Christmas Vacation
Mavis Staples
1989 Paisley Park PRO-S-3878 / Single
 1989年に製作・公開された『クリスマス・バケーション』という映画をご存知でしょうか。『Saturday Night Live』出身の Chevy Chase が主演をつとめたこのファミリー・コメディ映画、おバカな展開を予感させるプロローグのアニメーションや、そのお下劣でハチャメチャなストーリーがお約束の大団円を迎えるエンディングで、主題歌の「Christmas Vacation」がじつに効果的に使われていました。シャン・シャン・シャン・シャンというスレイ・ベル(橇の鈴)の刻むリズム・パターンを下敷きに、教会の鐘を想わせるサンプリング音によって心浮き立つメロディが奏でられ、そこへ、張りのある女性の歌声が、ための効いたドラムと絶妙に噛みあいながら、弾けるように続きます。

 さあ クリスマスがやってきた

 一年で一番楽しい時だよ

 聞こえる? サンタの乗ったソリの音が

 それ行け クリスマスの休暇だ

  (水野佳彦訳・日本版字幕より)

 この「Christmas Vacation」は、現在では、「Ultimate Christmas Album 3: 3WS Pittsburgh」(Collectables 1010663)に収められ、綺羅星のごとき他の収録曲とならんで、クリスマス・ソングの定番の地位を獲得しつつあるようです。それもそのはず、作詞・作曲は、『アメリカ物語』の主題歌「Somewhere Out There」で、1987年度グラミー賞の2部門を、James Horner とともに受賞した Cynthia Weil と Barry Mann、歌うは、Staple Singers のリード・シンガーを永らくつとめた Mavis Staples と、クリスマス映画の主題歌としてはまさに定石通りの取り合わせだったのです。

 しかし、Mavis Staples は、Prince の設立した Paisley Park と1988年に契約、1990年には彼の作曲・プロデュース作品でブラック/R&Bチャートをにぎわせており、その合間に、Prince とは無関係の映画の主題歌を彼女が吹き込んでいたということは、かなり異例のことでした。それにもまして異例だったのは、ユダヤ系アメリカ人の Barry Mann と Cynthia Weil が、彼らにとっては異教の祝祭にかかわる楽曲の制作に携わったという点です。類例としては、Bill Medley などがとりあげた「Peace Brother Peace」を挙げられますが、それとて、コール・アンド・レスポンスやゴスペルの常套句などは聞かれても、イエスへの信仰や讃美はもとより、語根としてでさえ、"Christ"という言葉すら聞き取れないのですから、やはり、「Christmas Vacation」は、彼らの作品群の中では特異な作品と位置づけられましょう。
 はたして、永年第一線で数多の依頼を請け負ってきた職人としての矜持のなさしめたものであったのか、それとも・・・と、「Christmas Vacation」成立の経緯について、あれこれ推理を働かせるのも一興ですが、まあ、それはそれとして、クリスマスには、クリスマス・ソングのニュー・スタンダードともいうべきこの曲を聴いてウキウキしたり、ついでに、湿度0パーセントのギャグ満載の『クリスマス・バケーション』をヴィデオで観てゲラゲラ笑ったりして、陽気に過ごすことにしましょう。

(T.M)



Winter Time
Steve Miller Band
1977/1996 " Book Of Dreams " Capitol 46476 / CD
 2002年のカレンダーもあと残り1枚になり、これからがまさに冬本番の寒さを迎えます。冬の歌というと、ポップス・ファンの頭にピーンとくるのは、Simon & Garfunkelの「冬の散歩道」じゃないでしょうか。次となると、クリスマス・ソング以外ではなかなか思い浮かばないのですが、'70年代に入ってからの冬の歌というと有名ではないですが、私にはこの曲が浮かんでくるんです。
 '60年代後半に、Jefferson Airplane、Grateful Dead、Quicksilver Messenger Service、Moby Grape など、ニュー・ロック、サイケデリック・ロックのグループらとともに登場してきた Steve Miller Band は当初Boz Scaggs が参加していた白人ブルースをべ−スにしたバンドでした。'70年代に入って、Steve Miller のヴォーカルとタイトでキレのいいギターに、シンセサイザーの音を加えてスペーシィなサウンドに「変身」しました(Steve Millerのギター&ヴォーカル、Lonnie Turnerのベース、Gary Mallaberのドラムス)。
 「Winter Time」はヒット曲「Jet Airliner」、「Swingtown」を含む'77年の『Book Of Dreams』に入ってるバラード作品。雪の吹きすさぶ光景を思わせるイントロのシンセサイザーの音(邦題「冬将軍」とつけた洋楽ディレクター氏はするどい)に、アコースティック・ギター、ハーモニカ、エレキ・シタールの音がかぶさり、Steve Miller のヴォ−カル、特に"I'm Callin/Hear Me Callin/Hear Me Callin"のフレーズが冬の嵐の中での静謐なムードを盛り上げます。
 Steve Miller のヴォーカルは、このようなバラードでも、また前述した「Jet Airliner」、「Swingtown」などのアップテンポ、「Joker」のように軟体動物のようなのらりくらりした(?)ものでも歌いこなせる魅力があります。同期の Elvin Biship や Boz Scaggs にも言えることかもしれません。

(伊東潔)

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