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シュガー・ベイブ「風の世界」と『ガンバの冒険』〜1975年のこと

2025.03.06
風の世界

風の世界

シュガー・ベイブ

(1975)

今日は1975年のことを。

僕が初めてシュガー・ベイブを聴いたのは、1975年で、NHKFMのローカル番組だったと思います。当時、NHKFMの夕方の6時台というのは、その地方局独自に制作されたかなり自由度の高いものでした。当時のディスクジョッキーの個人の趣味嗜好が出た番組だったと思います。そのディスクジョッキーは女性の方でしたが、荒井由実さん、吉田美奈子さん、小坂忠さん、石川セリさん、ティンパンアレイ関連関係のものをよくかけていました。そこで聴いたのが、シュガー・ベイブの "DOWN TOWN"でした。その回をしっかりエアチックして何度も何度も聴きました。当時はレコードをほとんど買えなかったので、エアチェックしたものを聴き、シュガー・ベイブのアルバム『SONGS』を全編通して聴いたのはずっと後のことです。

このようにシュガー・ベイブで一番最初に聴いたのは "DOWN TOWN" になりますが、次に聴いたのが 今回取り上げる "風の世界" となります。今日はその話を。


大貫さんの"風の世界" はシュガー・ベイブで2番目に聴いた曲と書きましたが、当時はほとんど無意識。ただこの曲が流れたテレビアニメ『ガンバの冒険』、その回はよく覚えていて、今でも心に残っています。

シュガー・ベイブのアルバム『SONGS』が発売になったのが1975年4月。テレビアニメ『ガンバの冒険』の放送が始まったのも1975年4月で同時期。シングル「DOWN TOWN ⁄ いつも通り」 はすぐにリリースされて、僕同様、この曲でシュガー・ベイブを知った人は多かったと思います。ただアルバム『SONGS』を聴いた人はまだ限られていたはずで、今考えると『ガンバの冒険』で "風の世界" を取り上げていたのは驚きです。

"風の世界"が取り上げられた、テレビアニメ『ガンバの冒険』の1975年7月14日放送の15話「鷹にさらわれたガンバ」を振り返ってみたいと思います。簡単にあらすじを。


ガンバたちは寒い中、山を登り始める。しかし疲れて果てて岩の上で寝てしまい、そこをタカが襲いガンバだけを連れ去る。ガンバは高いの木の巣の中に放り込まれ、タカとの戦いを抜け出そうとするガンバ。雨が降り出す。雷が巣に落ち、ガンバは投げ出される。ケガをしたガンバは燃える林の中。土に潜り、火が消えるのを待ったガンバは必死に山小屋へ這っていく。その山小屋には男が1人、ラジオを聴いている。男はガンバのキズの手当てをし、温かい食事を与える。回復したガンバは山頂を目指して、山小屋を飛び出していく。


これまでの回も"人間"が登場したことがありましたが、大男でほとんどグレー色=影のように描かれ、ネズミにとって巨大で恐ろしいものとして描かれていました。この回では、うっすら顔も描かれており、孤独だけど精細で優しい若者ということが伝わってきます。その男がラジオで聴いている曲が "風の世界" 。

これまでのガンバはアニメ的に擬人化され、野沢雅子さんのアテ声で元気よく表現されているのですが、この回の山小屋のシーンだけは今までと違い、ガンバは1匹のケガをした"ネズミ"として描かれ、ただ「チューチュー」と鳴いているだけ。ガンバは人間側からみた1匹の動物ネズミとして描かれています。ガンバをこのように描かれているのはこの回だけです。全回を通して唯一、人間と交流するシーン。とても印象に残る回となりました。


どういった経緯でテレビアニメ『ガンバの冒険』の中で "風の世界" が取り上げられたのが、ディレクターを務められた故出崎統さん始め、関係者が少なくなって来ている今、一度聞いてみたいものです。


風の世界 (大貫妙子) / シュガーベイブ (スタジオライブ)




* テレビアニメ『ガンバの冒険』の1975年7月14日放送の15話「鷹にさらわれたガンバ」より、シュガー・ベイブ「風の世界」を聴いている男



(富田英伸)