home about

ウクライナ生まれの映画作曲家 Dimitri Tiomkin その2

2022.04.13
The High and the Mighty

The High and the Mighty

Dimitri Tiomkin

(1954)

#Cinema Music Composers

(2022年4月3日SSB「リクエスト特集」で、Dimitri Tiomkin が書いた Nelson Riddle Orchestra "The Green Leaves of Summer" がかかりましたので)

Cinema Music Composers シリーズ
ウクライナ生まれの映画作曲家 Dimitri Tiomkin の2回目です。

Dimitri Tiomkin は1894年、現在のウクライナ (当時、ロシア帝国) のクレメンチュークでユダヤ系の一家に生まれました。1910年代のロシア革命後、無声映画のピアノ伴奏などをやっていたそうです。革命により音楽家の演奏機会が減少、1921年にドイツ、ベルリンに移住、そこで作曲活動をすることになります。
その後、パリに移住、友人と一緒にピアノ・デュオを組み演奏活動、ピアニストとしても腕を上げていきます。

そのピアノ・デュオの活動が注目されるようになり、アメリカの音楽プロデューサーからオファーを受け、1925年にアメリカ東海岸に移住。バレエ団に同行したりピアノ演奏会を行いました。1929年、世界恐慌により、演奏活動が思うようにできなくなり、新しい仕事を求めてハリウッドに移ります。映画の仕事に就きながらも、彼の夢はコンサートピアニストになることでした。

1937年、Tiomkin は腕を骨折、ピアニストとしての夢を断たれ、映画音楽の作曲家として生きる道を選択します。その年、フランク・キャプラ (Frank Capra) が監督する大型冒険映画『失はれた地平線』 (LOST HORIZON、1937) の音楽監督に抜擢。その後、『我が家の楽園』 (YOU CAN'T TAKE IT WITH YOU、) 『スミス都へ行く』 (MR. SMITH GOES TO WASHINGTON、1939) 、『素晴らしき哉、人生!』 (IT'S A WONDERFUL LIFE、1946) などフランク・キャプラ映画の常連として活躍。

1950年代に入って、Dimitri Tiomkin の下には大型映画中心に恋愛ドラマ、西部劇、スペクタクル、サスペンス、冒険映画など様々なオファーが舞い込むようになり、人気映画音楽家となりました。
1960年代以降も精力的に仕事を続け、1979年に85才で亡くなりました。

Dimitri Tiomkin における映画音楽の作曲技法は現在のハリウッドのエンターティメント映画の基礎になっています。またこれまでは劇判と映画テーマ曲は別々の作曲家が制作することが多かったのですが、Dimitri Tiomkin は劇判と映画テーマ曲の両方を手掛けた草分け的な作曲家でした。誰もが知っているテレビ映画『ローハイド』 (Rawhide、1959) のテーマソングも Dimitri Tiomkin の作品です。Tiomkin が今でも高い人気を誇っているのは、観た映画の記憶とともに映画のテーマ曲のメロディが心に染み込んでいるからだと思います。

今回は Dimitri Tiomkin が作った映画のテーマ曲、それも歌入りを中心に聴いていきたいと思います。


The High and the Mighty (Dimitri Tiomkin-Ned Washington) Title Sequence / Dimitri Tiomkin (1954)

The High and the Mighty (Dimitri Tiomkin-Ned Washington) / Victor Young and Singing Strings Whistling by Muzzy Marcellino (1954)

1954年の映画『紅の翼』 (THE HIGH AND THE MIGHTY) から。まず映画のオープニングシーンを。主演はジョン・ウェイン (John Wayne) で、映画『大空港』 (1970) 、それに続くエアポート・シリーズなど航空パニック映画の先駆けになった作品です。後半に口笛が登場します。この口笛を吹いたのが Muzzy Marcellino という元々ギターリストだった人で、同年、Victor Young の楽団をバックにレコードをリリースしました。胸がいっぱいになる心地よいメロディー、口笛です。


Friendly Persuasion (Thee I Love) (Dimitri Tiomkin-Paul Francis Webster) From "THE FRIENDLY PERSUASION" / Pat Boone (1956)

1956年のウィリアム・ワイラー (William Wyler) 監督映画『友情ある説得』 (THE FRIENDLY PERSUASION) から。主題歌を Pat Boone が歌い、同年 Dot Records からシングルがリリースされました。Pat Boone の甘い声が心地よくさせてくれます。


Wild Is The Wind (Dimitri Tiomkin-Ned Washington) From "WILD IS THE WIND" / Johnny Mathis (1957)

1957年の映画『野性の息吹き』 (WILD IS THE WIND) の主題歌。歌ったのは、Johnny Mathis で同年、Columbia Records からシングルがリリースされました。演奏は Ray Ellis And His Orch.。哀しいメロディに Johnny Mathis の切ない声がぴったり合っています。後に Nina Simone や David Bowie がこの曲を取り上げました。


The Guns of Navarone Theme (Dimitri Tiomkin-Paul Francis Webster) Theme From "THE GUNS OF NAVARONE" / Dimitri Tiomkin (1961)

1961年のアリステア・マクリーン (Alistair MacLean) 原作の映画『ナバロンの要塞』 (THE GUNS OF NAVARONE) の主題歌。溌溂としたテーマ曲ですが、ちょっと民族音楽的要素もあって一度聴いたら心に残るテーマ曲です。


Town Without Pity (Dimitri Tiomkin-Ned Washington) From "TOWN WITHOUT PITY" / Gene Pitney (1961)

1961年の映画『非情の町』 (TOWN WITHOUT PITY) から。1960年代に入って、当時の流行ポップスとのコラボです。主題歌を Gene Pitney が歌いました。プロデュースはポップス畑の Aaron Schroeder が担当しました。


So Little Time (Dimitri Tiomkin-Ned Washington) From "55 DAYS AT PEKING" / Andy Williams (1963)

1963年の歴史映画『北京の55日 』 (55 DAYS AT PEKING) から。Andy Williams が挿入歌、"So Little Time" を歌いました。ゆったりとしたメロディに夢心地です。


Jett Rink Walking From "GIANT" / Dimitri Tiomkin (1956)

最後にテーマ曲ではなく、劇判を聴いていきたいと思います。1956年の映画『ジャイアンツ』 (GIANT) から。ジェームズ・ディーン (James Dean) 演じる 使用人ジェット・リンクがベネディクト家から小さな土地をもらい受け、それを歩いて確認するシーン。カメラとジェット・リンクの絶妙な距離感、将来への希望そして Dimitri Tiomkin の素晴らしい劇判です。





写真:映画『非情の町』 (TOWN WITHOUT PITY) に出演したドイツ出身の女優、クリティーネ・カウフマン (Christine Kaufmann)

(富田英伸)