1980年代のバカラック
2023.08.01
1975年以降の Burt Bacharach の曲をいくつか聴いていきたいと思います。
1980年代の Burt Bacharach
第7回で書いたように1973年映画『失われた地平線』 (Lost Horizon) の制作楽曲に関して、Hal David との訴訟問題が発生。Burt Bacharach 自身の音楽制作も停滞しました。しかし、Burt Bacharach と Hal David は1975年に一時和解し、Stephanie Mills のMotown Records でのアルバム『For The First Time』を全面プロデュースします。
その後、Burt Bacharach 自身も2枚程のソロアルバムをリリース。再活動の兆しが見え始めてきます。こういったソロアルバムでは西海岸ミュージシャンを始め、Libby Titus、Anthony Newley、Carly Simon といったソングライターともコラボを通じて新たな道を探り出していきます。1979年には Paul Anka とコラボして、映画『Together? 』のサウンドトラック盤を制作。主題歌は旧知の Jackie De Shannon が歌いました。
1980年に The Pointer Sisters に"Where Did the Time Go" を提供。詩を書いたのは1960年代から活躍していた女性作詞家、Carole Bayer Sager 。その後、Carole Bayer Sager の人脈での仕事が多くなっていきます。1980年の映画『ミスター・アーサー』ではこの映画に出演したライザ・ミネリ (Liza Minnelli) の夫の Peter Allen と当時新進シンガーソングライター Christopher Cross、そして Peter Allen の音楽仲間である Carole Bayer Sager、Burt Bacharach が共作、主題歌 "Arthur's Theme (Best That You Can Do) " は大ヒット、アカデミー歌曲賞を受賞しました。
* アカデミー歌曲賞を受賞した Burt Bacharach、Carole Bayer Sager、Christopher Cross、Peter Allen
ここで Carole Bayer Sager について簡単に触れておきます。
Carole Bayer Sager は1944年、ニューヨーク生まれ。子どもの頃から芸術に興味を持ち、学生時代に詩を書き始めます。1965年、女性作曲家、Toni Wine と組んで、女性2人デュオ、Diane & Annita に"A Groovy Kind of Love" を提供。女子組オンリーで作成したこのバージョンは残念ながらヒットに至りませんでしたが、同年、イギリスのビートグループ、The Mindbenders が取り上げ、UK Singles 2位、アメリカでも US Billboard Hot 100 2位の大ヒットとなります。
こうやって Carole Bayer Sager は人気作詞家となっていきますが、作詞家としてこれまで知り合ったBruce Roberts、Peter Allen、Marvin Hamlisch といった作曲家の協力を得て、1977年ソロアルバム『Carole Bayer Sager』をリリース。特異な彼女の声を生かし、アメリカ都市部で働く女性の気持ちを繊細に描いた作品となり、高評価を得ます。翌年の1978年にリリースされたセカンドアルバム『...Too』は前述のソングライターに加えて、Jay Graydon、David Foster といった当時新進のミュージシャンも加わり、サウンド面においてもよりコンテンポラリーな洗練されたアルバムとなります。
このような状況で、Carole Bayer Sager は Burt Bacharach と知り合い、恋に落ち、生まれたのが、1981年のサードアルバム『Sometimes Late at Night』でした。このアルバムは事実上、Burt Bacharach の完全復活を意味し、Burt Bacharach としても重要な作品として位置づけられます。
以降、1980年代に制作された楽曲の多くが Carole Bayer Sager と関係が深い、ソングライターとのコラボレーションによって制作されています。想像するに個々のソングライター達が書いてきたメロディに Carole Bayer Sager が詩をつける際、Burt Bacharach がその曲に合った Bacharach らしい味付けを行ったのではないかと考えています。
その後も Carole Bayer Sager との共同作業が続き、私生活においても1982年に2人は結婚。1980年代、こうやって"新しいバカラック・メロディ"が聴こえてくるようになります。
Please Let Go (Burt Bacharach-Hal David ) / Stephanie Mills (1975)
1975年、Stephanie Mills のアルバム『For The First Time』から。アルバムのラストBurt Bacharach としては珍しく Motown Records からリリースされました。アルバムプロデュースを Burt Bacharach と Hal David で担当、これが実質的に Hal David との最後の作品になります。1960年代の Burt Bacharach のサウンドの雰囲気を色濃く残しています。
