Think Of Rain
Claudine Longet
1967 A&M 909 / Single
 窓越しに頬づえをついて空を見上げては、いつまでもやまない雨にため息をついている。その上目遣いの表情までもが見えてきそうな、Claudine Longet のか細いつぶやき。ここに降るのは細く長い雨。

 この曲は Spanky & Our Gang の「Sunday Mornin'」の作曲者としても知られる、シンガーソング・ライター Margo Guryan の小品。繊細なタッチは「Sunday Mornin'」にも通じるものがあります。
 おなじみ Tommy LiPuma がプロデュースを、Nick DeCaro がアレンジを手がけています。ストリートオルガンのようなイントロが印象的。全体を支配する柔かな雰囲気は他の彼女の作品と同じ肌触りです。その肌触りは彼女がフランス人であることもありどこかヨーロッパ的。

 当時のA&Mはこうしたソフトで当たり障りのないイージーリスニング然とした作品群をレーベルカラーとしていたようで、彼女のようなウィスパー・ボイスはA&Mにとってうってつけのキャラクターだったようです。
 スキャンダラスな事件に巻き込まれたことでショービズの世界からは退いてしまった彼女ですが、その妖精のような甘い歌声は輝きを失うことなくレコードに刻み込まれています。


(脇元和征)



バカンスはいつも雨
杉真理
1982 CBSソニー 07SH1224 / シングル
 雨は雨でもじめじめと不快感を感じる雨ではなくて、さーっと降り去っていくスコールのように、爽快感を伴った雨もあります。そんな午後の一降りの後には必ず雲の切れ間から溢れんばかりの陽光が降り注ぐ。

 杉真理の音楽はまさにそんなスコールのような心地よさを提供してくれます。彼の音楽を聴くといつも十代のころの思い出のいくつかがたまらなくノスタルジックに思い返されてきます。
 この曲は1982年、ナイアガラ・トライアングルでのコラボレーションで大きな収穫を得た彼が、精力的に活動を始めたころに出されたヒット・シングルでこの翌年にはこの曲を収めた『Stargazer』をリリースします。このアルバムからは「内気なジュリエット」、「素敵なサマー・デイズ」と相次いでシングル・カットされ、続く『Mistone』の充実した内容と相まって、初期杉真理のマスターピースと言っていい内容になっています。

 大滝詠一、佐野元春という稀有な才能にめぐりあえたことでお得意のブリティッシュ・サウンドだけでなくアメリカン・ポップスのエッセンスをも無理なく、杉流にふんだんに取り入れた音楽は、新しいのにどこか懐かしい、鼻腔の奥に甘い柑橘系の香りが漂ってくるような気がします。
 さて、南の地方都市に住んでいた十代の僕は、この曲のようにぎこちなく彼女をデートに誘っては、やっぱりタイミング悪く雨に降られてデートもままならず空を見上げて雨を呪ったものでした。あのころ大事だった赤いギンガム・チェックのシャツとリーバイスとローカットのコンバース。それらと同じように杉真理の音楽はほのかな甘さを伴って僕の心の中を通り過ぎていくのです。そう、雨も悪くないもんだなと。

(脇元和征)

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