1977年5月『CircusTown』からわずか半年足らずで発表された『Spacy』は前作制作時にアメリカで学んだ全てをつぎ込んで作られた、初セルフ・プロデュース作品である。
"地味"と評されることが多いが1曲目の「Love Space」で無限の宇宙のかなたへ連れて行かれたなら、もうこのアルバムから逃れられない。そのまま空を漂って戻ってくる頃には、地上はたそがれ、恋人たちの時間だ。ブレイク後"夏だ、海だ"と言われるようになる達郎の作品だが、実は"夜"を歌ったものがとても多い。青い月の光に照らされた恋人同士の白い肩を、甘く語る夜の世界。そして街の片隅で光るナイフと、雨に打たれて立ちつくす孤独を歌う達郎の音楽は私の心を強くとらえて離さない。
初期のこういった都会観は多分に吉田美奈子の詞の世界の比重が大きいと思われるが、そこに透明感を与えているのが、若い達郎の柔らかい声と、彼自身にしか作れない唯一無比のメロディーである。まだ未熟な感じは否めないが、達郎の"やりたい音楽をやる"というはっきりした主張の感じられるこのアルバムは『Go
Ahead!』と並んで私の達郎愛聴盤の一枚である。それまでの洋楽・邦楽のどれとも違う"達郎の世界"がここにははっきりと、ある。松木恒秀、細野晴臣、佐藤博、村上秀一らの強力なサポート・メンバーに加えて98年冬に短い生涯を終えた大村憲司のギター・ソロを「Solid
Slider」で聴くことができる。(岡本 恵) |