2017.10.15
		Promised Land Elvis Presley Elvis At Stax 2013 (1974)

富田さんから、ソングライター Chris Christian の紹介があり、Elvis Presley が歌う "Love Song Of The Year" が取り上げられまいた^{[circustown.net]}。めちゃくちゃいい曲。私もソングライターのクリスとエルヴィスの関係に興味を持ちました。

エルヴィスが "Love Song Of The Year" を録音したのは1973年12月のメンフィスのスタックス・スタジオ。1973年というと、1955年生まれのクリスが18歳！なのです。どうして18歳の若者の曲がエルヴィスにとりあげられたのか。

1973年のスタックスでの録音はエルヴィスにとって重要なものでした。エルヴィスは、1967年9月のナッシュビル (RCA)・1968年6月のロス (Burbank)・1969年1月のメンフィス (Sound City) の3都市レコーディングで〈復活〉するのですが ^{[circustown.net]}、復活後の仕事はTVショウのライブパフォーマンスが受けすぎたのでステージ中心のものとなります。復活で〈映画〉から足を洗えたのに今度は〈コンサート〉で、〈レコーディング・アーチスト〉としての仕事に集中させてもらえないのは皮肉なものです。

1973年はエルヴィスのキャリアにおいて重要な年だった。世界中で15億人以上が視聴したテレビ番組「アロハ・フロム・ハワイ」の成功で波に乗っていた彼は、驚くべき行動に打って出た−自分のことは自分でやると決めたのである。73年より前の作品の権利をRCAに売却し、新たに7年間の契約を確保し、新しい出版社を立ち上げた。これでもう、何をすべきかを彼に指図するものはいなくなった。彼が選んだ場所は地元メンフィスのスタックス・スタジオだった−『Elvis at STAX』オビより

しかしエルヴィスはスタックス・セッションで、なんのしがらみもなく好きな曲、新しい作家の曲を自分で選んで歌えるようになったのです。

そんな中、コーラスとしてセッションに参加していた Shaun Nielsen がクリスのこの曲を覚えていて、エルヴィスに歌ったことが大抜擢につながりました。

Love Song Of The Year (Chris Christian) / Elvis Presley (1975)

（なんと今年の夏に Chris Christian のインタビューがテキサスの地元紙に掲載されている^{[Abilene Reporter-News]}のですが、この奇跡の経緯が触れられています。クリスがこの曲を書いたのは中学生だったそうなのですよ。）

エルヴィスほどの人にしても、世の中しがらみというのはあるもので、いやむしろ人よりあり、それを断ち切るにもお金と契約という、クリスのおとぎ話の背後にはいろいろなことがあったのでした。

---

さて、スタックス・セッションでは次のような曲々が録音されました。

Raised on Rock / Elvis Presley (1973)
"Suspicious Mind" の作家 Mark James をふたたび起用。邦題「ロックン・ロール魂」。全米41位。

If You Talk in Your Sleep / Elvis Presley (1974)
黒っぽい魅力たっぷりのブルース。全米17位。

My Boy / Elvis Presley (1975)
フランス曲を Richard Harris が英詞でヒットさせたカバーの大バラード。これぞスポットライトに光る汗と涙。全米20位。

Promised Land / Elvis Presley (1974)
そして最後に紹介するのが、スタックス・セッションを代表するこの曲 "Promised Land"。
うれしいことに、エルヴィスは Chuck Berry のどロックンロールをスタックスに持ってきました。全米14位。全く異なるジャンルの曲を70年代でもチャート上位に送り込む、KING ここにありです。

なお、エルヴィスのスタックス・セッションは下記の3枚のアルバムで小出しにされていました。ジャケットがこれなので、ライブだと思って手を出さない人がいると思いますが、これから買う人は、スタックス音源がついにまとめられた標記の『Elvis At Stax 2013』が絶対良いです。

ところで、この曲をほとんど同じ時期にカバーしている歌手が日本にもいました。高田渡です^{[circustown.net]}。

しらみの旅 / 高田渡 (1973)
ワタルさんのは作曲アメリカ民謡となっていて、チャックベリーのは自作となっていますが、どちらも同じ曲です（"Wabash Cannon Ball" が原曲）。


それでは最後にチャックベリー版を紹介します。

Promised Land / Chuck Berry (1964)
チャックベリーは曲が強いです。彼の60年代の名曲です。こんな追悼の仕方ではチャックさんに叱られそうですが。


Chuck Berry 1926-2017