新しい輝きを放つカバー
2023.08.13
White Rabbit
Molly Tuttle & Golden Highway
(2023)
いろいろなカバーソングを耳にするとき、そのカバーされた歌が新しい輝きを放つ時に出会うことがあります。歌が生まれ変わるというと、語弊があり、評言に戸惑いを感じるかもしれませんが、そういうことを実感することがあります。
最近、それを感じたのは、Molly Tuttle & Golden Highway がカバーした "White Rabbit" です。
今さら、"White Rabbit" について説明するまでもないのですが、1967年、当時、アメリカの西海岸で生まれたサイケデリック・ロックの代表的なバンドの Jefferson Airplane の "Somebody To Love" に続くヒット曲が "White Rabbit" でした。
この曲は、バンドの女性リード・ヴォーカルの Grace Slick 自身のペンになります。ルイス・キャロルの児童文学の『不思議の国のアリス』から題材を得たことも有名です。シンプルなドラムのリズムとギターをバックに Grace Slick の独特な歌唱により、当時のサイケデリックのイメージを負って記憶されている方も多いと思います。
Molly Tuttle は、ブルーグラス・ミュージックの女性歌手であり、ギターリストとして2枚のアルバムをリリースしています。その彼女が4人のミュージシャンたちから成る Golden Highway と組み、リリースした "Crooked Time" が2023年のグラミー賞をベスト・ブルーグラス・アルバム部門で受賞し、7月には彼らの2枚目のアルバム "City Of Gold" をリリースしたばかりです。
配信リリースされた "White Rabbit" は、Molly Tuttle のストレートな凛としたヴォーカル、そして Golden Highway の奏でるバンジョー、ベース、フィドル、マンドリンのそれぞれの音色から21世紀のサイケデリックなムードを漂わせ、歌に新しい輝きを放っているという印象を受けました。
最近、女性カントリー歌手の Margo Price が "White Rabbit" をライブで歌っている映像も YouTube を通して見ました。こちらはオリジナルを忠実に歌っていました。"White Rabbit" という歌がロック・スタンダードとしていろいろなミュージシャンたちに歌われるごとに新しい輝きを放ち、歌い継がれている歌であるのだということを私は感じました。
(伊東 潔)