『A Christmas Gift For You From Phil Spector』
Rhino RNCD 70235
1963/1987 CD
 20世紀の終わり。最後に紹介するレコードが文字通りこの世紀の名盤と相成りました。
 ロックンロールのクリスマス・レコードの傑作として歴史に名を残す、Phil Spector のクリスマス・アルバムです。私などは、この時期やはり一度は必ずかけてしまう定番中の定番。
 スタンダードなクリスマス・ソングの多くをロックンロールのリズムに乗せて成功した最初の例として知られているだけでなく、スペクター・サウンドの一つの完成形がみてとれるアルバムとしても有名。多用されるパーカッションやエコーのバランスもクリスマスの雰囲気によく合っています。ウォール・オブ・サウンドのゴージャスなスタイルがとてもよく似合うんですよね。クリスマスを祝うアルバムとしての雰囲気がとにかく楽しい。
 Darlene Love、The Ronettes、Bob B. Soxx And The Blue Jeans、The Crystals とフィレスのオールスターが登場していますが、それでもあくまでアルバム・タイトルは『A Christmas Gift For You From Phil Spector』とプロデューサーがここまで前面に出てくるアルバムも珍しいですね。Spector がプロデューサーとしてのエゴ丸出しで大顰蹙だったとか。しかしそんな制作側の事情なんてどうでも良くなってしまうぐらいの楽曲のきらめき。

 このアルバムは年に一度このシーズンに必ず引っぱり出してきて聴きます。いずれにせよ Spector の"ポップスであること"への飽くなきこだわりと上昇志向が歴史の試練に耐え普遍的な輝きを残しうる、こんなにも楽しいアルバムを作り上げたのです。
 「ポップスは楽しい」ということ、だからクリスマスにこのアルバムがぴったりだと言うこと。Spector は大きなジレンマに悩みながらもこんな当たり前のことを残したのですね。
 クリスマスは楽しい。ポップスは楽しい。
 どうぞ楽しいクリスマスを。Walkin' in the Winter Wonderland!



  Doo-Wop の世界でもクリスマスを題材にした歌はもちろん歌われていますが、その数は決して多くはないそうです。それらの一つひとつを探し回るのは大変な労力だと思われますが、一挙に20曲を集めたクリスマス・コンピレーションが P-VINE から出ています。歴史の彼方に埋もれていた曲達がこういう形で手軽に楽しめるのはとても良いことです。そう言えば Rhino からは好評の『Doo-Wop Box』シリーズの3が最近出ており、Doo-Wop は静かに息の長いブームとなっているようです。
 Doo-Wop の時代よりもさらに遡ること1948年のレース・ミュージック然とした、冒頭を飾るThe Ravens の「White Christmas」と「Silent Night」のスタンダード2曲はベース・パートの Jimmy Ricks が何ともジャジーでムード満点の出来です。そのほかThe Orioles、The Dominos、The Penguins、The Falcons ら15グループが神聖なクリスマスの夜を甘くダンディズムたっぷりに彩っていきます。
 このアルバムの中でもとりわけ好きなのが The Coolbreezers という無名のグループの「Let Christmas Ring」。リード・ヴォーカリストは歌が非常にうまく情緒もあってクリスマスにぴったりのバラッドに仕上がっています。
達郎さんもカヴァーした The Moonglows の「Just A Lonely Christmas」ももちろん収録されています。オールドタイムなエコーの奥行きがぐっとロマンチックなこのオリジナルもその雰囲気を堪能できます。
 R&B のクリスマス・ソングはとてもゴスペル・タッチ。とりわけ Doo-Wop のようなコーラスはプリミティブなだけによけいに教会音楽の敬虔さを感じさせるものがあります。
 Doo-Wop でクリスマスの夜をしっとりと過ごすのもゆっくりと落ち着けていいでしょうね。


(脇元和征)

『Doo-Wop Christmas』
P-VINE PCD-1618
1988 CD





Copyright (c) circustown.net 1999 - 2000, All Right Reserved.