは早かった) [songfacts]。これまた「ドドッド・ドッド、ドドッド・ドッド」同じリズムを刻んでいます。このリズムを "Rock the Boat" の邦題にちなんで《愛の航海リズム》と呼ぶことにしましょう。


さて、74年夏のディスコヒットは日本のシーンにどういう影響を与えたのでしょうか。翌75年に、これまた興味深い2曲が日本で吹き込まれます(リリースは76年)。

セクシー・バス・ストップ / Dr.ドラゴン & オリエンタル・エクスプレス (1976-03 発売)
ナイアガラ音頭 / 布谷文夫 with ナイアガラ社中 (1976-03 発売)

筒美京平と大滝詠一です。目を付ける人はつけます。《愛の航海リズム》です。「バス停」の方が少し跳ねてますけどね。

面白いのでメンツも書いておきます。

バス:d 林立夫,b 後藤次利,k 矢野顕子,g 鈴木茂
音頭:d 上原裕,b 田中章弘,k 坂本龍一

メンバーなんだか足して二で割ってというか、一軍と二軍というか(まずいか ^^;)。ふと気づいたのですが「バス停」のドクター・ドラゴンというのは京平さんのことか。一方「音頭」に出演のドラゴン教授はドクターの《一回り下》なのですね、うむ。
ちなみにこちらの音源は《各自で》お願いします。無料サイトだとバスは浅野ゆう子のしかありません。


「ナイアガラ音頭」のリズムも《愛の航海リズム》です。音頭の基本型「ドンドン・ドンガラガッタ」ではありません [ct]。そして例の「幻の放送」となったゴーゴーナイアガラの「Feeling Jockey」の回でも、大滝さんは「ロック・ユア・ベイビー」のヒントを出してくれていました [ct]。「ナイアガラ音頭」は大滝詠一からディスコへの回答、でどうでしょうか。


さて、こうやって聴いてくるとあちこちに子や孫が。まりやさんの「ドリーム・オブ・ユー」(山下達郎編曲の方)は「愛の航海」を思い出させますし、一風堂の「すみれ September Love」は「ロック・ユア・ベイビー」のいいところが生きてる気がします。《愛の航海リズム》は本当に日本語によく乗るんですね。


そんなことを考えてきたら、ビゼーの『カルメン』が聴こえてきましたよ。


ハバネラ / マリア・カラス


ディスコの《愛の航海リズム》は『カルメン』の《ハバネラ》・・? 《ハバネラ》はカリブ・・・?  ということで《愛の航海リズム》の旅は大航海のようですね。「ナイアガラ音頭」の謎解きはそうは簡単に行かない模様。本日はこの辺で。


(たかはしかつみ)




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