バカラック その4:イギリス
2023.03.07
Burt Bacharach の4回目です。
第4回 : イギリスのミュージシャンに提供した楽曲とイギリス映画
この回では1960年代、イギリスで制作された楽曲を聴いていきたいと思います。合わせて、Burt Bacharach が関わった映画に関する事柄も取り上げていきたいと思います。
1965年、Burt Bacharach がそれまで作ってきたヒット曲中心のインスト・アルバムが企画され、録音はイギリス、ロンドンで行われました。アルバム・タイトルは『Hit Maker !』。ミュージシャンには Tony Hatch プロデュースでシングルをリリースしたことのある3人組女性ボーカル・グループ The Breakaways、後に Led Zeppelin を結成する Jimmy Page、John Paul Jones なども参加していたそうです。
第1回で紹介したように Burt Bacharach はあまり名が知られていない時期から映画に関連した曲を作ってきましたが、この頃になると映画の主題歌、挿入歌のオファーが増えてきます。『何かいいことないか子猫チャン』 (WHAT'S NEW, PUSSYCAT?、1965) 、『紳士泥棒/大ゴールデン作戦』 (AFTER THE FOX、1966) 、『アルフィー』 (ALFIE、1966) (主題歌のみ) 、『007/カジノ・ロワイヤル』 (CASINO ROYALE、1967) とその多くがイギリス映画でした。そのため、Burt Bacharach は数回渡英しており、楽曲提供のみならず、歌手達のスタジオ録音にも立ち会うようになります。
Alfie (Burt Bacharach-Hal David) / Cilla Black (Abbey Road Studios、1965)
Alfie (Burt Bacharach-Hal David) / Cilla Black (1965)
映画『アルフィー』 (Alfie、1966) のために作られた曲。同作品の監督だったルイス・ギルバート (Lewis Gilbert) からの依頼で、イギリスのシンガー、Cilla Black が歌うことになったそうです。録音は George Martin のディレクションの下、Abbey Road Studios で行われました。アレンジは録音に参加した Burt Bacharach。そのレコーディング映像が残っています。バックコーラスは The Breakaways 。
Don't Go Breaking My Heart (Burt Bacharach-Hal David) / The Breakaways (1965)
Don't Go Breaking My Heart (Burt Bacharach-Hal David) / Burt Bacharach (1965)
先の Cilla Black の "Alfie" でバックコーラスを担当した The Breakaways が "Don't Go Breaking My Heart" を歌った映像が残っています。The Breakaways は1962年に結成された女性ボーカルグループで、特に Tony Hatch が良く登用したグループ。Petula Clark の "Downtown"、"A Sign of the Times" 等のバックコーラスはこの The Breakaways が担当しています。Burt Bacharach のアルバム『Hit Maker !』の中で歌っているバージョンも The Breakaways がボーカルを執っているようです。1967年の The Jimi Hendrix Experience の "Hey Joe" のバックコーラスもこの The Breakaways とのこと。
Everyone Needs Someone to Love (Burt Bacharach-Hal David) / Cliff Richard (1965)
Through The Eye Of A Needle (Burt Bacharach-Hal David) / Cliff Richard (1965)
Burt Bacharach はこれまでも Cliff Richard に数曲提供してきましたが、この2曲が気に入っています。Norrie Paramor、Bob Morgan のプロデュースの下、Gary Sherman がアレンジを担当しました。録音は Abbey Road Studio で行われました。2曲とも1965年のアルバム『Love Is Forever』収録曲。
True Love Never Runs Smooth (Burt Bacharach-Hal David) / Petula Clark (1964)
初出は1963年、Gene Pitney のバージョン。出来は Petula Clark のバージョンがいいと思います。1964年リリースのこのシングルはA面がこの曲で、B面が第1回で紹介した "Saturday Sunshine" で、AB面共、Burt Bacharach の曲でした。ディレクションした Tony Hatch は Burt Bacharach の作り出す曲に敬意を払っていたと思います。Tony Hatch はアメリカの音楽シーンに対するアンテナは高いです。
London Life (Burt Bacharach-Hal David) / Anita Harris (1965)
度々、訪れたロンドンのことを思って作られた楽曲だと思います。歌っているのは Anita Harris という歌手兼女優で、以前、The Cliff Adams Singers のメンバーとして1963年、BBCテレビで、Nat King Cole と一緒に "That Sunday, That Summer" を歌っていました。Burt Bacharach の楽曲では他に "Trains and Boats and Planes" や "I'll Never Fall in Love Again" なども歌っています。
Make It Easy On Yourself (Burt Bacharach-Hal David) / The Walker Brothers (1965)
1965年にリリースされた作品。同年、UK Singles Chart の1位、US Billboard Hot 100 でも16位を記録、The Walker Brothers としても代表曲となりました。ディレクション、アレンジは Ivor Raymonde。ウォール・オブ・サウンドを意識した素晴らしいアレンジです。初出は 1962年の Jerry Butler。Jerry Butler はデビュー前の Dionne Warwick が歌ったデモ録音を聴いてこの曲を採用したとのこと。この曲は Dionne Warwick のデビュー曲として世に出る予定でしたが、 Scepter Records の意向によって見送られました。
* Cilla Black、Burt Bacharach、George Martin
(富田英伸)