1978年、日本のポップス界にまだまだ女性が少ないなか、さっそうとデビューしたのが竹内まりやだった。デビュー当時はまだ慶応大学の学生で、アメリカでの1年間のホームステイがちょっとしたキャッチ・フレーズになっていたことを覚えている。音楽的なイメージはアメリカ西海岸。その頃はちょうど「ウェスト・コースト」という言葉がとてもおしゃれに響いている時代だった。
このデビュー・アルバム『Beginning』は、レコード会社としても力が入っていたようで、当時まだ少なかったアメリカでの録音も含まれている。ミュージシャンもそうそうたるメンバーが参加しており、豪華な作家陣もアルバムをバラエティに富んだ内容にしている。まりやのデビューの立役者といった存在感の林哲司をはじめ「目覚め(Waking
Up Alone)」、「ムーンライト・ホールド・ミー・タイト」を提供した杉真理。杉はまりやとは大学時代の先輩後輩でいっしょにバンドもやっていた旧知の仲である。いつも可愛いらしいドリーミーなメロディ・ラインが印象的。センチメンタル・シティ・ロマンスのリーダー、告井延隆は「ジャスト・フレンド」、「サンタモニカ・ハイウェイ」の二曲を提供している。センチの持つウェスト・コースト・サウンドの雰囲気が当時のまりやのテイストに合っていたようだ。そのほかシングル・デビュー曲でもある「戻っておいで・私の時間」「おかしな二人」でしゃれたセンスを発揮している加藤和彦や高橋ユキヒロ・細野晴臣コンビ、大貫妙子のカヴァーなどに混じって、現在の夫君、山下達郎もサングラスをかけないと眩しいほどロマンチックな「夏の恋人」を提供。詩も達郎が書いたヘ信じられない雰囲気である。アレンジは60年代を中心に活躍したアメリカン・ポップスを代表するアレンジャー、Al
Capps が担当している。そして最後に収められている「すてきなヒットソング(My Hit Songs)」はまりや自身の作詩・作曲で、昔からまりやが好きだった60年代アメリカン・ポップスの曲名がたくさんちりめばれている小品。当時、まりやが本格的なシンガーソングライターに変身するとは思いもよらなかったものである。(富田英伸)
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