I Don't Need You Anymore (Burt Bacharach-Paul Anka) From "Together?" / Jackie DeShannon (1980)
I've Got My Mind Made Up (Burt Bacharach-Paul Anka) 〜 I Don't Need You Anymore (Reprise) (Burt Bacharach-Paul Anka) From "Together?" / Michael McDonald 〜 Jackie DeShannon (1980)
1979年の映画『Together?』のために作られたアルバムから2曲。Paul Anka と共同でプロデュースを行っています。楽曲制作もPaul Anka との共作です。本作品にはボーカルに旧知の Jackie DeShannon、The Doobie Brothers の Michael McDonald、Donald Fagen の奥様でもあったシンガーソングライターの Libby Titus が参加しています。1980年代、この時代に合わせ、よりコンテンポラリーな音に仕上げ、新しいバカラック・メロディを感じ取ることができます。
Stronger Than Before (Carole Bayer Sager-Burt Bacharach-Bruce Roberts) / Carole Bayer Sager (1981)
Carole Bayer Sager の1981年のサードアルバム『Sometimes Late at Night』から。Carole Bayer Sager 名義のアルバムですが、Burt Bacharach のニューアルバムとして語られても良いアルバムです。この曲は 2人とBruce Roberts との共作曲で、Bruce Roberts もバックボーカルで参加。David Foster がアレンジを担当。ギターには Jay Graydon と Lee Ritenour と当時、人気の高かったミュージシャン達で占められています。
Just Friends (Carole Bayer Sager-Burt Bacharach) / Carole Bayer Sager & Michael Jackson (1981)
引き続き、サードアルバム『Sometimes Late at Night』から。この曲は Michael Jackson とのデュエット曲。かつて Michael Jackson の1979年のアルバム『Off the Wall』に楽曲を提供した縁でデュエットに参加したんだろうと思います。このアルバム、楽曲間がストリングスやホーンで繋がれたりして、Bacharach らしい箇所も多く見られます。
Making Love (Carole Bayer Sager-Burt Bacharach-Bruce Roberts) From "MAKING LOVE" / Roberta Flack (1982)
1982年、映画『MAKING LOVE』の主題歌。Roberta Flack が歌いました。にちに Roberta Flackのアルバム『I'm The One』にも収録されました。Richard Tee (Piano) 、Lee Ritenour (Guitar) が参加。この曲も Bruce Roberts とのコラボ作品。
Maybe (Carole Bayer Sager-Burt Bacharach-Marvin Hamlisch) /· Peabo Bryson and· Roberta Flack (1983)
1983年にリリースされた Roberta Flack と Peabo Bryson のデュエットアルバム『Born To Love』収録曲。この曲は Marvin Hamlisch とのコラボ作品です。これも2人らしいしっとりとしたバラード曲。
Sleep With Me Tonight (Carole Bayer Sager-Burt Bacharach-Neil Diamond) / Patti LaBelle (1986)
1986年の Patti LaBelle のアルバム『Winner In You』収録曲。この曲は Neil Diamond との共作曲となります。Burt Bacharach のアレンジとピアノに David Foster がシンセサイザーで加わっています。
Love Light (Burt Bacharach-Carole Bayer Sager) / Barbra Streisand (1988)
1988年、Barbra Streisand のアルバム『Till I Loved You』収録曲。間奏に1960年代の Burt Bacharach を想起させるようなトランペット・ソロが登場しますが、Chuck Findley が吹いています。
Close to You (Burt Bacharach-Hal David) 〜 Be Aware (Burt Bacharach-Hal David) / Barbra Streisand and Burt Bacharach (Singer Presents Burt Bacharach、1971)
最後にBarbra Streisand の歌唱でもう一度この曲 "を。
1971年、Barbra Streisand がテレビ番組『Singer Presents Burt Bacharach』で、Barbra Streisand と共演した映像が現存しています。曲目は 2人で "Close To You" を歌っています。後半は第7回のラストに取り上げた "Be Aware"。その実際に放送されたものがこれになります。
(富田英伸)