Coventry Carol
Kenny Loggins
1998 " December " SME Records SRCS8773 / CD
 クリスマスの日を家族だけで祝うようになったのは、子どもが生まれてから。
 日ごろの手抜きを反省して、この日だけは気合を入れてローストチキンやシチュー、ケーキを作り、テーブルクロスも替え、それらしいBGMを選びます。
 Kenny Loggins といえば近年は映画のサウンド・トラックのヒットが多かったり、子どもたちに親しまれるアルバムを出していたり。でもわたしにとっては Loggins & Messina の Kenny であり『Nightwatch』の Kenny。正直に言うと、最近のアルバムには手がのびなかったのです。でも、3年前にたまたま手にとったこのアルバムは、家族と共に、あるいは家族を思いながら聴いていただくとその良さが際立つ気がするハートウォーミングな一枚です。
 控えめで優しい Kenny のヴォーカルはちろちろ燃える暖炉の火のようです。そして聴き終わったあとに、今年もつつがなくクリスマスを祝うことができた幸せが、じんわりこみ上げてくるでしょう。
 わたしにとって一番思い出に残るクリスマスは、もうずいぶん昔のことになりましたがニューヨークで迎えたクリスマスでしょうか。
 新婚旅行でニューヨークに1週間滞在、着いたのが24日。レストランを予約する時間もなくて(あっても多分どこも一杯だったでしょう)、ガイドブックに小さく乗っていた「La Bonne Soupe」というお店に飛び込んだら、ここが大当たり。赤と白のギンガムチェックのテーブルクロスがかわいい家庭的なレストランで、寒いニューヨークの夜にあつあつのスープをはじめとしておいしい料理に舌鼓を打ちました。ふう、満足。

 お腹を満たして、5番街を歩きました。街頭のイルミネーションの美しさ、ロックフェラーセンターのクリスマスツリーに目を奪われながら進むと、いつのまにかセント・パトリック教会の前に。ちょうどクリスマス礼拝の時間だったので、参加しました。
 人種もさまざま、身なりもさまざまなたくさんの人たちが、皆祈っていました。老いも若きも一心に祈る姿は、日本では見たことがありませんでした。クリスマスはキリストの生誕を祝い、この日を無事に迎えたことに感謝し、日ごろのわが身を悔い改める日。そして家族とともに祈り、過ごす日なんですね。当たり前のことなんだけど、そのころはそんなこと考えもしなかった。彼と過ごす、友達と騒ぐ、一年で最大のイベントだったんですから、おちゃらけてましたよねぇ。
 「Coventry Carol」は古くからある賛美歌のひとつです。タイトルは知らなくても聴けばああ、と思われるでしょう。コーラスに David Crosby と Graham Nash が参加していて、絶妙なハーモニーを聴かせてくれます。クリスマスソングの定番(「The Christmas Song」、「White Christmas」など)も、Kenny のオリジナルも、どれも静かに心に沁みます。全曲に Kenny 本人のコメントが付記されていて、それも素敵なんですよ。ルックスは相変わらずかっこいいし、しばらくぶりに会った昔の彼に惚れ直した心境です(笑)。

(なかのみどり)



もみの木
吉田美奈子
2002 " BELLS Special Edition " avex io 10CD-20041
 数多くのクリスマスを歌った歌の中で、最近最も心がふるえた曲をご紹介します。幻のアルバムと言われ、高値で出まわってしまったことも再発の一要素となったと聞く吉田美奈子さんの『BELLS Special Edition』(2002年10月9日発売)。このアルバムに新録で加えられた「もみの木」という曲です。
 この曲は、1996年の塩谷哲さんと佐藤竹善さんのユニット Salt&Sugar のシングル『DIARY』に収められており、ファンの間では名曲の誉れ高く、何人もの歌い手に歌われています。美奈子さんもご自身のライブでは以前から歌っていた曲です。
 この季節になると聴きたくなる美奈子さんの曲って多くて、今回のレビューに際して美奈子さんで行こうと決めたものの、どれにしようかと迷っておりました。最終的に「もみの木」を選んだ最大の理由は、この曲の詞がわたしにとっては忘れられない出来事と結びついてしまったからでした。
 7年前のクリスマスイブの朝、わたしのたったひとりの甥っ子が亡くなりました。突然のことで両親(弟夫妻)やわたしの家族はショックと悲しみで呆然となり、特に両親たちにとっては長い苦しみの時間が始まりました。それ以来、クリスマスは2歳にも満たないで旅立ってしまった彼のことを偲ぶ日でもあります。
 「もみの木」を聴いていると、賛美歌を聴いているような気持ちになります。詞はとても普遍性の高いもので、これからずっと歌い継がれていく曲となるでしょう。倉田信雄さんのピアノが歌を引き立たせています。どうぞ一度お聴きいただきたいと思います。

(なかのみどり)

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