古今東西、これほど不穏な気配が漂うクリスマス・ソングはあまり記憶にありません。ドラム、ピアノ、チューバ、ウッドベースが奏でるスローなビートの上に重厚なストリングとホーンが被るイントロは、聖夜をテーマにした曲にしては重め。歌詞に目をやれば、「砂漠に水をやる」、「永久凍土」、「嘲笑う大人」、「孤独の深さ」と憂鬱な気持ちにさせるフレーズが目白押しで、まさにハッピー・クリスマスに背を向けた情景が展開されています。にも関わらず、なぜか私はこの曲に胸を打たれてしまうのです。
日本の若手(といってもすでに三十路)ミュージシャンの中では珍しいほど職人作家的な音楽世界を最初から確立していた堀込兄弟。彼らの音楽を強引に一言で表現すると「通好みポップス」ということになるのでしょうけど、彼らがダイレクトに影響を受けた Steely Dan、Burt Bacharach、Beach Boys など「通好み」な先達が抱えていた「通俗性」をも継承しようと奮闘しているのは頼もしいところ。そういう意味では彼らの比較対象としてはっぴいえんどやシュガーベイブと共にオフコースの名が挙がっていたのは個人的には賛辞に思えます
しかしこれほど豊かなポップセンスに恵まれながらも今一つビッグヒットに結びつかないのは、歌いこなすにはやや複雑で懲りまくったメロディーの所為というよりは、常に醒めた視点を感じさせる詞により聞き手が距離感を感じるからなのでしょうか。特に兄の堀込高樹によるシニカルで多義的で毒気を帯びた歌詞は強烈です。彼のように架空のドラマを題材にし、歌い手が当事者なのか傍観者なのかわからない歌を書く人というと、私は真っ先に Randy Newman を連想します。詞だけを追うと残酷だったり冷ややかに感じられるものが、彼が紡ぎ出すメロディーと一体となり、歌として歌われた時に今までに無い世界が浮かび上がってきます。これは Randy Newman の楽曲とも共通する堀込高樹作品の大きな魅力の一つだと思います。そして、これに堀込泰行の柔らかい声と、今をときめく冨田恵一の華麗なアレンジメントが揃った時に生まれるマジックは唯一無二で何物にも替え難いものがあります。