雨のステラ
伊藤銀次
1982 Polystar 7P-48 / シングル
 中学、高校とナイアガラ・ファミリーを聴き漁っていた時、最も自分に近い感性を感じ親しみを抱いていたのが伊藤銀次でした。当時凄い勢いでリリースされていたポリスターのアルバム群は本当によく聴いたもので、特に 『Baby Blue』と『Sugar Boy Blues』は何回聴いたか分かりません。この時代は"ADULT KIDS"なるキャッチ・フレーズと共に、とにかくロマンティックな曲を量産していた時期。当時のインタビューで彼はこんなことを言っています。「大滝さんと達郎くんとの違いを出そうと思った時に、僕はガキっぽいからおもちゃ箱の気持ちを持った中年の姿を頭の中で作ったのね。プロデューサーの銀次がそういうイメージを作り上げて、歌手の銀次がそれを演じるというね」
 そうして出来上がった「傷付きやすい少年の感性を綴った切ない歌詞を、甘酸っぱい60'sのメロディにのせて歌う」という世界感は、『Baby Blue』から1stシングルであるこの「雨のステラ」にもしっかり受け継がれています。

"街は冷めたグレイ 誰もいないストリート
雨に溶けてく君…遠くなるブルーカーディガン"

 雨の日に人はよくフラれるのか、大滝詠一「バチェラー・ガール」にも通じる歌詞が切ないです。ちなみにナイアガラ系の歌詞にはカーディガンを着た女性が多く登場します。松田聖子には「黄色いカーディガン」(松本隆作詞/細野晴臣作曲)という名曲がありますし、達郎さんの「片想い」にもピンクのカーディガンを着た女性が登場しますよね。(この歌詞を読んだ女友達は「そりゃ、ピンクのカーディガンなどを着た女は男を平気でふるわ」という名言を吐きました)
 話が逸れましたが(笑)この曲は歌詞も逸品ながら、やはりメロディが最高です。銀次さんはThe Beatlesの曲の中で「If I Fell」が一番好きだと言っていますが、「明るさの中から滲み出てくる悲しさみたいなものの魅力」という点で「雨のステラ」と「If I Fell」には共通点があると思うのです。超ポップな曲よりもちょっと翳りがあった方が僕は好きなんだなと、教えてくれた曲でもありました。晴れの日の間にそっとやってくる雨の日の存在のように。
 本人曰く「もう僕はこういう曲は作れないのか、なんて思ってしまう程、気に入ってる曲」だそうです。


(高瀬康一)



Here Cones That Rany Day Feeling Again(雨のフィーリング)
The Fortunes
1971 Capitol CR-2830 / シングル
 高校の時にシリア・ポールがDJをしていたラジオ番組で、70年代の日本でヒットした曲ばかりをかけた特集がありました。なぜかたまたまエア・チェックをしたのですが選曲があまりにも自分好みだったので、以来そのテープは宝物となりました。曲をざっと紹介すると…

 Love Grows (Where My Rosemary Grows) /
 Edison Lighthouse
 No Matter What / Badfinger
 Hello It's Me / Todd Rundgren
 American Tune / Paul Simon
 Oh, Babe, What Would You Say? /
 Hurricane Smith
 Jazz Man / Carole King
 Oh, Lori / Alessi
 Brother Louie / Stories
 Swearin' to God / Frankie Valli

 今思えばスゴいポップ・センスの選曲ですよね。誰が選曲していたか知りませんが80年代にこの選曲は渋いです。で、今回紹介するThe Fortunesの「Here Cones That Rany Day Feeling Again」もこの特集でかかって、一発で気に入ってしまったのです。

 The Fortunesはイギリスはバーミンガム出身の5人組で、63年のデビュー当時はマージー・ビート然とした楽曲が多かったようですが、65年の「You've Got Your Troubles」のヒット辺りからコーラスを主体にしたポップ・グループに変貌していきます。この曲を書いたのがイギリスの名門ソングライター・チームRoger CookとRoger Greenawayのコンビで、更にTony Macaulayを加えた3人で共作された発展系と言えるのがこの「Here Cones That Rany Day Feeling Again」です。このメンツで悪いわけないっすね。全米15位、日本でも「雨のフィーリング」という邦題でヒットし、この曲でThe Fortunesを知ったという方も多かったようです。日本盤シングルは時代を感じさせる暗〜いジャケットですが、米キャピトル盤は車の濡れたフロントガラスに花束が置いてあるというシャレたものでした。
 個人的にちょっと憂鬱な雨の日の朝を、そんなに悪くないかもと思わせてくれる数少ないナンバーです。

(高瀬康一)

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