バート・バカラック その1:1960年代前半、東海岸
2023.02.15
Songwriterシリーズ、
Burt Bacharach を取り上げます。
今回、Burt Bacharach をSongwriterシリーズで取り上げるにあたって、代表曲以外に聴く機会の少ない楽曲、そしてできる限り楽曲の初出に関する情報も織り込みながら書き進めていきたいと考えています。
第1回 : 1960年代前半、東海岸を拠点として生み出された作品等
Burt Bacharach は1928年、ミズーリ州カンザスシティ生まれ。音楽好きの母親の影響で幼い頃からピアノを習っていたようです。大学時代に音楽理論を学び、ピアニスト、コンダクターの道を志したようです。その後、プロとして The Ames Brothers や歌手 Vic Damone 等のステージでピアノを弾くようになります。同時に Patti Page や Alma Cogan 等に作曲家として楽曲を提供していきます。
1956年頃、Burt Bacharach は後のパートナーとなる作詞家 Hal David とニューヨークのブリル・ビルディングで出会ったそうです。Hal David は1940年代から作詞家として活動していました。2人は早速ソングライター・チームを組み、活動を開始します。
Johnny Mathis に "Warm And Tender" という楽曲を提供。その曲が映画『Lizzie』 (1957) の挿入歌に採用されます。映画ではノンクレジットですが、Johnny Mathis が出演し、劇内で歌っています。
Warm And Tender (Burt Bacharach-Hal David) From "Lizzie" / Johnny Mathis (1957)
Warm And Tender (Burt Bacharach-Hal David) / Johnny Mathis With Ray Conniff (1957)
1957年、カントリー歌手、Marty Robbins に提供した "The Story of My Life" がC&Wチャートで1位を記録。そして Perry Como に提供した "Magic Moments" もヒット、この曲はアメリカのみならずイタリアやイギリスでもヒットしました。その後、2人は次々とヒットを送り出すヒットメーカーとなっていきます。
1958年には映画『マックィーンの絶対の危機』 (THE BLOB、1958) という映画が公開。主演はまだ新人のスティーヴ・マックィーン (Steve McQueen) 。その主題歌を書いたのが Burt Bacharach で共作者は Hal David の兄の Mack David でした。
1958年、友人で作曲家、アレンジャーである Peter Matz からマレーネ・デートリッヒ (Marlene Dietrich) のコンサートツアーの指揮、アレンジャーの仕事を紹介されます。Peter Matzは後に Burt Bacharach の作品や Barbra Streisand の一連のアルバム等のアレンジを担当した人です。マレーネ・デートリッヒはドイツ出身の大女優、歌手。アメリカでも映画『モロッコ』 (MOROCCO、1930) 等に出演し、成功を収めました。Burt Bacharach はマレーネ・デートリッヒのツアーがない期間を使って作曲活動をするようになります。
1963年辺りから特徴的な Bacharach らしいメロディラインが聴こえてくるようになります。その頃を中心に今回は1960年代前半の楽曲を聴いていきたいと思います。
They Long to be Close To You (Burt Bacharach-Hal David) / Richard Chamberlain (1963)
まずはとても好きなこの曲から。1963年、MGM Records からリリース。邦題「遙かなる影」で広く知られている楽曲。このリチャード・チェンバレン (Richard Chamberlain) のバージョンが初出です。リチャード・チェンバレンは『タワーリング・インフェルノ 』 (THE TOWERING INFERNO、1974) 、『ロマンシング・アドベンチャー/キング・ソロモンの秘宝』 (KING SOLOMON'S MINES、1985) の出演で知られる俳優で、特にテレビ映画『将軍 SHOGUN』 (1980) が有名です。アレンジも Burt Bacharach が担当。
Saturday Sunshine (Burt Bacharach-Hal David) / Burt Bacharach And His Orch. And Chorus (1963)
1963年、Kapp Records からリリースされた作品。Burt Bacharach 名義の作品では最初期の作品です。後にセルフカバーしますが、このバージョンは子供の声をフィーチャーし、可愛らしい作品となっています。
Who's Been Sleeping In My Bed? (Burt Bacharach-Hal David) / Linda Scott (1963)
星姫、Linda Scott に提供した曲。この曲もディーン・マーティン (Dean Martin) などが出演した映画『僕のベッドは花ざかり』 (WHO'S BEEN SLEEPING IN MY BED?、1963) のために書かれましたが、映画には採用されませんでした。アレンジを担当したのは The Shirelles、Maxine Brown などを手掛ける Stan Green。
Wives and Lovers (Burt Bacharach-Hal David) / Jack Jones (1963)
1963年、Jack Jones に提供した楽曲。後の Burt Bacharach の特徴的なリズムとなるスキップしたくなるような4分の3拍子の曲。元々はジャネット・リー (Janet Leigh) 主演映画『Wives and Lovers』 (1963) のために書かれた曲でしたが、映画には採用されませんでした。それにも関わらず、1964年のグラミー賞を受賞しました。映画主題歌になっていたら、アカデミー歌曲賞も受賞していたかも知れません。
この曲同様に映画のために制作されたのに採用されなかった曲に Gene Pitney が歌った映画『リバティ・バランスを射った男』 (THE MAN WHO SHOT LIBERTY VALANCE、1962) があります。
Be True to Yourself (Burt Bacharach-Hal David) / Bobby Vee (1963)
西海岸の Liberty Records の プロデューサー Snuff Garrett も Burt Bacharach の曲を見逃しませんでした。1963年、Bobby Vee への提供曲。いつもの The Johnny Mann Singers を従えて歌っています。アレンジは Ernie Freeman が担当。
Send Me No Flowers (Burt Bacharach-Hal David) From "SEND ME NO FLOWERS" / Doris Day (1964)
1964年の映画『花は贈らないで!』 (SEND ME NO FLOWERS) の主題歌。歌っているのは、主演のドリス・デイ (Doris Day) 。相手役はこの頃、ドリス・デイと一緒に多くの恋愛コメディで共演したロック・ハドソン (Rock Hudson) 。2人には Burt Bacharach のちょっとトボけて可愛いメロディがぴったり!です。アレンジは "Our Day Will Come" を世に送り出した Mort Garson。プロデュースは Ruby and The Romantics などを担当した Allen Stanton。
Me Japanese Boy, I Love You (Burt Bacharach-Hal David) / Bobby Goldsboro (1964)
1964年、United Artists Records からのリリース。The Webs という Roy Orbison のバックバンドに在籍していたこともある Bobby Goldsboro に提供した1曲。東洋趣味を押し出したエキゾティックで愛すべきメロディ。アレンジも Burt Bacharach。坂本九の"SUKIYAKI" (上を向いて歩こう) の全米リリースが前年の1963年なのでその影響もあったと思います。仕掛けたのは プロデューサー Jack Gold。
The Bell That Couldn't Jingle (Burt Bacharach-Larry Kusik) / Paul Evans (1962)
The Bell That Couldn't Jingle (Burt Bacharach-Larry Kusik) / The Anita Kerr Singers (1969)
最後にクリスマス曲を1曲。1962年、Paul Evans への提供曲。詩は職業作詞家 Larry Kusik が書いています。アレンジも Burt Bacharach。プロデュースは Allen Stanton。1964年には Bobby Vinton が取り上げました。今回は、1969年の The Anita Kerr Singers の可愛らしいバージョンも合わせて。
* Burt Bacharach と マレーネ・デートリッヒ (Marlene Dietrich)
(富田英伸)