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エピソード0 : バカラックサウンドの誕生

2023.07.18
Heavenly

Heavenly

Burt Bacharach EP0

(1959)

#Songwriter

Songwriterシリーズ
Burt Bacharach を再度取り上げます。

エピソード0 : "バカラック・サウンド" はいつ頃、どのように誕生したか?

Burt Bacharach の簡単な生い立ちや1963年以降の作品は第1回で紹介してきましたが、今回は Burt Bacharach が楽曲を作るようになった1950年代から1961年頃まで取り上げていきます。

特に Burt Bacharach の特徴的なメロディラインやリズムパターンがいつ頃どのように生まれてきたのか、探っていきたいと思います。

Burt Bacharach の名前が作曲者としてレコーディングクレジットに掲載されるようになるのは1950年代中期から後期辺りで、提供先の多くがポピュラーミュージック、ジャズシンガー達でした。その頃の音源を聴いてみましょう。


Keep Me in Mind (Burt Bacharach-Jack Wolf) / Patti Page With Jack Rael And His Orchestra (1955)

1955年、Mercury Records からリリースされた作品で、当時人気の高かった Patti Page に提供した楽曲で Burt Bacharach の書いた作品で最も初期の作品になります。アルバム『The Voices Of Patti Page』に収録。Jack Wolf という人と共作になります。この曲はB面に収録された楽曲で、A面に収録された楽曲、"Little Crazy Quilt" という曲は Leon Carr と Hal David の作品になります。こういったレコーディングを通じて、後の盟友、Hal David と出会ったのかもしれません。


Winter Warm (Burt Bacharach-Hal David) (1957) / Gale Storm (1957)

1957年、女優でもあった Gale Storm に提供した楽曲。当時のポピュラーソングのセオリーに沿った美しい素直なメロディライン。この頃から Hal David との共作が定常化していきます。演奏は Billy Vaughn の楽団。


Heavenly (Burt Bacharach-Sydney Shaw) / Johnny Mathis (1959)

Faithfully (Burt Bacharach-Sydney Shaw) / Johnny Mathis (1959)

第1回で書いたように 初めて Burt Bacharach が映画に携わった作品 "Warm And Tender"。この曲を歌った Johnny Mathis にはその後も楽曲を提供していくことになります。2曲とも Sydney Shaw という人との共作、Glenn Osser のアレンジです。2曲とも Johnny Mathis の美声にあった流麗な曲。


Loving is A Way Of Living (Burt Bacharach-Hal David) / Steve Lawrence (1959)

1959年、Steve Lawrence に提供した楽曲。Don Costa のアレンジ、プロデュース作品で、この時代に合わせ、少しずつ楽曲要請によりわかりやすいポップな曲も書くようになっていきます。




これまで聴いてきたように Burt Bacharach はこれまでのポピュラーミュージックのセオリーに則って楽曲制作をやってきたようです。しかし1950年代から1960年代にかけてティーン向けの音楽市場が大きく開拓されるようになると、Burt Bacharach もその要請に沿って楽曲を作っていくようになります。特に若者文化や映画の影響が大きく関係しています。


The Blob (Burt Bacharach-Mack David) From "THE BLOB" / Five Blobs (1958)

1958年、Burt Bacharach はティーン向けのSF映画の主題歌を書きました。映画タイトルは "THE BLOB"。後に主演を務めたスティーヴ・マックィーンが人気が出たことから邦題は『マックィーンの絶対の危機 (ピンチ) 』や『マックィーンの人喰いアメーバの恐怖』で知られている作品です。詩を担当したのは Hal David の兄の Mack David 。映画クレジットには Burt Bacharach の名前が掲載されませんでした。その後の Burt Bacharach の音楽スタイルを予感させるサックスをフィーチャーしいたヒップな曲です。シングルレコードには Five Blobs のグループ名が載っていますが、俳優でもある Bernie Knee という人が歌っているそうです。


Creams (Burt Bacharach-Paul Hampton) / Paul Hampton (1960)

Two Hour Honeymoon (Burt Bacharach-Paul Hampton) / Paul Hampton (1960)

1960年、当時若手俳優でまだ大学生であった Paul Hampton という青年と1枚のシングルを作ります。ノベルティソングで、Burt Bacharach は Paul Hampton の喋りにユーモアたっぷりの軽快な曲を付けました。これまで作ってきた正当な路線とは異なり、後のいわゆる"バカラック節" を感じ取ることができます。その後もコメディアン俳優のディック・ヴァン・ダイク (Dick Van Dyke) からのコミックソングの要請が来たり、Burt Bacharach は曲調の幅を広げていくことになります。
Paul Hampton はその後、ソングライターとしても活躍し、Don Gibson、Johnny Tillotson などに楽曲を書いています。


Indoor Sport (Burt Bacharach-Fred Tobias) / Sandy Stewart (1960)

Indoor Sport (Burt Bacharach-Fred Tobias) / Jo Stafford (1960)

ちょっと軽めで楽しい1曲。1961年、女優でもある Sandy Stewart が歌いました。Fred Tobias との共作。アレンジはこの曲の持ち味をしっかり引き出している Don Costa。Jo Stafford もその頃この曲を録音、それも合わせて。


Gotta Get A Girl (Burt Bacharach-Hal David) / Frankie Avalon (1961)

1961年、Frankie Avalonに提供した楽曲。音楽市場がティーンエイジ向けに開けてくると、Burt Bacharach もそれに呼応してティーン向けに楽曲を提供、人気作曲家となっていきます。オーケストレーションとコーラスワークを担当したのは Jerry Ragovoy です。


The Miracle of Saint Marie (Burt Bacharach-Bob Hilliard / The Four Coins (1961)

最後にこの曲を。1950年初頭に結成された歴史あるボーカルグループ、The Four Coins に提供した1961年の作品です。後に Burt Bacharach の持ち味となる切なさと大きなスケール感を感じ取ることができる曲です。詩は Bob Hilliard が担当、アレンジはトロンボーン奏者でもある Owen B. Masingill。プロデュースはその後の Burt Bacharach の道筋に大きな影響を与えることになる Jerry Leiber amd Mike Stoller.



(富田英伸)