校内放送、いわゆる小学校の掃除の時間にかかるインストの音楽であります。この繰り返しくりかえし聞かされた習慣が非常に強烈な音楽体験となっていたのではと思うことしばし。そもそも礼拝に通うとか、シーズン・コンサートに行くとかいう習慣がない私のような者にとって、こういった音楽は何気に季節を感じさせてくれる、というか強引に季節と共に脳裏に割り込んできて困ることがあるやっかいな存在です。
その中で冬の王様は「スケーターズワルツ」。氷上をすーいすぃと滑るような例の旋律に合わせて、モップがけなんて記憶をお持ちの方も多いと思いますが、実は立派なワルツの名曲です。時代は19世紀後半のパリ。作曲のEmile Waldteufel(ワルトトイフェル、1837-1915)はフランスのストラスブール生まれ、ピアノのセールスなどをしながら音楽を学び、ついにはナポレオンIII世妃ウージェニーのピアノの先生に、そしてパリの宮廷音楽家となります。この時ウィーンではヨハン・シュトラウスUのいわゆるウィンナワルツが大変流行していたのですが、かたやパリでも「スケーターズワルツ」がフランス・ワルツを代表することになります。
この曲はオーケストラのものが比較的入手が容易ですが、紹介のCDはピアノ演奏になります。どちらも8分あまりの演奏時間で曲の構成は同じ。ブンチャッチャ♪ブンチャッチャの華麗なオケもいいのですが、ピアノ版の方がピアニストである作者の意図をよく伝えると思います。全編を聞くと、あの有名な旋律の他にいくつかのワルツが組まれているのですが、他のワルツ旋律の記憶はありません。ぼくらが校内放送で聞いていたのは、どんな演奏だったのか?パリ発のワルツが日本でどうやってここまでのポピュラリティーを獲得したのかに興味が尽きません。