81年に音楽活動を休止し結婚。若く華やかな「アイドル」であったまりやは、3年の時間を経てMOONレーベルに移籍。移籍後の第1弾として、それまでとは違った彼女自身を世に放った。言わば第2のデビュー作品。
彼女の永遠のアイドルである、ビートルズのことを歌う「マージービートで唄わせて」、恋に怯え拠り所を失った女心を描く「プラスティック・ラヴ」。NY録音のバック・ボーカルと彼女の唄が英語詩の中に溶け合う「Broken
Heart」、ライブはなくてもステージ上のロックの歌姫に会いにいける「アンフィシアターの夜」、カントリーあり、ボサノバあり、なんでもありの、まさにバラエティに富んだすべて彼女自身の作詞・作曲によるアルバム。それまで彼女のストックに封印されていた秀作が、82年4月に結婚した夫、山下達郎のプロデュースにより水を得て、これまで聴く側が知り得なかった、ひょっとすると本人すら気づかなかった多面体の彼女自身を逆に照射していく。更には「本気でオンリーユー」での坂本龍一のパイプ・オルガンの前での誓いや、「ふたりはステディ」(この曲は山下の「ドーナッツ・ソング」とペアで聴くと面白い)での、外野席の雑音など全く構わぬその間柄に嫉妬する女性山下フアンも少なからずいるとは思うが、何よりも本作の仕上りの良さに、今や夫婦の鑑とも言われる互いを尊敬し合う山下・竹内夫妻の源泉を感じる。
そして、何と言っても1曲目。「もう一度」は大人の男女の心のすき間や機微を女性の主観から描いており、その後の彼女の詩の世界の幕開けとも言える。そしてこの中で唄う”輝いていたころの私に再び戻って”というくだりは、ミュージシャンとしての自分を再確認し、音楽活動へ”もう一度”踏み切る自分自身を見つめて出てきた、確固たる力強ささえ感させる言葉。
今も褪色しないアレンジとともに私にとってのまりやのベストチューンだ。この一作から始まる『Variety』を抜きにしてその後のまりやの活動は語り得ない。
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